世界意思 3
遅くなりました。
いやぁ、話しが全然まとまらなくて困り果ててましたわ。
重要な人物が集まる会合。
更に言えば、ここには亜人の王が集まる。
人族であるバルファとアレフィティナが同じ席に座っている状況は、とても異常な光景として広がっていた。
本来ならば、ここには人族の王が座るべき場所なのだ。
だがバルファは腕を組んで堂々と座っており、アレフィティナはただ静かにバルファの隣に座っている。
「さて……ようやく会話が始まるなぁ」
湯呑にいれられた茶の湯気が立ち上がるほどの間が一瞬。
穏やかな声音で始まった会話の主はジャバウォックから始まった。
ただ人物が人物。
大陸の主要人物がここにいる。
だが、いくらジャバウォックが穏やかそうに会話を切り出しても、他の王たちはそうではない。
「私たちは当然としても、ここに人族である彼らが集まった理由はどうしてかしら? あぁ、別に非難しているわけではないの。個人的な興味よ、お義兄様が仲良くしいてる人族なんて初めてですから」
非難しているわけではないと言っているのにも関わらず、友好的な雰囲気ではない様子。
ジャバウォックのことを〝お義兄様〟と呼ぶ彼女はエルフを束ねる王――――妖精王と呼ばれるナタリアルバは、バルファとアレフィティナを見ながらジャバウォックに問いかけた。
「そりゃぁ、バルは儂たちの英雄じゃからのぅ。お前さんたちが来た時には普通だったかもしれんが、つい昨日に大きな戦いがあったんじゃぞ? いやマジで死にかけたんじゃから」
「大きな戦いだぁ? それにしたって傷がねぇじゃねえかよ。流石に大袈裟すぎじゃねえか?」
小馬鹿にする気はないように見えるが、完全に小馬鹿にしている表情をしている。
きっと、魔力がない世界では〝最強〟の名を手にしていたであろう種族……獣人族。
その王であるジャーレンは、亜人国家の景色を見たからこそ無意識に嘲るような表情に見えてしまっているのかもしれない。
ただ、それを逆に笑って返してしまえるほどの世界を見てしまったジャバウォックは…………
「だよね、儂もそう思う」
「はぁ? んだよそれ」
「まぁまぁ、今日はそれも聞くから黙っとれ」
面倒臭そうに手を振って会話を中断するジャバウォックは、既に疲れているように周りを見渡した。
すると、茶を啜りながら縮こまるようにして座るザイオンが反応した。
「……して、本題はなにかな」
「ふぅ……ここにザイオンがいてくれて助かる」
「ほほほっ、バル坊の戦いなどいくら語ったところで伝わらんわい。それよりも大事な会合を終わらせよう、老いた体にこの空気はちと厳しいからのぅ」
長机の奥に座るジャバウォックに呼応するように隣に立つメイガスが広げたのは平和大陸の地図。
王都〈ファーベル〉が中心にあり、北には亜人国家、西には魔物が占領した国である〈インぺデリア〉、南には未開の地であり一切が謎に包まれた場所である〈パンドラ〉、東には人族の中でも独立した戦闘民族が暮らす〈クレナイ〉。
その中でメイガスが示したのは、王都から真下へ約五キロ離れた森だった。
「この王都の下、冒険者たちが最初に狩りに出る場所だと言われる場所。ここは名前こそないですが、人族の間では有名な場所です」
「そこは…………初めて依頼を受ける場所だな。薬草探しとかする」
