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14.ギルドの外へ

「それでは……」

 ゼニスが去り際に淋しそうな笑みを浮かべていたのは別れを惜しんでいたからではない。

 セレスティナが若干申し訳なさそうに

「今度は時間かかるかもしれないな」

 と呟いているが、そもそもは彼女が「お風呂買ってきて」なんてコンビニ感覚で口走ったことが原因だ。

 ユニットハウス型の浴室があるはずだというヒントだけを携えて買い物代行の神は地球へと旅立っていった。


「私も出掛ける!」

 ゼニスを見送った直後、突然麗央が宣言した。

 次元単位で自由に往来しているゼニスを羨ましく感じたこともあるだろうが、屋内で行儀よく過ごすようなタイプでもない。外の世界に早く触れたいという欲求が心を埋め尽くしていた。

「オレも行く!」

「お客さんも来ないし、みんなで散歩しようよ」

 せっかくの異世界。見飽きた校舎内で過ごし続けるなんて無理だ。すぐさま全員での異世界観光が決まった。


「でも危なくないかな?」

 烈火がポツリと零す。他の生徒たちは烈火を頭のてっぺんからつま先まで、視線を何往復かさせてから「たしかに」と腕を組み始めた。

「可愛さに嫉妬した魔女が毒リンゴを食べさせてくるかも」

「シンデレラを探してる王子がいたらガラスの靴を叩き割ってらんちゃんを連れ去っちゃうじゃない!」

 取り乱す琥太郎と雪祭を安心させようと、オリバーが「大丈夫だ、安心しろ」と力強い声色で言う。

「オレが先手必勝で10連ボディブロー喰らわせたあと全裸で逆さ吊りにしてやる」

「だめだオリバー。ここは日本じゃないんだ、法治国家だったらどうすんだよ。せめて靴下は履かせておこう」

 すぐに竜星がたしなめ、オリバーは行き過ぎた考えを猛省した。しかし、オリバーの意見にも学ぶべき点はある。時には戦う姿勢も必要ということだ。

「自衛のためにも武器は必要かもな」

 かと言って簡単に出てくるようなものでもない。満が周囲を簡単に見回してみるが、使えそうなものはあまりなかった。

「すぐ見つかるのはパイプ椅子か? まあ、鈍器でありながら盾にも使える。さらに椅子に使うこともできる」

「メインが椅子ですよーー」

 一応ターコイズが正規の使用法を伝えておく。

「それもそうだったゼ☆」なんて返事はもちろんない。緩太とふたりで攻撃と防御どちらの性能が上かパイプ椅子で殴り合いを始めていた。


 模擬戦は5分ほど続き、ふたりはひとつの結論に達する。

「相手が騎兵だと負ける」

 ずいぶん条件が絞られているが根拠はおそらくない。

「歩兵、騎兵、ニンジンの3すくみを考えるとニンジンの収穫までは外に出れないな」

 緩太が悔しそうに唇を噛む。収穫までの期間もさることながら、まずニンジンの種すらない。

 素直に考えれば打つ手なしだが、3すくみの良いところは勝ちと負けの他にもうひとつ道がある点だろう。

「こっちも騎馬でいけばいいじゃん」

 三毛が琥太郎、リッキー、オリバーの4人で騎馬を組む。

「去年の体育祭思い出すねー! 私たちもやろ!」

 麗央たち女子4人も素早く騎馬を作り、残りの男子4人もそれに続く。大将騎オリバーを筆頭に、合計3騎が編成された。それぞれ騎手はオリバー、麗央、烈火が務める。


「これが一番良さそうじゃない?」

「戦うぞってテンションになるね!」

「よーしこのまま突っ込めー!」


「わー! 待ってくださいーーっ」

 全軍突撃しかけた武将たちをターコイズが慌てて制止する。

「結局素手ですよーー」

「大丈夫。相手の騎兵は人と馬で武力と知力が2人分だけど、こっちは4人分なんだから」

 そう主張する三毛の瞳をまじまじと見つめるターコイズ。特に知力の計算式に関しては思うところもあったが、そっと胸の内にしまっておいた。

「いきなり騎馬隊は村の人たちもびっくりしちゃいますよーー。普段通りが一番だと思いますーー」

「普段通りかー」

「ターコイズが言うんだし、いいんじゃない?」

 続々と下馬する武将たち。

 これで村人に奇異の目で見られることはなさそうだ。ターコイズは心底安心した。



   ◇



 村の散策を始めた生徒たちは、広場や見晴台、商店街など目に付く場所を次から次に巡っていく。どの生徒も笑顔や会話が絶えず、見知らぬこの世界を心から楽しんでいた。ターコイズ以外は。


 ターコイズは最後尾から生徒たちをぼーっと眺めている。

 なぜ彼らは一人の例外もなくチェーンソーを手にしているのだろう。


「C科はチェーンソー科だからね」

 と三毛が教えてくれたのでチェーンソーを所持している理由自体はわかっているが、問題はそこではない。

 異世界の住人からすれば得体の知れぬチェーンソーを持った集団のほうが格段に怪しい存在だ。その証拠に村を歩いている間、誰にも遭遇していない。商店街ですらも。

「全然村の人いないね」

「無人村なんじゃ」

「駅みたいに言うなよ」

 生徒たちは自分自身に原因があるとは夢にも思っていないらしい。これだけ活気がなければ外部から人を呼ぶわけだと納得する始末だ。


「帰りは宣伝していこう! 誰かの耳には入るかもしれないし!」

 言い出した麗央はさっそくありったけの声で空に叫んだ。


「冒険者ギルド、ゴッサムギルドが今日からオープンしたよおぉぉおお!!」


 他の生徒たちもあちこちの方向に向けて大声を出していく。

「安心安全のゴッサムギルドー、ゴッサムギルドはいかがですかー」

「皆さまに愛されるギルドとなれるよう、スタッフ一同がんばりまーす!」

「安いよ安いよーーー」


 少しは誰かに聞こえてたらいいね、と烈火が控えめに願ったが、村人は皆家の中で息を潜めていたため一応ほとんどの者には声が届いていた。


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