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31.みんなでハッピーバースデー

「こんにちはー、あら。あららら」

 ギルドに入ってきた客を見るや、雪祭が目を丸くした。

「ええ。こんにちは?」

 グリナドエルが訝し気に目を細め、その横ではドゥレがやはり同じような顔で雪祭を凝視した。

 二人の視線はまるきり無理して雪祭はスマホで素早くメッセージを入力する。それから間もなく、あちこち電子音が短く鳴った。



「ちょっと席を外さないと、ごめんね」

 別の客に応対中だった烈火が急いで受付コーナーの奥へ消えていく。

 他の場所で作業していた生徒たちが続々と集まってくるのを、グリナドエルや他の冒険者たちは不気味そうに見守るしかない。

 やがて、2階の階段に人影が現れた。


「ハッピバ~スデ~トゥユ~♪

 ハッピバ~スデ~トゥユ~♪」


 ご機嫌なパーディー帽子を被った三毛だ。折紙で作ったブーケと厳かな歌声を携えて一歩一歩階段を下りてくる。

 冒険者たちが凍ったように三毛を見ている隙に、パーティー帽子をダース単位で抱えてきた烈火が素早く一人一人の頭をデコレーションしていった。


「ハッピバ~スデ~ ディア……」

 溜める三毛と、息をのむ冒険者たち。


「……」

「……」


「グリナドエル~~♪」


 グリナドエルは真っ先に玄関へ向かったが、既にオリバーとリッキーがしっかりとドアの前を塞いでいる。トンガリ帽子は装着済みで、三毛に合わせて「ハッピバ~スデ~トゥ……ユゥ~~♪」と上機嫌にほほ笑んでくれた。


「くっ……」

 歯ぎしりするグリナドエルにギルドスタッフたちから盛大な拍手が送られる。他の冒険者たちも仕方なく追随し、ドゥレは途方にくれるばかりだ。


「ちょっと前まではこれくらいだったのに、今じゃもうこんなに大きくなったのね」

 雪祭が淋しそうに笑いながらグリナドエルの頭とパーティー帽子の先端を順に指した。

「それはトンガリ帽子のせいでしょ」

「だめだよグリナドエル! こんな茶番の相手してちゃ……ぐふっ」

 緩太のボディブローを受けてドゥレは跪いた。



 静かに歩いていた三毛がようやくグリナドエルの前にやってくる。

「今月誕生日ですね」

 晴々した顔で言う。祝われる側は曇り空だ。

「あいつタイミング悪ぃな」

 後ろのほうでグリナドエルを笑う声。三毛はスッとその方向に顔を向ける。

「セム、来月誕生日ですね」

 微笑する三毛。

 セムは下を向いた。


 三毛はささやかなプレゼントとして折紙のブーケを手渡す。

 物珍しさもあり、この時ばかりはグリナドエルも、そしてドゥレも僅かに頬を緩めているように見えた。

 改めて拍手が沸き起こり、ついついドゥレも一緒になって「おめでとう!!」と声を張り上げてしまう。


「それではグリから一言」

「えぇ?」

「なっ!? 気安くグリなんて! 僕のこの首輪が見えないっていうのか!」

「もちろん、突然一言と言われても困ってしまうのはわかります」

 三毛にしては気が利いている。ドゥレの抗議に関しては聞こえないふりを決め込んだ。

「なので、ここにいるみんなで記念撮影しよう!」

「あの写真てやつ?」

 グリナドエルとドゥレが冒険者一覧の掲示をチラリと見る。二人はだいぶ前から冒険者として登録しているため、まだ写真を撮ったことがない。何をするのか想像がつかず混乱気味だ。


「グリナドエルを真ん中にして集合ーっ! みんなだよ!」

 麗央が真っ先にグリナドエルに駆け寄り、大きなジェスチャーで周りを呼び込む。軽い足取りと重い足取りの面々に分かれたが、一人残らずグリナドエルの傍に集合した。

「私撮りたあぁぁあい!」

 麗央が軽快に階段を駆け上り、2階への手すりにスマホスタンドをセットして全員がうまく収まるよう角度を調整する。

「あああああ! めっっちゃいい感じ!」

「みんな麗央が持ってる四角いやつを見るようにねー」

 カメラを知らない者のために琥太郎が左右を見ながらフォローする。

「タイマーはどれくらい?」

「10秒で行く!」

 麗央はスマホの最終チェックを済ませ、セルフタイマーを設定する。

「みんな、私が『イチ』って言ったら帽子を上に放り投げるように! いくぞおぉおお」

 それからカウントダウンを大きく発しながら飛び跳ねるようにして階段を下り始めた。


「ほら麗央こっち!」

 猛ダッシュしてきた麗央を雪祭が引っ張り寄せる。この時点で麗央のカウントはまだ「5」。しっかり間に合った。


「4!」


「3!」


「イチッ!」

「え? あ?」


「投げろおぉぉおお!」


「うおーーっ!」

「そりゃー!」

「これでいいのかああーー!?」

「誕生日おーめーでーとーっ」


 麗央たちが放つ気迫の波に流されて冒険者たちも歓声とともにトンガリ帽子を上空に投げ捨てる。


 色とりどりの帽子が宙を舞い、その下ではグリナドエルたちがそれぞれに花を咲かせていた。

 そして、その重なりが最も美しくなった瞬間にスマートフォンはクールにシャッター音を鳴らしたのだった。



  ◇



 グリナドエルとドゥレは依頼を探しに来ていたこともすっかり忘れ、俯きながら帰路についていた。

 ふたりは印刷された記念写真に視線を落としていて、その表情を見ればネガティブな理由で俯いているのではないとすぐにわかる。

「写真かぁ。よくわからないけど、大したものね」

「ほんとだねー。それに、こんなに人がいっぱいいるのにグリナドエルが一番可愛いすぎて紙から浮き出してるよ! はぁ可愛い……」

「はいはい」

「でもまぁ、なんか疲れるからもういいかな……」

「同感ね……」


 翌日にふたりは改めて依頼を探しにギルドを訪れるのだが、他の冒険者の誕生日イベントが発生してしまい二日連続でトンガリ帽子を被ることになった。


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