34.双子を探せ③
三毛は目の前の人物とスマートフォンの写真を何度も見比べてみた。
最初はまさかと思ったが、どうやら間違いなさそうだ。
「ずっと会いたかったんです! 握手してください!」
実在しないんじゃないかとまで考えていた相手だ。握手もしたくなる。
「いえ、フェンリーです……」
何一つ非はないのだが、なされるがまま両手を揺さぶられていたフェンリ―は申し訳なさそうにしている。
否定されてもなお三毛は引き下がってくれない。スマートフォンのフェンリーとフェンリーの実体を交互に見て、不可思議そうに眉を寄せている。
「こんなにそっくりなのに?」
「本人なので……」
押し問答になりそうなところで、麗央と緩太が早足に近づいてくるのが見えた。フォンファの姿はなかったが、今のフェンリーにはほっとする瞬間だ。
「不発かー」
緩太が「うーーーーむ」と唸る。
手分けして探し始める前、15分後に教会前の通りで集合するという約束を交わしてあった。短時間とはいえ4人がかりだから、この付近はしっかりと捜索できているはずだ。
「俺は見つけたと思ったんだけどなー。ファーじゃなくてリーだった」
いつものように三毛が勝手な呼び名を決めている。
「あはは、写真と全く同じ人を探したんだ」
麗央の鋭い読みに三毛が照れ笑いを返す。せめて苦笑いでは、とフェンリーは思ったが、それは胸の中にしまっておいた。
「まさか探す相手のそっくりさんが混じってるなんて。なんかそういう本あったよね」
思い出せない三毛の代わりに麗央が「あれでしょ!」と声を高くした。
「楳図かずおをさがせ!」
「じゃあそれ!」
「そんな和風な名前だっけ?」
緩太が首をひねる。違うような、合っているような。微妙な違和感を払拭することができずにいた。
麗央は傾いた緩太の頭を両手で元に戻し、
「そうじゃない? 日本の本屋で買ったよ」
「あー。じゃあ合ってるな」
緩太は平常心を取り戻した。
「えーと、それじゃまた15分楳図かずおを探そう」
三毛が出発の号令をかける寸前でフェンリーがストップをかける。
「待って! そんな名前じゃない!」
悲鳴にも近い叫びだった。
「そうだった。ファーじゃなくてリーを探すんだった」
「もうー! それも逆!」
すがるような目で緩太を見ても、小さく首を横に振られるだけだった。フェンリーは次に麗央に助けを求めようとするが、彼女は教会をじっと見つめている。
「ねね!」
何か閃いたのか、麗央がキュッと首の向きを変えた。
「灯台下暗しってやつじゃない? 教会の中にいるかも!」
ないとは言えない。4人は教会の中へ入っていった。
小さな村に見合うシンプルな礼拝堂に、静かに祈りを捧げる姿がまばらに映る。奥に立つ司祭が三毛たちに気付き温和な表情で歩み寄ってきた。
「5分、いや3分でいいんで! やりましょう! 私たちと一緒に女神様に祈りましょう!」
思ったより軽かった。
「女神って……ゼニス?」
「たぶん」
三毛と緩太のやりとりを聞いた司祭は苦笑いで否定する。
「いえいえ、女神様に名前はありませんし、定まった姿もないのです。ただ、確かにいるのです。いつでも私たちを見守っています」
司祭の言葉を三毛たちは感心しきりで聞いていた。正確には、ゼニスに対して感心していた。
「先生、ちゃんと慕われてたんだね」
「姿がバレてないおかげだな」
「たしかにー!」
麗央がケラケラと笑う。すかさず司祭が「お静かに」と優しく制した。
「女神様は静謐を好まれます」
司祭も最初うるさかったような。3人は言葉を飲み込んだ。残りの一人、麗央は真っ向から反論する。
「賑やかなほうが神様も喜ぶと思うなー。神様大好きいぃいい! ってアピールするの。尻尾振り回しながら全力で飛び込んでくる犬みたいに」
言いながらフェンリーの尻尾をふりふりさせてみた。
司祭はその尻尾の動きを追いながら、家で買っている猟犬を思い浮かべる。毎日帰宅するたびに喜びを爆殺させて懐に飛び込んでくる愛犬。何度アバラを折ったことか。
「それはものすごく可愛がりたくなりますね。ロペス! ギターをひいてくれ!」
「あいよー」
祈りを捧げていたロペスは傍らに置いたギターを持ち上げ、足を組んで素早く構える。
「……聞いてくれっ」
「歌はいらん」
ロペスは慟哭した。ギターで。
「うおおおおーっっ!」
「んっひょーーうっ!」
激しく体を揺さぶる村人や三毛たち。
司祭は上半身裸で講壇を激しく叩き鳴らし、ロペスは激情に身を任せてギターを一心不乱に引き続けている。一同の奇声もあいまって、かつて礼拝堂と呼ばれた場所は悪魔の棲み処に変貌している。
「何しにきたんだっけー?」
大粒の汗を流す三毛が大声で隣のフェンリーに尋ねる。フェンリーもリズミカルな動作を崩さぬまま三毛の耳元で大きく答えた。
「フォンファを探しにー!」
「そうだったー! フォンファー! いるーーー?」
「フォオオオオオ!!」
「ファアアアアア!!」
返事はあったが、いないようだ。
◇
「この付近にもいませんねーー」
ターコイズがふよふよと下降してくる。
三毛たちが教会を去ってから数分後、烈火たちも教会前にやってきた。
「フェーンリーーッ」
フォンファが大きな声を扇状に響かせる。それから両耳に神経を集中させるが、期待するような気配は感じられなかった。
その代わり、およそ冗談とは思えない口調の独り言が耳に入り込んでくる。
「ギルドに戻って賞金首にしたほうが早く見つかるかもな」
「だめ! 生きてるフェンリーに会いたいの」
名案だと思っていたセレスティナは肩をすくめた。顔を背けるようにして視線をずらすと教会の入口が目に留まる。
「ちょっと見てくる」
教会を指して3人に伝えると、ゼニスがくすぐったそうに微笑みだした。
「えへへー。私の教徒さんたちですので、意地悪しちゃだめですよー」
「へぇ。何教?」
「フリューゲル教です。世界に、愛を」
愛を振りまく仕草を即興で披露するゼニス。セレスティナは興味なさそうに「へぇ」と繰り返した。
「冬に消滅しそうな名前」
ポツリと捨て台詞を残して教会に向かって歩き出す。後ろではゼニスがびーびー泣いている。
教会に入っていったセレスティナだったが、ものの数秒で出てきてしまった。
あまりの早さに3人は軽く混乱してしまう。
取り込み中だったのかな? そう思った烈火が尋ねてみる。
「祈ってた?」
「踊ってた」
3人はますます混乱した。




