救われし魔術の王 2
亜人との交流を完全に絶たれた王都〈ファーベル〉の現状は、言葉にならないほどであった。
金があっても食物を買うことは出来ない。
これまで自給自足の生活をしてきた者以外は餓えて死ぬ以外に選択肢がないような状態であったのだが、その自給自足をしていた者から食物を強制的に奪い取ることで国の貴族は生活している。
野生の獣を狩ってきたところで国に奪われる冒険者たちは王都を離れ、これまで亜人たちと取引して商売をしていた者も離れる。
残っている者たちは、貴族の中でも性根が腐っているとしか言えないような屑ばかりであった。
挙句の果てには……
「今回も無理だったようだなぁ?」
「はっ! 申し訳ございませんッ! 貿易国から物資を奪い取ることは一般兵では不可能かと思います」
「そんなことを聞いているのではないッ! 私はあの場所を取り込んで上手いこと貿易を再開させろと言っているのだ! それなのに何なんだこの様は!」
当然、全ての物資の流通が閉ざされてしまった王都では傷を癒すことが魔法のみになってしまっているため簡単に人を癒すことが出来ない状態だった。
魔法を酷使しすぎれば大事な時に大きな戦力である魔法使いを使えないかもしれないからだ。
「お前たちが死ぬは別に問題ではない。ただ、私の言う事を聞けないのが問題なんだ!」
「……ッ!」
「全く、貿易国に行くことするらままならないなんてな……。いったいどれだけ使えないんだお前らは」
溜息混じりに呟く王。
そして、その後ろで立つ三人を見る度に全ての歯が砕け散ってしまう勢いで食いしばる。
「何だその態度は」
「…………いえ、何でもございません」
「何でもない訳がないだろう? 明らかに私に歯向かっただろう。もういい、お前一人が消えたところで支障はない。消えろ」
存外に扱われる兵士の一人が、王の目の前から姿を消す。
まるで元々そこには何もなかったかのように、兵士一人の姿形が消え去った。
「良かったんですか? あんなんでも兵士長ですよ」
王の隣によった瞳が濁った好青年が聞いた。
「いい。もはや兵士などゴミも同然だ」
「まぁ? 私たちがいればそれで済む話しですからね」
宙に浮いたワイングラスに赤ワインを注ぎ、グラスを回す女性が興味なさげに呟いた。
その隣では体に似合わない大剣を担ぐ小柄な少年が肉を頬張りながら答える。
「確かになぁ……」
「お前たち『三聖』がいれば他はどうとでもなる。ただ、お前たちは――――」
「剣聖の弟子……バルファを殺すための切り札なんですよね?」
「分かってるならいい……。いいか? 必ず奴を殺せ、どんな手を使ってもいい」
国民が死のうとどうでもいい。
王都の名が地に落ちても気にならない。
勇者パーティが帰って来ないのはもう忘れた。
もう、平和大陸というものが無くなってしまっても構わない。
ただ、今までの生活を全て壊した一人の男だけは許せない。
そんな憎悪に塗れた双方が見つめる先は、どこと捉えることが出来ない虚空であった。
◆
黒いコートが強風に煽られ、フードが脱げそうになるのを抑えながら眺める景色は酷く色褪せたものであった。
活気が溢れていた街道沿いは人一人としていなく、賑わいを見せていた冒険者ギルドは複数人の怒号が漏れている。正直、この場所にいるだけで今の王都の現状を理解出来てしまえるのだ。
「早く行かないとな、これは」
どうしてか王都に瘴気と悍ましい魔力の塊が溜まり始めている。
誰かの影響なのか、それとも誰かが意図的に集めているものなのかは定かではないが、危険であることは理解できる。
特に王城の周りは〈インぺデリア〉と遜色ないほどの魔力に溢れている。
これでは普通の人族が生活していける空間に戻すことが出来なくなってしまう。
「全く廃れたものだ。知らず知らずあいつの琴線に触れていたことに気が付けないなんて、ここの王は何をしていたんだ? まさか勇者とかいうのに全部任せていたわけじゃないだろ」
平和大陸にいる限り聞くことが絶えなかった〝勇者〟という言葉。
逐一号外として発行されていた情報源は、いくら少なくとも大きな情報を与えてくれていた。
「まさか勇者と一緒に旅をしていたのが嘘じゃないなんて思わなかったよ」
出会い方。
話し方。
立ち振る舞い。
どう考えても、勇者と共に歩んでいくには分別がついていなかった。
「まぁ、俺はそれに――――おっと……急がなねぇと。こんな場所を眺めている時間なんてなかったな」
一歩、宙に足裏を差し出すと男は空を歩き始める。
向かう先は大海に面する最北の国。
この大陸で唯一外の大陸と交流がある場所には、世界を救いかけた人物が住んでいる。
「そういや、今から会いに行っても大丈夫だったか?」
救世主である彼を救った男に会いに。
彼ならば、この大陸を均してくれると願って……男は足を動かす。
全ては――――この理不尽な世界を救うために。




