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16.ごはんがない

 ギルドの外でヤルビーを見送った三毛たち。

 またヒマになったなぁ、という感情とは別に、もう一つ大きな感情が湧き上がってくる。

 緩太がスマートフォンの画面で確認をする。思った通りだ。


「もうだいぶ昔にお昼過ぎてる」


 昔はともかく、だいぶ過ぎていることに間違いはなかった。

「やっぱりそうかぁー」

 その言葉で皆が力なく座り込んでいく。

「おなかすいた!」

「先生からバイト代もらってないし買い物もできなーい!」

「今から村長より先に村長の家に行けば村長のごはんを食べられるかもしれない」

「それじゃ村長がおなかを空かせて……結局は空腹の連鎖が続くだけじゃない……」


 一通り喚いたところで現実に立ち返る。文句を言ったところで余計に空腹感が際立ってしまうだけだから、解決方法はシンプルに一つだけだ。

「草でもかじってろってことか」

 緩太は近くの草むらから若そうな葉を一枚ちぎってみる。

 日本で見る草と変わりはないようだ。色や形も、あまり美味しそうには見えないところも。

「うえぽん、イケそう?」

 暗に試食を勧める三毛。緩太が男気を出して一口食べてみた感想は、

「味はある」

 具体的な表現は差し控えておいた。


 絶対まずかったんだろうな、とは思いながらも他にやることもない。三毛たち他の生徒たちも緩太を真似て草を見繕い始めた。

「この葉っぱ厚みがあって食べ応えありそう」

「オリバー! それはショウジョウバッタ!」

 琥太郎に食い止められたオリバーは若干悲しげな表情でバッタを逃がした。

「じゃあ逆にこのカマキリに見えるのは葉っぱ?」

 三毛がつまんでいるショウジョウバッタを琥太郎が淋しそうに見つめる。

「うん、それはカマキリだよ……」

 三毛も若干悲しげな表情でショウジョウバッタを逃がした。


「はぁ……もう空腹でめちゃくちゃだ!」

 琥太郎が仰向けに転がる。鼻の上にちょこんと親子連れのショウジョウバッタが飛び乗り、またピョンと飛んで行った。


 のどかだ。とても。

 空はとても広い。

 空腹なんて悩みはこの空に比べればちっぽけなものだ。


「なんて思うのも無理……。おなかすいた……」

 顔を動かすとターコイズと目が合う。

 少しの間見つめあったあと

「食べないでくださいねーー……?」

 怯えた表情でターコイズが距離をとった。

「まあ、切ろうにもチェーンソーしかないし」

 ターコイズはさらに距離をとった。


「ターコイズはおなか空かないの?」

 呼ばれた方向にターコイズが体の向きを変えてみる。三毛が葉っぱを差し出してきたところだった。

「食事はしないので大丈夫ですよーー」

 女神の使徒であるターコイズは大気中に含まれる魔素を取り込むことで活動エネルギーとする。そのため食べ物は必要としない。

 魔素とは魔法の源泉でもあるので、この世界の人間にとっても特別なものであるということも併せて伝えておいた。

「へー」

 全然わかっていない顔だ。三毛を見てターコイズはすぐにわかった。


「さて、魔素もわかったことだし」

 三毛が吐いたセリフは物事をまったく理解していない場合に出てきそうな類のものだ。

「先生もお客さんもいないし、食べられる葉っぱ探し大会を始めます!」

 唐突にイベントの開催を発表した。あちこちで草を抜いていた生徒たちがぞろぞろと集まりだす。

 大会の中身は極めてシンプルだ。

「一番おいしい葉っぱを見つけた人が優勝!」

「っしゃー! やるぞ!」

「おーっ!」

 賞品はない。得られるのは栄誉と、運が良ければ栄養だ。



   ◇



「これはイマイチだなあ」

「茎のほうが美味しいのもあるよ!」

「まじかー」

