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10.初仕事②

「この申請書に記入お願いしますね」

 理不尽に打ちのめされたユーインなどおかまいなしに雪祭が書類を差し出す。

 ともあれ、ようやく手続きを進められるわけだ。ユーインはすいすいペンを走らせた。


「……」


 書きづらい。

 ペンや紙が悪いわけではない。ルール無用の腕相撲で利き手を痛めたせいもあるが、些細な問題だ。

 自分を取り囲んで一字一字覗き込んでいる三毛たちがプレッシャーになって仕方なかった。


「そんな風に周りからじっくり見られると……ものすごくやりにくい……」

「ちょっとみんなー、ユンユン困ってるじゃない」

 雪祭の注意を受けて「俺は上品に見ているから困らせてない」、「薄目ならいい?」といった反論がひょこひょこ顔を出してくる。学級委員長の竜星はそれらをすぐに制してみせた。

「全員一列に並んで。一人5秒で交代な」

 余計に鬱陶しいに違いない。想像する必要もないくらいに断言できる。

「すいません……そのままでいいんで……」

 ユーインは早々に降参した。


「そうだそうだ、ユンユンてさー」

 この人懐っこい言い方は三毛か。会ったばかりだというのに顔を上げずとも声の主が誰なのかすぐにわかった。

「ん-?」

 ペンは休めずにユーインが返事をする。どんなおかしなことを言ってくるのかと多少の心構えはしたのに

「剣とか弓使えるの?」

 想像以上に地味な質問だった。

「メインは剣だな。槍も多少なら。弓は苦手な方だなー」

「剣使えるんだ!」

「すごい! ファンタジーって感じ!」

「ユンユンかっこいい!」

 想像以上に褒めてきた。気持ちよさそうな笑顔で「ふふふふふ、そんなまだ大したことないって!」と謙遜するユーインだが、まだ冒険者の実績どころか冒険者ですらないのだから大したことないのは間違いない。

 続いて、烈火がドキドキワクワクを詰め込んで尋ねてみた。

「魔法もあるの?!」

「そこは残念ながら、俺は魔力を扱えないから使えない」

 魔法はあるが、誰にでも使えるものではないらしい。しかし重要な部分は魔法自体は存在するということだ。烈火でなくとも皆キャーキャーとはしゃぎ始めた。

 逆にユーインは彼らの魔法に対する反応が不思議でたまらない。何がそんなに驚きなのかと全く理解できないでいた。


「じゃあ次のしつもーん!」

 三毛がまた元気に声をあげる。

 雰囲気に流されて「よしこい!」とユーインも威勢よく応えると、

「今までやった一番悪いことは?」

「そうだなあ。やっぱ農園で……」

 そこまで口にしたあとユーインは真顔に戻る。危うく弱みを握られるところだ。

「油断も隙もないな……」

「チッ」

 と小さく舌打ちが鳴った。一人ではなかった。


「もう書き終わりましたかー?」

 わざとらしく催促する雪祭。

「こんなんで書けるか!」

「えー? ユンユンこわーい?」

 もう何も話すまいと決心し、ユーインは心を無にして記入を続けていった。

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