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19.お仕事日和の雪祭

「おう、姉ちゃんいいか」

 バジーク・オルグレンは大きな体を揺らしてギルドに入るなり、ちょうど目の前を歩いていた雪祭に対してやや乱暴に声をかけた。それくらいで気を悪くする彼女でもなかったから、「はーい」と愛想よく返事をする。

「ソルジャースネークの営巣地を潰してきたぜ」

「完了報告ですねー」

 雪祭は1-Cの教室を指して回収物を運ぶよう促した。しかし、バジークはやや大げさにかぶりを振る。

「いやいや、姉ちゃんが来るんだよ」

「え?」

「巣が全部潰れたことを確認しなきゃいけないだろ」

 彼が受けた依頼内容は営巣地の破壊。目視確認でなければ依頼達成の判定ができないし、判定にはギルドスタッフが必要というわけだ。

「ヘビですよね?」

「生きてるのは残ってないから安心しろ」

「えー? こわーい?」

 さりげなく退こうとした雪祭の腕をバジークががっちりと掴む。

「規則なんだよ」

「それはギルド側に用意されたセリフですけど?!」

 非難したところでバジークに力を緩める気配はない。雪祭は降参した。

「喪服に着替えるから1年待って」

「……リューセー! こいつ借りてくぞ!」

 1秒も待ってもらえない。竜星は返事の代わりにいってらっしゃいの仕草で見送った。



  ◇



 バジークは自分の馬に雪祭を同乗させ、カプリ村から数十分ほど走らせる。

 初めて馬に跨った記念すべき日のはずだが、雪祭には何の感動もやってこない。「行きたくない」とぶつぶつ繰り返していた。


 やがて目的地点である荒地に到着し、馬から降りたバジークは誇らしげに周囲を見渡す。点在しているのは地面を浅く掘ったソルジャースネークの巣の跡。人の手で砕かれた卵やスネークの死骸もあちこち散らばっている。

「どうよ、見事なもんだろ」

「ほんと! 何もない!」

 雪祭も大満足。しかしバジークは不満顔だ。

「目を開けろ」

「潰し忘れた卵は?」

「ない」

「ヘビは?」

 バジークは少しだけ考え込む。

「ある」

「任務完了を確認しました」

 雪祭が無機質な声を発し、この件は無事終了だ。

 そんな雪祭の浅はかな企みは怒声によって打ち砕かれてしまった。

「ふざけんな目を開けろっつってんだろ!」

「開けたらヘビが見えるよね? ばかなの?」

 雪祭は両手で顔を覆い、ますます視界を固く閉ざしてしまう。

「ギルド職員に確認してもらわなきゃ困るんだよ、わかるだろ」

 とうとう諭すように語りかける。

 岩戸が開くことはなかったが、幾分穏やかな声色が返った。

「私とバジークの仲じゃないですか。こういうのは信頼関係が大事なの。だから見ない、敢えてね」

 理解度はゼロのようだ。

 バジークもそこそこ穏やかな口調で歩み寄りを見せる。

「ヘビをどかせば見るんだな?」

「そこまでして見せたいって変態ですからね?」

 こいつを連れてきたのは間違いだった。バジークはひとり項垂れるしかなかった。



「もう目を開けていいぞ」


 そう言われるまでの15分間、雪祭はずっと顔を覆っていた。同じ姿勢で疲れもあるだろうしすぐさま腕を下ろしてもいいものだが、

「ほんとに?」

 と警戒に余念がない。

「スネークは全部岩場の陰に隠した」

 バジークの説明を聞いて雪祭はこくりと頷く。両手をすすっと右側に動かした。

「スライドドア―」

「……」

 受けがよくないようだ。雪祭は再び顔を覆う。

「おいふざけんな……」

「ガルウイング」

 今度は指先を支点に両手を上に開かせる。これは前が見えにくいのでダメだなと雪祭はまた顔を覆った。

「観音開きー」

 文字通り観音開きで手を開く。

 バジークは困惑を隠せないでいたが、ここで何か言っておかないと永遠に続くだろう。

「いいよ、それ。すごく」

 振り絞るように褒めてやった結果、喜んだ雪祭はそこから3回観音開きを披露してあげた。



「巣の跡は14かー。これって一つの営巣地としてはどう?」

 ようやく仕事モードに入ってくれた雪祭は極めて冷静だ。ここまでの無駄な時間はなんだったんだという思いを抱きながらバジークも冷静に返す。

「少ない方だな。少ないって言っても、それぞれの巣につがいがいるから単純に30近くのソルジャースネークがいることになる。あとこいつらは産卵数が多い。一つの巣に卵は5~7個。孵化したらとんでもない数だ」

「逃げたヘビはいるの?」

 下を向いたまま雪祭が尋ねる。バジークから聞いた情報をスマホにメモしていた。

「たぶんな。ヤツら卵からは離れない習性がある」

「なるほどねー。卵は全部孵化前だった?」

 この質問にバジークは即答せず、苦みのある声を漏らす。手を止めた雪祭がバジークを見上げると「厳密には見てねえけどな。だが」と続けた。

「見ての通り、無事な卵はねえよ」

 バジークの言う通り、卵型の卵はひとつもない。そこは認めつつ、雪祭は

「念のため全部の卵確認しよ。孵化した形跡がないか。ヘビも28匹いるか数えてきて」

 プロフェッショナルな姿勢で臨む。嫌がらせのような変わり様にバジークも少々顔を引きつらせていた。

「頭を切り離して28個持ってこようか?」

「いいけど私が数えた時には29あるかもね」

 雪祭がニッと笑ってみせ、退散するようにバジークは岩陰へ。


「めんどくせえヤツ連れてきちまった……」

 バジークはここ数年で断トツに後悔したのだが、幼い息子に「スライドドア」を披露してところ大受けしてしまう。そこから数週間は彼の息子とその友人たちが「スライドドア―」と村を練り歩く姿が見られた。


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