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24.ターコイズの浮かない日々

 表情のわかりづらい顔で宙を漂っているターコイズだが、その一日はとても忙しい。

 魔法を扱えない三毛たちの代わりに新規登録者の情報をギルド本部へ送ったり、ベランダで日光浴をしたり、睡眠は必要ないので夜間は校舎の見回りも引き受けている。あとはクッションとしてよく女子部屋に拉致される。


 この日も皆が就寝した後、夜の校舎をしっかりと巡回していた。

 防犯のためにフロアは昼夜関係なく明かりを点けているし、吹き抜け部分を上下に移動すれば1階から3階まで軽々見渡せるのだから、巡回と言う言葉ほど動き回ることはない。仮に外から不審者がやってきたとしても校舎に入る前にその気配を察知するくらいの能力も持っている。対処できるかはともかく。


 これまでのところ外部からの不審者は全くない。

 けれど、穏やかに日の出を迎えたことがあるかと言われればターコイズは間違いなくノーと答えるだろう。

 やっかいごとを外から持ち込む必要はないのだ。中にいくらでも潜んでいるから。



「ターコイズーッ」

 深夜1時という時刻も考慮したのだろう。トーンを落とした声が3階から降ってきた。1階にいたターコイズが上を向くと、三毛とオリバー、リッキー、それに竜星の顔。ギルドの業務中ではないため体育着姿だ。

(今日はこの4人ですか……)

 というのが最初の感想だった。

 ふよふよと上昇し、急ぐこともなく三毛たちの目前へと移動した。


「寝れないんだよね」

 三毛がやたら楽しそうにしている。寝たくないの間違いでは……とターコイズは内心訝しむ。

「暗闇かくれんぼはだめですよーー」

 全フロアを消灯してかくれんぼをしたことがあったが、騒ぎすぎて女子部屋から大層怒られた。それにオリバーは3階から落ちた。

「今日は大丈夫、外だから」

 三毛の言葉に余計不安を募らせるターコイズ。

「ま、とにかく外に出よう。早く!」

 オリバーは待ちきれないといった表情で階段を降りていく。他の3人も「ゎーぃ」と控えめの掛け声と共に続いていった。ターコイズは気持ちが沈むのと一緒に身体も沈ませていった。



 緑地に整列する4人。手にはスコップを持っていて、良からぬことが始まるということだけははっきりと理解できた。

「何をするんですか……?」

 聞きたいわけではないが、聞いてくれと4人の表情が物語っているので仕方ない。

「ここに穴を掘ります!」

 竜星が高らかに宣言し、三毛たちがパラパラと拍手して盛り上げる。

「うーん……落とし穴……?」

「いや、プール」

「ん?」

 リッキーの言葉に頭が空っぽになるターコイズ。もう一度聞いてみたが、リッキーはやはりプールと答えた。

「なぜプールを……?」

「寝れないから」

 三毛がくりんとした目で即答する。ターコイズはまた頭が空っぽになった。



「朝までにプールを作ってみんなを驚かせるぞーっ!」

「おーっ!」

 良いも悪いもなく、唐突にプール作りは開始されてしまった。

 一心不乱にスコップで地面をえぐっていく男子たち。ターコイズは猫車で掘り起こされた土をひたすら運ぶ。


 掘っては運び、掘っては運び、掘って掘って掘って……2時間ほどで20メートル四方の穴が出来上がってしまった。


「魔法で水出せる?」

 期待に満ちた面々。あとは仕上げを残すのみだから、前のめりになるのも頷ける。

 しかしターコイズは窮屈そうな表情を浮かべていて、

「できますけど……。でもここに水を入れても泥水になるだけですよーー……?」

 至極まっとうな意見をした。

 固まる4人。

「泥水しか出せないってこと?」

「違いますーー! 周りの土と混ざっちゃうってことですよーー」

「そうなの?!」

「あー。北半球と南半球で変わるやつだろ? 知ってる」

「絶えることのない争いで大地が汚れてんだよ……」

 衝撃を受ける三毛たち4人。ターコイズはこの穴どうするんだろうと淀んだ目でプール予定地を見つめている。

「泥水かぁ……」

 三毛が目を閉じること2秒。

「よしそれでいこう!」

「泥水にどろんでゴザル!」

 オリバーは憧れの忍者ジョークを口に出せてご満悦だ。

 そしてターコイズは全てに絶望した。


 4人は一斉にプールの中へ飛び込み、ターコイズに「準備オッケー!」と放水を催促する。

「じゃあいきますよーー……」

 この人たちはきっと深夜のテンションでおかしくなっているのだろう。ターコイズは諦めて彼らの言う通りにした。


 ターコイズの頭上から勢いよく水が注がれ、みるみるプールを満たしていく。

「すごー!」

「暗くて泥水かどうかわからない!」

「俺たち体育着脱いでないんだけど!」

 無邪気に笑う三毛たち。これに加担してしまって良かったのだろうかとターコイズは今更心配してしまう。

「そろそろ見回りに戻りますねーー……」

 さりげなく逃げようとするターコイズだったが、水中からリッキーが一気に跳躍、ターコイズをがっしりと確保する。

「ぎゃわーー!?」

「いくぜー!」

 リッキーはターコイズをきつく抱きしめたままプールに飛び込んでいく。

「主役が何言ってんだ! 一緒に遊ぶぞ!」

「水中プロレスやろう!」

「びええええええ」

 ターコイズは泥にまみれて泣いた。


 夜が明けると、女子グループの指示により5人は泣きながら埋め戻し作業を行うことになっていた。


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