17.ギルドの長い一日。の終わり
夕方5時を過ぎた頃、客が途切れたのを見計らいゴッサムギルドは出入り口のドアを固く閉じた。閉店時間を事前に決めていたわけではないが、あまり遅いとソフトボールの練習に支障が出てしまう。
体育着に着替えた生徒たちはギルドの裏側に広がった緑地でさっそくランニングを始めている。
初日で客もまばらだったことを差し引いても、見知らぬ世界で見知らぬ仕事をこなしたばかり。だというのに、まだまだ体力は有り余っているようだ。
「守備練習から! 外野フライいくぞー!」
オリバーが有り余る力を込めてバットをフルスイング。大きな打球音と共にボールは弾け飛び、敷地の柵を超えていく。
全員がその行方を見守っていたが、白球はやがて見えなくなり
ぎゃん
微かにそんな反応が耳に届いた。
「あれは生き物にぶつかった音だよね」
「小麦粉の刑だな」
「みんな、パンを食べるたびにオレを思い出してくれ」
オリバーが別れの握手を交わそうとするが、三毛がそれを留める。
「みんなで小麦粉を作ろう。俺たちは小麦粉ギルドだ」
「ミケ……」
熱い抱擁で全員が友情を高めていると、突如ざわついた感情が皆に等しく襲い掛かった。
リッキーが悪い予感のする方向に素早く顔を向ける。
「あれは……」
ボールの飛んで行った方向から何かがものすごい勢いで向かってきていた。定期的に咆哮を交えており、殺気立っているのは遠目にもわかった。斧を持っているし。
「ゴブリンだな」
とりあえずリッキーは勘で言ってみた。
この村を襲おうかどうしようかとたまたま近くを通りかかっていたゴブリンは、いきなり頭にボールを落とされてひどくご立腹だ。斧を振り上げ、目の前に映る全員を皆殺しにしようと勇往邁進している。
「みんな下がって!」
ゴブリンはあっという間に距離を詰め、これがリレーだったら次の走者が走り出してもおかしくない。オリバーは金属バットを力強く握りしめた。
ゴブリンが不敵に笑う。相手は人間のこどもばかり。猛ダッシュの最中でなければ高笑いが止まらないところだ。
「よいせ」
緩太がピッチングマシンを持ち上げ、背後からゴブリンに投げつける。
前方に吹っ飛んだゴブリンをオリバーが有り余る力を込めてバットをフルスイング。大きな打撃音と共にゴブリンは弾け飛び、敷地の柵を超えていく。
全員がその行方を見守っていたが、ゴブリンはやがて見えなくなり
ぎゃん
微かにそんな反応が耳に届いた。
守備練習に戻っていく生徒たちの姿をゼニスとターコイズは3階のベランダからのんびりと眺めている。
「若さは偉大ね」
ゴゴゴゴゴゴゴ
「なんですかーー? なにか言いましたーー?」
グォングォングォン
ふたりの背後、3-Dの教室では洗濯機が4台フル回転で動いている。お互いが何を言っているのか全く聞こえなかった。
もちろん、この洗濯機もゼニスが買いに行かされたものだ。
明日からの着替えがないと言うので、生徒たちの服を一式複製し、洗濯機を用意して、アイロンと物干し竿まで用意した。
お風呂も男女別がいいとわがままを言うのでこれも複製し、男子用を3-E、女子用を3-Cに設置している。
最初に遡れば寝袋まで買いに行って、ついさっきだってバスタオルや歯ブラシを買いに行かされたばかり。
「……もしかして今日一番働いたの私じゃない?!」
グォングォングォン
ピーッ ピーッ ピーッ
「なんて言ってるのか聞こえないですーー」
グォングォングォン
『本体に不具合が発生している可能性があります』
「……」
グォングォングォン
「……」
ゴゴゴゴゴゴ
「どうしろって言うのよ!」
電源を入れなおしても改善せず、叩いたら電源すら入らなくなってしまった。
「はわわわゎ……」
「かみさま……」
ゼニスは泣きながら家電量販店へと飛び立っていった。




