世界意思 1
ようやく、第一章の始まりみたいなもんですわ。
気長に見て行ってくだせぇ。
新鮮な空気に包まれた、言葉に言い表せないほど気持ちの良い朝。
ストレスがかからない生活を送ってきたからなのか、自分でも驚くほどの調子の良さをみせる身体を更なる高みへと歩ませるためにバルファは木刀を振っていた。
柄の太さは歴戦武具と同じ太さに調整、重さはおよそ倍近くのそこらにそびえ立つ大木を切り倒して作った素振り用の木刀。
「…………」
だが、完全に集中できない状態が二時間以上も続いていた。
無心になろうとすれば、空を斬った刀身の軌跡をみれば…………過ぎっていくのだ。
名すらも知らない。
姿も正しいか分からない。
ただ焼けただれた瞳を隠す少女の姿を、いやに鮮明と思い出す。
「……――――魔術師の復讐、か」
溜息を吐くように呟いた言葉で思い起こすのは、相手から感じた怖気が立つほどの憎悪。
狂気……という度合を超えた先にある”普通〟さ。
やけに笑顔で、やけに楽しそうで、人を弄んでいた少女の姿はきっと魔術師以外では理解できないほどの怒りや憎しみで彩られていたのだろう。
まるで自分がおかしいのだろうかと思わせるような少女の明るい姿は脳裏に焼き付くものとなってしまっている。
「確か、昨日の新聞にも書いてあったよなぁ……」
『四人の魔術師の脱獄』
表面をぎっしりと埋めた記事だったが、あまり興味がなく流し読んでしまったものだ。
バルファとアレフィティナは王都に随分と長くいた。
だからこそ〝魔術師〟という存在が、どんな境遇で生きているか知っている。
「死刑囚なんて記いてあったけど、ちげぇだろ。実際は魔術師以外の人間に落とされた、普通に暮らしていた人たちだろうが……」
魔法使いならば、もはや視界に入れずとも理解することができる。
空気中にある魔素と反応を起こして体から魔力が辛うじて発生されているからだ。どれだけ魔力量が少ない者であろうと空気中の魔素と反応するほどの魔力……ようは、生活が出来るほどの魔力を必ず持っているのだ。
そして魔力を持っている同士ならば魔力と魔力同士が反応して〝そこに何かある〟くらいの感覚で存在を理解できるのだ。
だからこそ強者ほど魔力反応を消す。
戦うのならば尚更のことだ。居場所が知られてしまえば、隠密行動など出来る訳もない。
しかし、〝魔術師〟は違う。
体内には魔力がほとんどない者が多く、なんなら全く魔力がない者だっている。
加えるならば普通に生活してしまっている者が多い。
つまり、どういうことかと言うと――――――
強者であるなら、どうして普通に生活しているのか?
と、周りの人間は考えてしまうのだ。
だから一度王城の付き出し…………というのが、魔術師が見つかってしまう原因。
それはどこにいようと変わらない。本当に強い魔法使いというのは、時空すらも操ることが出来てしまうからだ。
「相変わらず、王都に住んでる奴らはクソばっかだな。そりゃぁ安全な場所からなら好きなだけ言えるもんなぁ……――――ダメだ。あいつに会ってから色々考えることが増えて全く集中できねぇ」
ティナはあの時の記憶を覚えていると言っていた。
リルもディエラも、フリートたちから重傷を負わされた記憶を覚えていると言っていた。
でも、俺はほとんど覚えていない。
フリートたちと対峙し、リルとディエラが血まみれになっている姿を見てからあまり記憶にないのだ。
正直……どこから覚えていないのかも正確に思い出せない。
唯一鮮明に思い出せる記憶は――――あの少女が笑顔で灰に帰す瞬間のみ…………
「一回、皆で話し合うかぁ。王様もメイガスも予定空いてるかな?」
◆
もはや王が住む場所とは言えないような見た目である、亜人国家の王城の前にバルファとアレフィティナの二人はやってきていた。
王であるジャバウォックの気分次第では毎夜毎晩酒を呑み明かすような国だからなのか、二日前に行われた祝勝会の残り香を残しつつも綺麗に整頓されている街並みは気分が高まるようだった。
だが、その雰囲気や街並みだけではないのが亜人国家の素晴らしいところ。
いくら酒を呑み慣れているからと言っても、ここには二日酔いの兵士たちだっていることだろう。それでも訓練には一切手を抜かずに行う愛国心と誠実さには思わず感激してしまいそうになる。
「お、珍しい客だな」
「うぃーっす! 今日はバロックが門番なのか?」
「おはようございます。朝早くにすみません、バロックさん」
少し驚いたような表情で会釈をするアレフィティナに、釣られるように頭を下げるバロック。