深いダンジョンが存在し伝説のアイテムが眠るなんて都市伝説を持つだけの、冒険者ギルドの試験に合格した初心者たちが初めて依頼を始めるチュートリアルを主な目的とする森林。
広さこそあれど危険度でいえば最低ランクほどの、普段なら警戒すらしないような場所である。
「初心者が集まる場所ってわけか……そこには何があるんだぁ? まさか、ここに来てこんな場所を示すってことは何か重要なことがあるんだろう?」
「その通りです。ここは本来なら人族以外は下級の魔物と魔獣しか生息していません。ですが、二つほど不明慮な出来事が起こっているんです」
「平和大陸のことで私たちに関係することなどありますか? 正直……思い当たることなどないんですが」
「そうですね……これは亜人というよりも、エルフの方々に因縁があるかもしれません」
「僕らに因縁…………?」
エルフ族というのは魔力に関するスペシャリスト。
むしろ、魔力に愛されているこの世界で唯一の存在である。
未だに話が見えてこない会話に首を傾げたユーリシスは、小さく呟いた。
「不明慮な点というのは二つと言いましたが、その一つが初心者の死者数が急激に減っているのにも関わらず、その他の冒険者たちの行方不明者の数が増えたこと」
「どういうことだぁ」
「はっきりとは……今は人族との関係性は最悪なのでこちらで調べた情報になります。でも二つ目で背景が掴めました。それが、〝意識のある魔素〟の反応があることです。これによって私が魔力で象った観察魔法が消滅しました」
「……それで、どうして私たちが関係してくるのでしょう?」
「どうして人族が集まる場所の付近に〝意識のある魔素〟の反応が見られたのでしょうか? エルフ族だけが魔素に意識を与えることによって魔法を行使できる……不思議だと思いませんか?」
「まさか、その付近にエルフ族が住んでいると? 馬鹿げてます、人族の近くにいるだけで身の毛がよだつほど不快だというのに……」
チラリとバルファたちを見るナタリアルバは瞼を細めると、
「まぁ、不思議なことに彼らからは何も感じませんが。特に彼――――バルファと言いましたか? どうして貴方からは全く魔力を感じないのか……不思議でなりません。私たちは本来魔力で誰かを認識する。それこそ〝意識のある魔素〟によって――――本当に不思議です。彼も彼女も、どちらも異質なものを感じます」
「んなもんは後で聞けや。今はこの問題についてだろう? ユーリシス、番ならしっかりと面倒してやれや」
「あぁ、彼女はこれでいいんだよ。こうやって考えるのが僕の仕事だからね」
「はっ! 甘ぇな」
「とまぁ、おおよその答えは浮かび上がっているんだがな」
「言ってみてくれ、ユーリシス」
珍しくしっかりと王様をやっているジャバウォックに合わせるように、ユーリシスも普段の反応は全く違う真面目な口調で語り始める。
「はい。ここにいる全員は大体分かっているだろう? 僕たちエルフというのは魔素との意思疎通が出来る。故に魔力とも深く関わっていると言ってもいいだろう。だが、魔力に深く関わっていることが決して良いことだけということはないんだ。魔力というのは世界中に存在する〝魔素〟が根本にある存在であり、この世界で最も影響される側に立つ存在とも言えるもの。つまり、影響されやすい存在に愛されているエルフという種族は、この世界に影響を及ぼしやすいということでもある」
――――それが、どれだけ危険なことか分かるか?
