28.オリバーにおまかせ!
ギルドの営業時間を終えた後、オリバーとゼニス、そしてターコイズの3人が大きな段ボールを連れまわして2階のあちこちを移動している。
気になった満がしばらく観察を続けていたが、さながら尾行中の刑事といった顔つきだ。
1階でもそうしていたように、ターコイズが白い箱型の機械を壁の高い位置に設置している。そんな場所にわざわざ取り付ける物など世の中にそう多くはない。
「ドリームキャストか時限爆弾だな」
しかしオリバーはセガ派だっただろうか。
「そもそも生まれる前だしなぁ……」
時限爆弾で間違いない。
「しかたない……」
自分にまだ正義感が残っていることに驚きながら、満はオリバーたちの蛮行を思い止まらせるため立ち上がった。
「オリバー……」
「おー、満」
無意識に若干の敵意が混じった声色で呼び止めてしまったがオリバーは幸い気づかなかったようだ。
もしかしたら早とちりかもしれない。願望にも似た思いが頭をよぎり、一縷の望みをかける。
「あのさ。オリバーってセガ派だっけ?」
「セガ派……?」
オリバーは頭を少し傾ける。
そして、ふふっと笑った。
「満、ハード戦争はとっくの昔に終戦しただろ。セガ派なんてもういない」
「……!」
満の顔がみるみる強張り、それは少しずつ鬼神へと変貌していった。
「勝ったやつらにはそうだろうな……! でもな……でもそういうんじゃねえんだよぉ……」
「み、満……。セガ派だったのか……」
絶句するオリバー。
ゼニスとターコイズは傍観を決め込んでいる。
満は深く息を吸い込み、「セ~ガ~」とサウンドロゴを吐いて気持ちをリセットした。
「いや、まあいい。セガ派じゃないってことは、俺の予想は当たってたってことだしな」
「予想?」
「オリバーやめとけ、そんなことしても解決しないぞ」
「まあ待ってて」
オリバーは段ボールから白い爆弾を取り出し、それをターコイズに手渡していく。
「みんな楽になるんだから!」
「だろうな……」
やはり爆弾だ。校舎もろとも爆破するつもりでいる。一体何がそうまでさせるのかという満の悲しみは、やがて怒りへと変貌していった。
「先生もターコイズもなんで止めてくれないんだよお!」
「だ、だってどうしても買ってきてほしいって言うので……」
「ターコイズは高いところに浮いて作業できるので、手伝ってほしいって言われましたーー」
ゼニスとターコイズは得意げな表情だ。純粋にオリバーの手伝いを楽しんでいた。
神とその使いだから、きっと爆発くらいではなんともないのだろう。満は悔しさで唇をぎゅっと噛みしめる。
「ばかやろお……。二人とも何の手伝いしてるかわかってんのか?」
「はい、無線LANのアクセスポイントを各階に設置してますーー」
「見ての通り、校舎内に無線LAN環境を構築中なんです。あとでパスワードをお知らせしますね。ノートPCをサーバーとして用意してありますので、みなさんが撮影した写真なんかを共有フォルダで管理できますよ。それにスマホで仕事上のメモを取ったりもしてますよね。ちょっとしたノウハウとかもサーバーに保存しておけば情報共有できて便利だと思います。オリバーさんが簡易掲示板を作ってくれたので、グループチャットの代用として使ってください」
「お、おう……」
満の頭は爆破された。
◇
その夜、ラウンジこと3-Dの教室でオリバーは無線LAN環境が整ったことを皆に説明し、さっそくそれぞれが接続設定を行った。
「接続中のアイコン久しぶりに見た!」
「ついにギルドもオンライン対応かぁー」
ただ、環境整備がオリバーの目的というわけではない。
「テクノロジーは目的じゃない、手段だ」
オリバーは各自で撮影した冒険者の記念写真データをサーバへアップロードするよう皆に頼んだ。
「いいよー」
「私けっこうあるよ!」
何をするつもりなのかは誰も聞かなかった。そのほうがおもしろいから。
写真の総数は多かったが生徒のスマホで分散されていたこともあり、サーバーへのアップロードは比較的短時間で終えることができた。
次の準備として、オリバーはゼニスにプリンタを要望する。校舎内の各部屋はゼニスが基本空っぽにしていたが、教官室に複合機が置いてあったはずだからそれを召喚すれば済む。