「やば、虫も一緒に食べたかも」

「リッキー、タンパク質取ってんじゃねー。反則だぞ」


 どうしてこの子たちは競うように草を食べているのだろう。

 どんな顔をしてこの光景を見ればよいのか、正解がわからない。


 ゼニスは茫然と突っ立ったまま生徒たちを眺めていた。


 ようやくこちらの世界に戻ってこれたかと思えば、ギルドの中は無人。

 外に出てみればこの有様だ。


「せめてドレッシングをかければいいのに……」

 何気なくぼやいただけのつもりだったが、聞き覚えのある声に生徒たちがすぐさま反応を返してくれた。

「あれ、先生だ」

「おかえりー」

「葉っぱ食べる?」

「いえ、いらないです」

 遠慮ではなく、ゼニスは嘘偽りのない気持ちで断りをいれる。ターコイズを呼んで何をしているのか尋ねてみるが、「食べられる葉っぱを探してますーー」と見たままの説明しかなかった。

「お昼ごはんを買うお金もないから自炊してたんだよ」

 リッキーも説明してくれたが、わかりやすさ以上に物悲しさが勝ってしまう。

「自炊っていうより拾い食いですよね……」

 と言わずにはいられなかった。


「あ! 先生が戻ったってことは、お風呂買ってきたの?」

 麗央が目を大きくして声を弾ませる。ゼニスが少し得意げに「えへん!」と前置きした。

「そうなんですよ! 浴室のユニットハウスを買ってきました! 4人くらいは入れる大きさですよー。3-Cの教室に置いてあります!」

「すご!」

「先生すごーい!」

「やったぁお風呂だ!」

「先生ありがとー!」

 鳴りやまない賞賛。これを浴びるために私は生まれてきたに違いない。自身を讃える言葉をゼニスは全身にくまなく染み込ませていく。

「お風呂のお湯で葉っぱが茹でられるね!」

「これで食べ方が2パターン楽しめる!」

 ゼニスは浸るのをやめた。


「みなさん草むしりは終了ですよ。お金は渡すのでお昼ごはんは村の食堂とか屋台から買ってください」

 文明的な生活に戻ってきなさい。そんな思いを込めながらゼニスは一人一人にアルバイト代を手渡していった。支払は週給制とした。

「異世界の料理かー。わくわくしちゃうね」

「ほんとだねー」

「これが現金か」

 セレスティナだけは初めて見る硬貨に興味津々だ。リーダーにかざすときはどの硬貨を選べばいいのかと烈火を困らせていた。


「でも優勝者は決めておかないとな」

 満は厳選した葉っぱを大事そうに抱えている。今更中止などありえない。そしてそれは、満に限らず誰もが同じ思いだ。

「決着を……つけようぜ……!」

「続けるんですか……?」

「続けるんじゃない……。終わらせるんだっ……!」

 なんだか無駄にかっこいい言い方だった。満は「これが本当の最後だ」と言葉をつなげ、ゼニスは「これで本当に最後にして……」と呟く。


 そんな時だ。


「すみませーん」

 生徒たちに声をかけてきたのは3人の青年。

 大会の飛び入りチャレンジャー、ではない。来客だ。

「ギルドの方ですか? 僕たち冒険者の登録したいんですけど」

「おーっ」

「お客さん!」

 生徒たち全員が横一直線に並び、「お待ちしてました!」と歓迎の意を示す。

 そして三毛が一歩前へ。

「ではこの葉っぱの中から一番おいしいものを選んでください」

「えっ? 食べるんですか?」

 動揺を隠せない青年たち。

「審査員ですから」

「えっ? いや、あの、冒険者に……」

 横一列だった三毛たちはいつの間にか円を描いており、包囲された冒険者志望の3人は逃れることができない。


 気になる優勝者は、手汗の塩気がほんのり恋の味をしていた烈火だった。


一話あたりの文字数はできるだけ短くまとめたいのにだんだん長くなっているような……

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