世界意思 2
インターネットが無い世界に、皆さんはいったことがありますか?
正確には、インターネットを使う暇がない環境ですけど。
俺はそこにいました。
様々な種族が住む亜人国家の王城は、人族の王城とは訳が違った。
まずは、四階建て設計であるのに相当な大きさと広さを持っていること。
王都にあるものは七階建て設計であるが、それと比べても見劣りはしないくらいの大きさである。
二つ目は、戦争に特化している建物だということ。
人数がそもそも少ないという点から、収容人数が国民全員という破格の性能だ。
それに地階大陸から輸入された大量の魔石によって建てられコーティングされているために、驚異的な強度を誇る。
〝龍〟のブレス以外ではそうそうに傷つくことはないだろう。
内装もシンプルで分かりやすいものに造られており、どんな種族でも移動が出来るように天上は最上階まで抜けている。
ありとあらゆる緊急性を重視した設計になっているのは、誰が見ても感嘆することだろう。
「――――あの殺気はやべぇッ!」
「あ、おい!」
「バル!?」
今まで感じたこともないような強烈な殺意を当てられたバルファは、猛烈な速度で壁を蹴って上の階層へと姿を消した。
そのままバルファを目で追ったバロックは、深い溜息を溢した。
「……これは、後で文句の一つくらい言ってもいいだろうか」
「バロックさん! 追いましょう!」
「いや、大丈夫だ。これは悪ふざけみたいなもんだから」
「悪ふざけ……?」
たかが悪ふざけで、バルファがあそこまで焦ることがあるのだろうか。そう頭に過ぎったアレフィティナはバロックに聞き返した。
「まぁ、上に行けば分かるさ。取り合えず俺たちはゆっくり向かおう」
「おいおい! とんでもねぇ早さで何か向かってくるぞぉ!」
「それは貴方が殺気を飛ばしたからではないですか?」
「ほほほっ、こりゃぁバル坊かねぇ~。とても洗礼された鋼の音が聞こえるわい」
何やら、バルファの接近を楽しそうに反応する獣人の男性。
それをソファに寝転びながらゆったりとした口調で返すエルフの女性。
メイガスに出された粗茶を飲みながら、愉快そうに笑うドワーフの男性。
そんな三人に呆れて声も出ないメイガスに、テンポが遅いメトロノームのように眠さを抑えきれずに首を揺らすジャバウォックの姿。
「バル坊? 聞いたことあるなぁ」
「親父、頼むから大人しくしてくれ」
「なんだぁ? まだまだ大人しいだろうが、おい」
「風格はあれど落ち着きが足りないのでは? ほら、貴方にもプレゼント」
「うぉい!! やめろ!! テメェのノロノロ魔力を送ってくんじゃねぇよ!」
ワイワイガヤガヤと騒がしい最上階に位置する『王接室』
まるで宴をしている最中のような騒がしさは、どこか既視感すらも覚えるほどだ。
だが、その空気をぶち壊すように――――扉が吹き飛んだ。
「大丈夫かッ!? みんな!」
文字通り壁を蹴って一直線に向かってきたバルファが到着すると、ハバンとメイガスが揃って溜息を吐いた。
「あはははは!! なんだコイツ、オレらと同じくらい早いじゃねぇかよ!」
「ザイオンおじ様、扉の修理は私に任せて下さいな」
「ほほほっ悪いのぉ、ナタリ。ここには資材も何もないもんでな、座ってただ茶を飲むことしか出来ん爺を許しておくれ」
「うふふっ、ご謙遜を」
「…………ふがっ!? お、バルゥゥううんッ!!?? 扉ぶっ壊れてるッ!?」
後にメイガスとハバンに聞いたところ、その瞬間のバルファは酷く混乱し白目を剥いていたらしい。
◆
「――――つまり、ここにいる全員は仲が良いってことだな?」
「そういうことじゃな」
扉が木っ端微塵と化していた光景はジャバウォックの眠気を吹き飛ばしたようで、先ほどのように微睡んだ状態ではなくなった。
普通に温かいコーヒーを飲みながら、長机の奥に座っている。
「何だよ。めちゃくちゃ焦って来たのに……すげぇ恥ずかしいだけかよ」
尋常ではない殺気を目の当たりにしたバルファは全速力で気配を辿ってきたが、結末は笑い話で終わってしまうほどあっけの無いものだった。
「いやぁ、悪かったな。まさかここまで本気になってくるとは思わんかった!」
「なるだろ普通! 俺は何も知らなかったんだぞ!?」
全く情報もない状態での殺意ほど、得体の知れないものはない。
今まで生きてきて……それこそ勇者パーティの一員として活動してきて、あれほど〝死〟を感じ取った瞬間はなかった。
獲物を喰い千切らんとする怪物のような殺意。
仲が良いことなど知らずにあんなものを当てられたなら、思わず頭が真っ白になってしまうのは仕方のないことだと思う。
「ほほほっ、それくらい守りたいと思えるものがここにあるということじゃな」
ザイオンは粗茶を啜りながら微笑んだ。
「……おっさんも同罪だからな」
「なんと! これは手厳しいなぁ、バル坊」
「何が手厳しいだ。どうせ俺が下にいること分かってたんだろ? なら教えてやれよ!」
「いいじゃないか、そのくらい。年寄りには刺激が必要なんじゃ」
「――――ったく! どこの国でも王様ってのはマイペース過ぎる」
「まぁ、〝王〟ですから」
ゆっくりとソファから起き上がるエルフの女性が、当然だと言わんばかりの表情で言い切る。
バルファからして見れば、この三人の中で一番マイペースなのは彼女だ。
……決して言わないが、本当に王という立場に立って良い人物なのだろうか……と頭を過ぎった。
「いや……お前はオレたちよりもマイペースだろ。もう〝王〟だからって許される範疇じゃねぇぞ?」
と、頭を過ぎったことをハッキリと言ってしまえる人物がここにいた。
自然大陸で獣人たちの〝王〟として君臨している男――――ジャーレン。
未だに現役のころと遜色ない強さ、数々の修羅場を潜り抜けてきた証拠である荒々しいほどの傷痕、人族よりも二回り以上もある大きさ。
この四人の中で、最も王の風格がある人物である。
「まぁ! 失礼ですこと」
「はっ、何が失礼だ。生憎とオレは鼻が良いから分かんだよ」
そう言ってジャーレンが寝転んでいるナタリの腹部を指で示す。
「ナタリ、お前…………太っただろ?」
――――ピキッ!