複合機は元の設置場所である3階教官室に出してもらい、オリバーはノートPCで1時間ほど印刷の準備を黙々と行う。それが終わると、ぐぐっと背筋を伸ばしてから「よし! 印刷だ!」と元気にマウスをクリックした。
教官室に向かうオリバーに続いて満も教室を出ていく。
「俺も見に行く!」
「オッケー!」
意気揚々と教官室に乗り込む二人。複合機はもう何枚か出力済みで、軽快に仕事を進めている。
「印刷したら完了?」
「2アップ印刷だからこのあと半分に切りたい」
そこは人海戦術で、分担して地道にチョキチョキすればいい。ふたりはリズム良く吐き出される印刷用紙を見守っていく。
ギョルリロギャギャギャ
「……ジャムった」
カバーのあちこちを外し悪戦苦闘の末、蛇腹折りになった紙を投げ捨てる。
「もっかいだ!」
ギョルリロギャギャギャ
「……満。バット持ってきて」
「やめろ! テクノロジーは物理に弱い!」
「それが目的だ! だめっていうなら印刷の代わりに全部満に手描きしてもらう! 絵とか得意だろ!」
「そんなめんどくせーこと絶対やらねー!」
オリバーはもう拳一つで丸腰の複合機に挑むつもりだ。
フィジカル系のオリバーを自分一人で止められるわけがない。満は大声で緩太を呼ぶと、だるそうにしながらもすぐにやってきてくれた。
「どしたー?」
「見りゃわかるだろ!」
複合機に飛びかかろうとするオリバーと、それを必死に止めにかかる満。
「あいよ」
緩太は複合機をぶっ壊した。
◇
「なんだこれ。壁が顔だらけだ」
ユーインとエメリはさっきからずっとギルドの壁を凝視している。
壁には顔写真がずらりと掲示されていた。自身を含め見覚えのある顔が数多く並んでいる。写真の下には名前も記されていたので、それらが冒険者を写したものだとすぐにわかった。
釘付けになっているふたりに満が気づき、サボりがてら説明に寄ってみた。
「冒険者登録したときと昇格したときに記念撮影したやつですよ」
複合機は緩太に破壊されたものの、他の教官室にも設置してあったことが幸いして印刷が滞ることはなんとか免れていた。
エメリがユーインの写真がどこにあるか尋ねると、満は容易くその位置を指差した。最初のお客さんだから、一番目に貼りつけたのでよく覚えている。
満の指の先を追ったエメリは、次の瞬間腹を抱えて笑い転げだした。
「びゃはははは! ユンユンさんめっちゃ全力スマイルじゃないっすか! 何やってんすか!!」
「くそっ……生き恥だ……」
他の冒険者は普段通りの表情か、少し緊張した様子で写っているというのにユーインだけはコメディアンの一発ギャグ披露中かと見まがう出来栄えだ。
「ユンユン笑いすぎだって……」
「そっ……そんなこと言ったって……! くくくく……だめっすー! びゃひひひひ!」
そんなエメリの笑い声に誘われて、他の冒険者たちが群がってくる。
「おっ? なんだこりゃ。懸賞首か?」
「エメリの顔もあるぜ。おし、とりあえず仕留めちまおう」
目ざとく一瞬でエメリの写真を見つけてしまう。懸賞金が書かれてないぞ、という冷静な指摘もあったが、おそらく時価なのだろうという結論に落ち着いた。
「値段も付けられないほどの凶悪犯なんだろうな! 知らねえけどよ!」
使命感に燃えた冒険者たちが武器を構える。エメリは半泣きでユーインの後ろに隠れ、
「どうせならユンユンさんを先にやっちゃってください! 生き恥が死に恥になるだけっす!」
そっとその背を押した。
「やめろ俺だって無実だ!」
「ハッハー! 無実のヤツはみんなそう言うぜ!」
「ストップストップ!」
満がめんどくさそうにしながらも仲裁に入る。どかそうとして満の肩に手を伸ばした冒険者だったが、「倫子のボール空振りしてすっ転んだ時の写真に変えようか」と言われ直立不動で姿勢を正した。
「これは冒険者同士、お互いを知るためにオリバーが用意してくれたんだからな! それじゃ、みんな自分の紙を剥がしてきてくださーい」
言われるがまま、各自は自分の写真を壁から剥がしていく。そうすると今度は満からペンを手渡され、写真に自己紹介でも何でも好きなことを書くようにと迫られる。
ユーインたち以外も、写真を貼り出された冒険者たちはギルドに入るなりスタッフに身柄を確保され、わけも分からぬまま自分の写真にメッセージを書きこむことを強いられるのだった。
結果的にそれぞれの写真には個性的なメッセージが花を添えることになり、冒険者同士の交流に一役買うことになった。




