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30.ゼニスは世界を見守りたい

「これから社会奉仕活動をやるのでギルドはお休みにします!」


 雪祭の宣言により、本日のギルドは開始一時間で突然の営業終了を迎えた。

 ざわつきだす冒険者たちは強引に外へと押し出され、しかし帰ることも許されない。待ち構えていたリッキーと満の誘導により、皆その場に整列待機させられてしまう。

「奉仕って俺らも?」

 一人が他を代表して純粋な疑問を投げかけるも、

「じゃあ今年誕生日があるやつ以外は帰っていいぞ」

 リッキーから寛大なご処置を賜り恐縮するしかない。


「あのー」

「ん? 先生どうかした?」

 セレスティナが足を止める。声をかけてきたのはゼニスだった。

「どういうことなんでしょうか」

 ゼニスの質問には二つの意味あった。

 一つ目は、どうして急に奉仕活動をやることになったのか。

 二つ目は、なぜ自分も冒険者と一緒に並ばされているのか、ということだ。

 突然のことで戸惑うのも無理はない。セレスティナは二度小さく頷いてからその答えを提示した。

「ギルドだって村の一員なんだから当然だろ」

 そして有無を言わさず小さなゴミ袋を手渡す。他の冒険者にも同じように手渡しながら、そのままセレスティナはゼニスの元から去って行ってしまった。


「みんな準備おっけー? それじゃ美化活動にしゅっぱーつ! ゴミをたくさん拾いましょう」

 麗央が全体に掛け声を浴びせ、一同は行進を始める。

「まぁ……これも村の盛り上げのためですね」

 ゼニスも気持ちを切り替えて元気よく歩き出した。



  ◇



「この村、綺麗だね」

 残念そうな口調がセリフの内容と全くかみ合っていない。琥太郎は積極的にゴミを探してはいるが、ゴミ袋はなかなかふっくらしてくれなかった。

「ペットボトルなんて全然落ちてないし」

「ペットボトルがないからですよ……」

「じゃあペットボトルロケットどうやって作ってるんだろう」

「さあ……どうするんでしょうね……」

 琥太郎は答えの出ない迷宮に入り込んでしまう。そのまま取り込まれてしまうのかと思いきや、「まーいっか」の一言であっさりとその迷宮から這い出てきた。

「せめて大物拾いたいなー、廃タイヤとか」

「それもないと思いますけど……。小さな紙屑とかは時々落ちてますよ」

 大物狙いの琥太郎には視界に映っていないのだろう。ゼニスは足元の紙屑を拾い上げた。


 美化活動の一団は特にコースも定めず、先頭の麗央の気まぐれで村のあちこちを巡っていく。広場の入り口に差し掛かったころ、その広場の一角に何やら人だかりができているのが目に入った。

 何事だろうと近づいてみると村人たちが血相を変えて体を震わせている。


「ならず者だ! ならず者が出たぞ!」

「この村にならず者が?!」

「来てしまったのね……」


 三毛たちはショックを受けた顔で

「俺たちは美化活動中なのに!」

「拾ったゴミが少なすぎたんだ……」

 一団は互いに支えあいながら涙を流す。ゼニスとターコイズは黙って少し距離を置いた。


「ああ、ギルドの方々じゃないですか。いや、あの。ならず者が来たんですよ、ええ」

 村人より騒がしい三毛たちに気が付いて人だかりからやってきたのは村長のヤルビー。ならず者は美化活動の一団ではなく、いきなり馬車で広場に乗り込んできた連中ということだった。


「いや、とうとうならず者ですよ、この村もだいぶ出入りする人が増えてきたっちゅうことですね」

 なんだかヤルビーは嬉しそうだ。よく見れば人だかりの面々も「これで一人前の村だな」なんて誇らしそうにしている。

「まぁまぁ、そうは言ってもですね。出て行ってもらわないと困るんですよ」

 ヤルビーの言うことはもっともだ。

 こうしている間にもならず者たちは屋台から食べ物を強奪したりと好き勝手しているらしい。ならず者に襲われたという実績作りのために村も大人しくしていたが、そろそろなんとかしなければならないのだ。


 三毛たちは人だかりの中にずいずいと入っていく。

 そこから数十メートル先に年季の入った馬車が止まっていて、その前では10人程のいかにもガラの悪い男たちがたむろしている。奪った串焼きや野菜、果物を食い散らかしてはいるが、食事バランスには気を遣っているようだ。