「ムッ!?」
そんな音が耳を掠めた時、ザイオンが飲んでいた粗茶が一瞬にして凍った。
誰の仕業なのか……そんなこと、語るまでもない。
先程の柔らかい笑みとは違う、張り付いたような笑顔に変わったエルフの女性から発せられた魔力のせいだろう。
「…………親父ィ」
あまり表情を変えない物静かなハバンが、ここまで動作するのは滅多にないことである。
だからこそバルファにも伝わったのだ――――
「(……何もしない方が良さそうだな)」
怒り、という感情は人を変えるという。
バルファ自身も冷静でいるために怒りという感情を沸騰させないようにと心がけている。いくら怒りで視野が狭まろうと、その場所が戦場ならば一瞬にして沈めることが出来るだろう。
だが、今の発言は男性陣を黙らせた。
何故なら――――その他の女性陣も恐ろしかったからだ。
「…………ジャーレン様。この沈黙の間に謝罪すべきです」
メイガスが格上である者に対して、ここまではっきりと物申すことはそうそうにない。
父であるジャバウォックの隣にいようと。
王であるジャバウォックの一人娘であろうと。
あくまで秘書として隣に立つことを選択したメイガスだった。
だが、今は違うようで……
「今のは誰にしても……いや、女性に対して失礼すぎでは?」
「な、なんだよ。事実だろうが」
「それでもです。例え事実でも、別に今言うことではないしょう? ほら、謝って下さい」
「…………すみませんでした」
メイガスから放たれる驚異的なまでの〝圧〟が、獣人族の王に謝罪させたのだ。
当然、男性陣はいたたまれない。
ザイオンは凍り付いたお茶が入った湯呑をそっとテーブルの上に置き、瞼を閉じる。
ハバンは顔を両手で隠すようにして壁の方を向いている。
だが、ここにも一人――――勇者がいた。
「動いてないなら太るだろ? 普通は」
男性陣の誰しもが、きっとこの場から立ち去りたかったことだろう。
ただ、立ち去った場合は「あぁ、あいつも同じことを思ったんだな」と思われてしまうかもしれない。
もしくは「どうして立ち去るのか?」と聞かれた場合の逃げ道が、どう転んでも悪い方向にしかいかないことが見えていたからだ。
故に、黙っている。
それが選択肢の中で、最も平和に事が終われる判断だった。
――――のにも、関わらず
「でも、太ってるか? 俺の知ってるエルフに太ってる奴いないから分からねぇや」
バルファは、何も分からずに曖昧な横やりを入れてしまったのだ。
地割れのように女性と男性で対立した殺伐とした空気に、だ。
ここにバロックがいたならば溜息を抑えきれなかったことだろう。
アレフィティナならば困ったような表情でバルファを一瞥したことだろう。
「てか、太ってる太ってないで空気を悪くしてる場合じゃねぇんだろ? そろそろバロックもティナも到着するしユーリーの気配も近づいてる。三人が来るのにこんな空気で出迎える訳にもいかないだろ。ただでさえティナは……まぁ俺もだけど、初対面なんだぞ? それなのに黒い大きなおっさんが、エルフに平謝りしてる姿が最初なんて普通に困るわ」
「…………バルのくせに、随分とまともなことを言うわね」
「普通に思ったことを言っただけだろ。ジャーレンには太って見えていて、俺たちには太って見えてない。これで良いんだよ」
「…………流石、ここでも英雄になったな」
「素晴らしい真理。バル坊も成長したなぁ」
勇者パーティにいた時のように、バラバラな性格の者たちの間に入っていくのは馴れている。
いがみ合いほど生産性がないものはない。
誰がどうとか、誰がああ言ったとか、誰があれをやったとか、そんなことはどうでもいいということをバルファは深く理解している。
発言や行動で人物を区別してしまうのが、どれだけ意味の無いことか……
――――理解しているからこそ、勇者パーティを抜けたのだから。
心の中でホッと一息を吐くと、空いている隣の席に目が向かった。
「(そろそろ――――)」
多くの亜人が住む国だからこそ、多くのものが亜人のサイズになっている。
階段も大型と小型で半分に分かれているし、通路も広い。
どこに向かうにしろ人族であるならば大変な所である。
「――――あぁ、僕に任せてくれ」
『王接室』に入るための扉の向こう側からユーリシスの声が小さく響いた。
その瞬間、またしても扉が破壊される。
バルファほどの激しさはない。破壊というよりかは、分解に近い壊し方。
「これを直したのはナタリかな?」
「シス! 会いたかったわ!」
英雄――――バルファ
獣王――――ジャーレン
妖精王――――ナタリアルバ
鋼王――――ザイオン
「……ようやっと、会議が始まるわい」
亜人の王であるジャバウォックは、小さく呟いた。
嬉しいことがありました。
ホームを開いたら、なんと感想があったのです。
嬉しかったんで、オールして書いちゃったんですが……分かりますよね?
体が悲鳴を上げています。
しかも、嬉しい悲鳴と未来を知った悲鳴のどちらも。