その姿はヴァーテクスの時とは、まるで別に映っていることだろう。
……少しの驚きですんだのは、バロックの腰にぶら下がっている『酒』と書かれた瓶を視界にとらえてしまったからだろうが。
「全く……お前の奥さんは礼儀が良すぎて困るな。俺のことも娘たちと同じ感じで接してくれていいぞ? まぁ、当初のような堅さは消えたようで何よりだがな」
「完全に……という訳ではないですが、ありがたいことに皆さんの優しさに当てられて馴れ始めていますよ。シャロとシュルルにもお世話になっていますし、そのお父様なら礼儀はしっかりしますよ」
「しっかりと学んで生きて来たら人族はこうも素晴らしいのか……ぜひ、うちの娘たちに見習ってほしいものだ。特にシャロだが――――――で、こんな朝から王城に何の用事だ? バルファ」
「王様とメイガスは空いてるか? 急用ってわけじゃないから急かすことはしねぇけどさ、出来れば今日中に二人と話し合いたいことがあんだよ」
「…………なるほど、それなら夜がいいだろうな」
「あぁ……やっぱ今は無理か」
分かってはいた。
愉快で楽観的に振る舞っていても、ジャバウォックはこの国の〝王〟。メイガスだってその補佐をしているのだから時間を割くには夜になるだろう。
ここはあくまで平和大陸、人族が舵を取る大陸なのだ。
その平和大陸で亜人を束ねる王として仕事が多いのは当然のこと。世界で唯一の広域貿易を行う場所である亜人国家が休まる時間が少ないのは重々承知していたことだった。
「だが、好都合だ」
「何が?」
会話を終えて踵を返そうとした瞬間、バロックは城内へ続く道を親指で示した。
「俺がこんなに早くから表に出ていたのは、二人を呼ぶためでもあった。まさかお前たちから来るとは思ってもいなかったがな。迎えに行く手間が省けたよ」
「あっ、そう言えばどうしてバロックさんが国に残って…………」
ヴァーテクスを外敵から守るために戦闘員としてバロックは配属されていた。他にも何人かいたが、先頭に立って戦える者と言ったらハバン、バロック、ユーリシスの三名が指揮を執っていたはずである。
「あれ? そう言えばそうだ。ユーリーも……ハバンもいるな」
敵がいないと分かっている場所では、どうしても気が緩んでしまう。改めて、〝気配〟を探ってみると城内に二人がいるのが分かった。しかも、それだけではない。
「鍛冶場のおやっさんもいるな」
ドワーフと言われる、どの種族とも比べ物にならないほどの物造りの達人がいる。
この国を建国出来たのも、王都と亜人国家を繋ぐ貿易港を建てれたのも、バルファが住む家を建てたのも、全てはドワーフたち職人のおかげなのだ。
そして、そのドワーフたちをまとめ上げるリーダーが王城にいることに首を傾げた。
「エルフ代表のユーリシス。獣人代表のハバン。ドワーフ代表のザイオン。あとは、王とメイガス。この五人が集まっているということは――――どういうことか? それは、城に入れば分かることだ。着いて来い」
「いや、せめて事前に何があるか教えてくれよ」
各種族の代表が一ヶ所に……しかも王城に集まるなど、尋常なことではない。
それを意味する言葉は分からないが問題が起こった。もしくは情勢の報告会のどちらかであることは間違いないだろう。
ただ、問題が発生したのなら種族代表全員が集まるなどありえないし、情勢の報告会は各々で行うもの。
更に言えばバロックが朝から兵士として活動している。
「バル…………感じますか?」
「何を――――――うぉっ!」
王城から体を押し返されるような〝圧〟が漂い、バルファの身体は反射的に柄を握った。
「お前……それ絶対にやるなよ?」
臨戦態勢の素早さに感心している様子でもあり、呆れている様子でもあるバロックは城内へ向かって進み始めた。
「おい! 説明しろ――――――ッ!!」
正直、刀から手が離せないバルファはバロックに向かって叫ぶように言った。
直後――――首元を喰い千切られたかと錯覚するほどの、獰猛な殺気がバルファを襲った。
だがバルファだけが感じ取っているわけではない。隣に立つアレフィティナは王城を眺めるように見上げていく。
「凄い……王城を満たすように魔力が……」
あの時を境に、目覚めた力が呼応している。
自身も特殊な魔法を使うからなのか、異様な魔力の質をしている魔素を眺める。
「あぁ、もう……あの方たちは。悪ふざけが過ぎる」
バロックは二人の様子を見て頭を抱えた。
そして、
「二人とも、時間も時間だ。向かうぞ――――――王の会合に」
評価4以上とか普通にテンション上がった。
これから下がらないように頑張らんと




