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11.初仕事③

 ようやく書き終えることができた申請書は倫子とターコイズにより丁寧にチェックされる。

「タコちゃん、ここの等級欄はどうすればいいの?」

「新規登録者は原則Fランクらしいですねーー」

「原則ってことは変えてもいいの? ユーインだからUランク!」

「ABCDEF……だいぶ下になっちゃいますよーー」

「ほんとだ! あははっ」

 不穏な会話に心を乱されそうになりつつ、ユーインは瞳を閉じて心を落ち着ける。


 書類に不備はなし。

 登録料の支払いも済また。

 あとは登録証を受け取るだけだ。


 テキトーに自作の歌でも口ずさんでいればすぐに登録証が現れるだろう。ご機嫌なユーインがさっそく鼻歌まじりに横目で倫子を見ると、弱り切った顔をしていた。鼻歌は鼻水に変わってしまった。


 その困り顔の倫子は周囲に助言を仰いでいる。

「登録証に発行場所書くんだって。なんて書けばいい?」

 なんでそこで悩むんだ? ユーインは納得いかない顔で鼻をかむ。

「この場所っていうと……ゴッサム高校?」

 セレスティナは自分で言いながら「それはないな」と内心思う。発行所が学校なんて、冒険者らしさに欠けている。

 緩太が小さく「長机」とアイデアを出していたような気もするがあえて全員聞こえないふりをした。

 一連の話を聞いていたユーインが「ここがゴッサムって言うなら、ゴッサムギルドってのは?」

「おー!」

「それだ!」

「長机じゃね?」

「決まり! ゴッサムギルド!」

 倫子が急いでゴッサムギルドと記入する。いよいよ発行かとユーインも心が沸き立ってきた。

「あ。あと担当者の署名」

 そのままアンタが書いてくれよ! そう叫ぶユーインの心が届くことはない。

「書きたい人ー?」

 全員漏れなく挙手しているのを見てユーインは顔を塞いだ。まだ先は長そうだ。

「じゃあクジで決めるね」

 倫子は付箋紙を人数分1枚にだけ「あたり」と書き、中が見えないよう一枚一枚半分に折りたたんでいく。長机に無造作に広げた後、両手でかき混ぜればクジ引きの用意完了だ。

「クジ引きの順番を決めるためのじゃんけんをします」

 ユーインはまたしてもうなだれた。


 それからどれだけ経っただろう。

 勝っただの負けただの、今のは遅出しだとかわめき声が絶えず響いていた。

 それが一段落してからは、当たっただの外れただの、このクジには必勝法があると豪語していたオリバーは外れていた。



「はいユンユン。登録証」

 念願のセリフを聞いてもすぐには信じられなかった。で、この次は何が始まるんだ? という邪念にも似た感情を完全に消し去るのは難しい。

 しかし目の前の倫子はとても穏やかな目をしていて、つまりこれはどういうことなんだろうか。

「ま、まさか……手続きが終わったのか……?」

 大半が無駄な工程だった気もするが、その分だけ感動として積み重なる。

「おぉ……これが冒険者の証!」

 登録証には自分の名前が燦然と輝き、発行所欄に書かれたゴッサムギルドも自分の発案だ。誇らしくさえ思える。

 そして、そんな自分の承認者としてサインしてくれたのは


 三重丸。


 三重丸が描かれていた。


「なんだ三重丸って!」

「私だ!」

 麗央が堂々とした立ち姿で見つめている。ふざけているようには見えない。

「まどか・れい・おう。で、マルみっつ!」

 やはりふざけていた。

「くそっ、こんなギルドを信じた俺が……」

「ユンユン、次は記念写真ね!」

「え? シャシン? なんて?」

 後悔する暇さえ与えてくれない。麗央はユーインの腕を引いて壁際まで誘導すると、「そこ立ってて!」とだけ伝えて距離をとる。

「はい、ユンユン笑ってー」

 琥太郎が笑顔でスマートフォンを構えだした。

 なんだろう。さっそく処刑されるのか? ぞぞぞっとユーインの背中を寒気が襲う。


「短い冒険者人生でした……」

 まだ冒険者になってから数歩しか歩いていないというのに。


「ちょっとユンユン! 笑顔笑顔!」

「もしかしてクール系がいいのかな?」

「あー、なるほど! じゃあそれでもいいよー」

「こだわりさんなんだから」


「いや……」

 あれこれ言い出す生徒たちを遮り、ユーインは覚悟を決めた。

「最後くらい笑って終わるぜ」


 にぱっ!


 カシャッ


「はいオッケー」

「いいねー!」

「ユンユン笑顔可愛いーっ」

「いい表情だった!」


 相変わらず何が起こったのか全く理解できずにいるユーイン。

「お、終わり……? 今何かしたのか……?」

 何もわからないうちに始まり、何もわからないまま終わっていたようだ。


「よし! 円陣組もう!」

 ウソだった。終わっていなかった。


 三毛の声掛けから10秒とかからず円陣ができあがる。

「ターコイズも」

 満に掴まれたターコイズだったが、メンダコが肩を組むのはどうやっても不可能だ。その代わり、肩を組む満と緩太の間に体を乗せた。

「ユンユンも! 早く早く!」

 麗央に誘われるままユーインも円陣に組み入れられる。

 全員が揃ったのを確認し、三毛が高らかに声を上げた。

「無事! ゴッサム高校改めゴッサムギルドの初仕事完了しました! こっからだぞみんな!」

 連鎖するように琥太郎やリッキーも

「誰が相手とか関係ないよ! 自分たちのやるべきことをやれば結果はついてくるよ!」

「相手に合わせるな! オレたちのアクションを起こすんだ!」

 周りを鼓舞し、盛り立てる。

 勢いのままに聞いていれば良いことを言っているように感じたのかもしれないが、そこはまだシラフのユーインだ。

(接客なんだから相手に合わせてくれよ……)

 そんな考えがよぎったりもする。とてもそんなことを言える雰囲気ではないが。


「今日の一言はユンユン! お願いします!」

 そして浴びせられる竜星からの不意打ち。むしろ今日は不意打ちしかされていない。

「最初のお客さんだもんね」

「ユンユン頼んだ!」

「はぁ……」

 と気のない返事をしながらも、それなりの決心は見せなければならない。非常事態への対応力も冒険者には重要なのだ。

 難点は何のための円陣なのかは未だにわからないので、何を言えばいいのかは答えが出ないことだろうか。

「え、えー……。なんとか、登録を達成できて良かったです! この調子で次も行きましょう!」

 湧き上がる拍手と歓声。

 本日MVPの挨拶で最高潮の一体感を醸成しだした。

「締めだ! 三毛!」

 琥太郎に促されて三毛が深く深呼吸する。


「ゴッサムギルド! いくぞっ!」

「オゥッッ!!!」


 校舎中を巡る猛々しい響き。その余韻に浸ることもなく円陣はほぐれていく。

 ユーインも他の者と同様、その場の全員とハイタッチを交わしては達成感に溢れた後ろ姿でギルドを後にした。


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