32.双子を探せ①
昼食を終えた三毛と麗央、緩太の3人が路地を並んで歩いている。
麗央はご満悦だったようで舌をちらりと覗かせているが、三毛は険しい顔つきだ。緩太が心配すると、待っていましたと言わんばかりにまくしたてた。
「今日のあっさりシチュー、めちゃ濃厚だった! あっさりの気分だったのにあんまりだよ!」
それを聞いた途端麗央が笑いだす。
「あはははは! 三毛ー、あれはあっさりシチューじゃないよー」
「だよね。こってりシチューだった」
「じゃなくて、三毛が注文したのは『あさりシチュー』。あっさりシチューなんてメニューになかったよ。ね、うえぽん」
緩太も静かに頷いている。行き場を失った三毛の怒りはあっさり霧散してしまった。
「それであさり入ってたのかー」
と言ってもあさりは一口も食べていない。あさり嫌いな三毛は一つ残らず緩太に押し付けたから、結局は普通のシチューを食べていただけだった。
「割高なシチューだったなー……」
「今度は薄めのシチューって言ってみたら?」
麗央の提案に乗り気になる三毛だったが、緩太が神妙な顔で遮った。
「それは俺が前にやった。うるめの干物をぶちこまれるからやめたほうがいい」
「うえぽんやったんだー!」
おかしそうに笑った後で麗央が首をひねりだす。
「だったらー、さっぱりシチューだと何がくるんだ?」
さっぱりさっぱりと繰り返し、やがて
「さっぱ……さっぽ? 札幌シチュー!!」
大当たりを引いたように吠え出した。
「札幌かー。何入ってるかなー。カニとか、ジンギスカンでラム肉入りとか」
ちょっと良さげだ。三毛がニコニコ顔で想像を膨らませている。
またしても緩太が神妙な顔を作った。
「札幌はないだろ……」
そういえばここは異世界だったと気づき始めた頃、3人はキョロキョロと辺りを見渡している獣人の娘が目についた。正確には、ふわふわと揺れる尻尾についつい視線が引き寄せられてしまうのだ。
あのせかせかとした動作は探し物で間違いないだろうが、眼鏡ということはなさそうだ。
「聞いてみようかな」
声をかけてみようと三毛が近づいてくることにも全く気が付いていない。圏外から眼鏡の鼻パッドを顔を覗かせる。
「何か探し物? 眼鏡?」
「ひゃ!?」
探し物に夢中で油断していた娘は大きな耳をびくりと震わせた。三毛の姿を確認したあと、ようやく話しかけられた内容が頭の中で整理される。
「あ、や。フェンリーは眼鏡してないから……」
眼鏡は静かに圏外へと沈んでいった。
「フェンリーって言うの? 俺は三毛」
自己紹介はスキップモードで済ませてしまい、
「探し物手伝うよ、俺たち入れれば3倍くらいは早くなると思う」
三毛はそう言って麗央と緩太を紹介する。フェンリーと名乗った娘は、「こんにちは……」と歯切れの悪い返事を返した。
(あれ? 4人になるから……4倍じゃないの……? どういうこと……?)
内心はそんな疑問でいっぱいだ。
協力の申し入れに関してはフェンリーは少しばかり考えた。
相手の三毛たちは自分と同じくらいの年齢だろうという印象は警戒感を薄めてくれたが、なにせ初対面だ。
(路地裏に誘い込まれて炭鉱の深くに監禁されたあと垂れ耳に矯正させられるかも。ごはんは……できたら肉多め野菜少なめ)
テープで耳を固定される姿を想像し、フェンリーは耳の代わりに冷や汗を垂らす。この年齢から耳を矯正するなんてとても無理だ。
「行くよ!!」
「はい?!」
絶望に支配されるフェンリーを麗央が強引に手繰り寄せていた。
「どっから探すー?」
まだ探し物が何かもわかっていないのに、麗央はフェンリーを引き連れたままフリーダムにあちこち観察している。
「なに探せばいいんだっけ?」
やっと気づいたようだ。
至近距離から視線を合わせられ、気圧されたフェンリーはすんなりと答えてしまった。
「フォンファ……双子の姉とはぐれちゃってて……。双子だから見た目はフェンリーそのままって感じなんだけど、今日どこかで見覚えある?」
麗央はフェンリーをぐるりと周って、それから記憶を手繰ってみる。
「ない! たぶん!!」
たぶん、に力を込めた。
見ていないだろうという答えは三毛も同様で、緩太だけはちょっと違った。
「あさりの記憶しかない」
ヒト型でもなければ、生きてすらいない。
「何を探すかわかったし、ちゃっちゃと探しちゃおぉぉおお」
「おーっ!」
見知らぬ相手が探し人だとしても双子のもう片方だと言うならやりようはある。
3人はスマートフォンを取り出し、正面と後ろ、それに横からも写真を撮った。同じ顔を探せば済むのだから、特徴だけを聞いて探すのとは大違いだ。
けっこう楽に終わるんじゃないのか? と緩太も楽観的な気分でいる。
「で、どこにいるの?」
三毛はさっそく正解を聞き出した。
「え……? わからない……です……」
そう答えるしかなくてフェンリーが弱り顔をする。わかっていたら探す必要がないのだから。
という常識が通じる相手でもない。
「場所がわからないと探しようがないよ!」
「落ち着け三毛」
一理あると思いながらも、緩太が易しくルールを説明し直した。
「どこにいるかわからない人を探すんだよ」
そのままじゃないか、とフェンリーは内心思ったが三毛は納得した様子だ。
「やるぞー!」
三毛たちはゲーム気分で人探しに繰り出した。




