幕間 2
次から新章へ参ります。
魔術と魔法。
前者は先天性、後者もまた先天性。
では、この二つの何が大きく違うか?
それは全てと答える者が、ほとんどである。
そもそも力の源となる母体が全く違う点が一つ。
魔術というのは世界そのものから力を借りるもの、魔法というのは人体の神秘が世界に浮遊する魔素というものと共鳴して力を具現化するもの。
想像と創造とでは違う。
呪力という願いの力。魔力という神秘の力。
地獄の炎と地獄のような炎では訳が違う。
つまり……どちらも生まれながらにして持っているものではない。
魔術師というのは本来――――〝世界の力を使える者〟
それの総称である。
だが、それも歴史の闇に葬られた事実であることを『今』を生きる者たちは知りもしない。
『今』となっては、どんな願いも叶えることの出来る〝悪魔〟と呼ばれていることが多い現状。その伝えられ方が、人族おいて魔術師という者たちを淘汰する主な理由になっているのである。
もしかしたら魔術師という存在の本性を知識としてある者は、人族の中にはいないかもしれない。
答えを知っているのはエルフ族の中でも限られた長い時を生きてきた者だけになってしまっているだろう。
「オラッ! さっさと入れや!!」
汚水が流れる地下に造られた牢獄。
湿気が溜まりヘドロのようなカビが室内をびっしりと覆うような、およそ人が暮らせるような場所ではないそこに二人の幼子と一人の女性が倒れている。
そして――――また一人、その牢獄に収容された。
「どうせ死ぬことになってんだから足掻いてんじゃねぇよ〝悪魔〟が……」
ゴキッ!! と骨を砕くような音が微かに響いた室内が静寂に包まれ、ようやくか細い吐息が牢獄内を漂うように響いた。
「だ、い…………ぶ?」
一人の幼子が彼に声をかけた。
幼子もまた酷い状態だ。骨が浮かび上がるほど痩せこけており性別すらも分かず、身体中に染みのように痣の痕は目を瞑りたくなってしまうほどに痛々しい、ストレスからくる脱色によって髪色は真っ白に変色しており顔色も悪かった。
「…………ぁ」
辛うじて動かせた体に鞭を打って頭をくちゃりと滑る地面に擦るように動かした。
「よ…………かった」
互いが互いに限界な状態。
既に喉に潤いはなく、空気が通るだけの管のような役割しかこなせていない。
それでも、他者を心配することのできる優しさを未だに持ち合わせているということが、男を奮い立たせた。
灯りもない牢獄。
ここにいる四人の魔術師以外に人の気配はない。
「……ッ!」
汚水の鼻が曲がるような汚臭と、顔をしかめるような濃い血の匂いが鼻を貫いていったことにより男は意識を完全に覚醒させる。
「――――〈祈願〉 『修復』」
男が呟いた言霊によって、ありとあらゆる存在の時間が巻き戻っていった。
「「「…………ぇ?」」」
不自然に体が軽くなっていくことを不思議に思ったのか、三人は目を見開いていった。
精神的な疲労によって力が入らなくなっていた空っぽの身体が、恐ろしいと感じるほどに力が入って行くことに驚いている様子の女性は男を見上げた。
「なに、これは……?」
「それは後で教えます。立てますよね?」
ボロボロになり酷い異臭が染み込んだ布を継ぎ合わせて造られたような服装すらも元に戻っていることに、更に驚嘆しそうになるが寸の所で押し留める。
「さぁ、逃げますよ。子供たちは私にお任せ下さい」
「ちょ……どういう――――――」
男は二人の幼子を抱きかかえると牢獄の扉を蹴り破った。
「私は貴女たちと同じ存在である〝魔術師〟です。名はダリィベラン、お好きなようにお呼びください」
掃き溜めが流れる王都の地下に造られた魔術師を拘束しておく場所。
普段は人族も近づこうとしない場所でも、魔力によって造られた牢獄の扉を蹴破ってしまえば気が付かれるのは当然のことであった。
「――――ほら、早く立って。上が騒がしくなって来ました」
温かく包み込むような低音の声音に促されるように、女性は立ち上がりダリィベランの背中にくっつくように立った。
「…………では、行きますよ。しっかり私に捕まっていて下さいね?」
彼は世界に願った。
この汚れた場所から、美しく心が休まる楽園へと景色が移り変わることを……。
そう願ってしまえば、後は世界が応答えるのだ。
――――王都の兵士が地下までに来る時間は五分足らずの短い時間だったという。
だが、もう既にそこには人の影すらも残っていなかった。