 セレスティナがそれらを一瞥した後、つまらなそうにため息を落とす。横にいたゼニスに向かって乗り気になれそうもないことを伝えた。

「社会のゴミも拾うのか?」

「こらこら、背中にリサイクルマークのタトゥーがないかチェックしてからですよ」

 本心ではそうは思っていないのだが。それからゼニスは琥太郎を手招きした。

「琥太郎さん、よかったじゃないですか。大物ですよ!」

 ゼニスがサムズアップをするが当の本人はつれない様子だ。

「先生。ああいうのは小物って言うんだよ」

「……」

「ま、せっかくの大物だし。先生に譲るよ!」

「え……私?!」

 意地悪などではなく純粋な思いからのセリフだけに余計タチが悪い。


「理不尽な暴力ももまたヒトの営みです。あんな怖そうな人に立ち向かうなんてとても……いえ、私が肩入れするわけにはいきません」

 できるだけ堂々と振舞えっておけばそれなりに見えるはず。そんな勝算で屁理屈を述べてみたのだが、誰にも響かなかった。逆に、

「この村を盛り上げたいんでしょ?」

 と琥太郎から諭されてしまう。少しはぐだぐだ抵抗したものの、諦めてならず者たちの前へ足を踏み出した。



「突然すみません、ちょっといいですか?」

「いや、ずっと待ってたぜ」

 予想外に優しい言葉が返ってきたのでゼニスのほうが驚いてまう。

 ならず者たちはずっとゼニスを待ちわびていた。

 なにせ5歩進んでは立ち止まったり、3歩後ろに下がったり。一向にやってこないので相当気をもみながら注視していたのだ。


 とにかく、ゼニスにしてみれば歓迎されたようなものだから気持ちも楽になる。

「見送りに来ました! それではお気を付けて帰れ……お帰りください!」

「やっぱりそれか」

 ならず者が大きく頭を振る。

「女一人に言われたところで素直に帰ると思うか?」

「えっ……、私そんな可愛い女の子に見えちゃいます? えーちょっと……恥ずかしい……! やだー?」

「言ってねえ。おい誰か! このくそ女引き取れ!!」

 ならず者の怒鳴り声にターコイズがすっ飛んできて、ゼニスを後ろに引き戻していった。



「一人じゃだめだそうです」

 出来の悪い伝言ゲームみたいなことをゼニスは言い出す。

 竜星はあれこれ考えを巡らせ、雪祭やリッキーたちと話し合った後で号令をかけた。

「美化活動のメンバーは整列ー!」

 まっすぐ横一列に整列できたことを確認すると、端から端まで歩いて各自にこの後の運びを伝えていく。


「いきます! せーーのっ」


「おかえりください!!」

 全員の声が空にこだまする。


「うるっせえ!!」

 負けないくらいの声量が返ってきた。


「えー? 違うの?」

 雪祭が抗議の目でならず者たちを睨みつける。

「もしかしたら、横じゃないのかもしれませんね」

 今度はゼニスが一団に指示を与え、縦一列に並ばせた。

「スタートします!」


 まずは先頭の三毛。小走りでならず者たちの前に向かう。

「帰ってください!」

 そして列の最後尾に走り去っていった。


 続いてターコイズ、ヤルビー、緩太、ゼニスとリレーのように駆けていく。

「帰ってくださいーー」

「まぁまぁ、あの、すんません。帰ってもらっていいですか」

「あー? なんだっけ?」

「私ってそんなに可愛いです? えへへ」


「こいつらマジでバカの集まりだな」

 初めこそ薄ら笑いを浮かべていたならず者たち。

 だんだんと笑顔が引きつり、30人まではなんとか我慢できている。

 喉も乾くでしょうと村人から差し入れられたハーブティーがなければとっくに発狂していたに違いない。


「くそが……いつ終わるんだよこれ」

 悪態をつく間も刺客は次々に駆け足でやってくる。ポーズ機能はない。


「私ってそんなに可愛いですか? あの、ちなみにですけど、どういうところが一番可愛いって思いました?」


「……ん?」

 そして気が付いてしまう。二巡目に入っていることに。



「終わらねえんじゃねえのか?」

「そこまでバカじゃねえだろ」

「でもバカ活動メンバーとか言ってなかったか?」

「……まじかよ」

 ならず者たちは急に寒気を感じてしまい、帰り支度に取り掛かる。その間も帰ってください攻撃が止む気配はない。むしろ病んでいる。


「2周目ペースいいよ! ベストレコード目指そう!」

 向こうの連中はどうやら目的が変わっているようだ。


「ん、帰るの?」


 新しいセリフを聞いて、思わずならず者たちが視線を揃える。

 満が半分だるそうに、もう半分は不思議そうな顔で立っていた。

「ああ。帰る。また来るって言いたいとこだが、こんなクソ村もう来ねえよ」

「まじで?」

 もう来ないと言われるのも心外だったが、去る者は追わず。

 満は制服のポケットからお金を取り出してならず者に向かって投げ渡した。

「それで美味いものでも食いな。20000レグはある。どうせお前らからくすねておいた金だから気にすんな」

「こんな大金いいのか。悪いな」


 ならず者たちは馬車に乗り込んで広場から、そして村から去っていった。

 その後オリバーが木陰からひょっこり顔を出して、馬車の中で偶然拾った粗大ごみを引っ張り出す。

 大きな木箱にはお金がぎっしりと詰まっていた。


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