今まで考えすらもしなかった〝魔素〟との意思疎通。
ようは、魔素という存在に意思を伝えることが出来るのだ。
命令ではなく、お願い。祈りと言い換えてもいいだろう。
善意のある祈り、悪意のある祈り……それらが、魔素に流れることによって生まれるのが〝意思のある魔素〟の正体である。
だから魔法が使えるわけでもない。
だから強くなるわけでもない。
だから世界が滅ぶわけでも、救われるわけでもない。
だが――――意思疎通が出来ない種族の体内に取り込まれてしまえば、そうとも言っていられない。
「この世界には……というより、人族では忌み嫌われている存在がいる。それが魔術師と言われる者たちだ。彼らは祈り願うことで、この世界に何かを顕現させることが出来てしまう」
「へぇ……かなり危険だなぁ、そいつらは。人間が怖がるのも無理はねぇな」
「ただ、基本的に魔術師と言われる者たちは生まれた時から〝魔術師〟だ。何らかの理由があるのかもしれないが彼らは〝意識のある魔素〟とは全く別の力で魔術を使う」
エルフの原点を辿れば、妖精。
精霊という王を持ち、魔法の根源とも言える幻が実体化したのがエルフと呼ばれるようになった。
そんな存在が世界に及ぼす影響は少なくない。
特有の力である〝意思のある魔素〟など残してしまえば、誰かに悪用される。
いや、〝意思のある魔素〟自体が誰か悪用してしまう可能性だってあるのだ。
「…………答えは決まっているようですね」
「あぁ……――――〝魔女〟。それも、人族では珍しい〝意思のある魔素〟が見える特別な」
〝魔女〟という聞きなれない言葉。
ここにいる誰しもがユーリシスの次へと耳を傾けた。
だが、一人だけ。
「あぁ、魔女ね」
バルファだけは、何故か聞き馴染みがあるかのような言葉を返したのだ。
「ほほっ、バル坊は何か知っているようじゃぞ?」
「知ってるも何も、俺の知り合いに〝魔女〟に近しいやつがいるんだよ。まぁ、そいつは男だけど」
「どんな人物なんだ?」
「気が弱くて、勉強熱心で、友達思い、そんで何でか分からないけど凄く臆病。でももの凄く良いやつなんだ」
バルファが指を折って数えるように、そして懐かしむように思い出していると隣のアレフィティナが反応した。
「いつ頃の話しなんですか?」
「俺たちで〈インぺデリア〉に行った時だな。初めて魔族を倒した二日前くらい。その時さ、俺だけがあの瘴気まみれの森で迷子になっただろ? あの時に出会ったんだよ」
王都で最高ランクの依頼を済ませ、連携が取れるようになり始めた頃の話だ。
尋常ではない魔力の反応に、空を薄紫に変えてしまうほどの瘴気が漂った異様な空。
今では何体も倒してきたが……初めての魔族というものは圧巻だったのは記憶に新しい。
「助けてくれてさ。魔族の場所も探ってくれたのはあいつなんだよ……お礼に髪を切ってやったな」
「……私は今、バルのことが少し心配になってきましたよ」
「い、いや。俺だってホイホイついて行ったわけじゃないぞ? なんだろうな……雰囲気が良い感じだったんだよ。あ、こいつとは友達になれそうってさ」
「そんじゃ、そっちはバル坊に頼むとするかのぅ」
「そうじゃな。儂らは儂らの仕事をするか」
「おいおい! 何をしれっと任せてんだよ!」
「そんな稀有な知り合いが多い貴方に任せるのが適切だわ。それに何も今すぐに訳ではないの、まったりと行きましょう? 私たちが後ろにいるわ」
「…………本当にまったりやるからな」
ここに帰ってきても問題に巻き込まれてしまい一日しか休めてないバルファは、溜息混じりに返答した。
それもそうだろう。王都に嫌気がさして戻ってきたというのに、働く頻度は王都にいたころと何も変わっていない。むしろ王都にいた時よりもハードな内容になっている。
本来、ここに訪れた理由も全く違う。
「あぁ、メイガスの情報収集は早すぎるくらいじゃ。時間はバルが思っているよりも全然あるぞ? てか、流石は儂の娘じゃね? 優秀過ぎてヤバいんじゃけど?」
「……うしっ、なら今回の会議はここで一回終わりだな! バルファとか言ったか? オレはお前に聞きたいことがある。その面貸せや」
華麗とまで言えるほどジャバウォックの親バカをスルーした全員が、ジャーレンの聞いたこともないような声音に耳を澄ませたことによって場が一気に引き締まった。
「あぁ、分かった。俺も……アンタには話したいことがあったんだ」
ジャーレンの背景に映るハバンと目が合ったような気がした。
取り合えず言えるのは、今回の章は長くなりそうということ。
もう読者の人たちに俺の脳内を見せた方がいいんじゃないかってほど長い。
それでも、書きますから待っていてくださいね?




