運命覚醒 3
明けましておめでとぅごぜぃやす。
新年早々に小さき強盗団に玉を取られました。容赦なく
周囲から腹の底が震えるような呻き声が鳴っている。
もはや猛獣や魔獣といった枠を超えた、何者とも重なることのない正真正銘――――異形。
そんな化け物が森林で造られている獣を道を空けた。
「うんうん。何度見てもゾクゾクするような眺めだねぇ」
魔法具や防具の一切を装飾しない一人の男は、その道をまるで観光地を楽しむように歩いていた。
形は四足歩行の何か、型はこの世に存在する全ての生き物から一部を合成したかのような歪さ。常人ならば一目見ただけで失神してしまうような光景を男はひたすらに楽しそうに……そして愛おしそうに眺めるのだ。
「これで二回目。あの時みたな奇跡は起きない……のは少しだけ寂しいけど、これを失敗したらボクの存在意義が消滅しちゃうからね」
その男の眺める先はただ一つ。
青白んだ空の下に佇むような要塞――――亜人国家。
人族とは違い、獣とも違う。
ようするに理性が存在する人型の獣と呼ぶべき……ある種の〝異形〟。
世界に必要であると神々に造られた獣人族は、この男にとってただの研究材料の一つでしかない。
「全く……もうボクが落ち着いて研究しているはずだったのになぁ。まさかボク以外にも運命を辿れる人間がいたなんてね……あっは!!」
きっとこの先の運命で現れることのない最初で最後の創造生物。
いつの間にか人生を捧げてしまっていた、彼の研究の解答と言っても過言ではないそれを追い求めて――――ただ笑いが止まらない。
その笑みが空に浮かんでいれば三日月とは言えないほどか細く不気味なものであっただろう。
「ほら行くよ! 君たちがボクを夢に連れてく糧になるんだ!」
前の世界で探求した全てをこの世界へ持ってきた。
魔法というものには才能はなかった……いや、そもそも戦うことに才能がなかった。
が、国を滅ぼす程度ならば戦う力がなくとも出来てしまう。
彼にはそういう副産物を生み出してしまうほどの力があるのだ。
「うふふっ……あはははッ!!」
平和大陸の最北端。
この大陸にて最も重要な国であるのが亜人国家という最大の貿易国だ。
様々な種族が混じり合い、そして楽しそうに笑っていられる国。王都では絶対に見られることのない光景を造り出すことが出来るということは見かたを変えれば王都よりも価値があるもの。
だが、希望や幸せを生み出す場所には必ず絶望が存在するのだ。
その絶望は何でもいい。
天災であろうと、人災であろうと…………どちらでも良いのだ。
その場所を滅茶苦茶に出来る存在が〝絶望〟と呼ばれるだけ。
「哭けェ!! 叫べェ!! 高らかに……そして気高くだ!! 蹂躙しろォ――――我が子らよ」
蠢くように見える黒の塊。
数など……数えることを考えるだけで億劫になってしまう。
大地を揺らし、地響きが亜人国家に迫る――――まるで滅亡へのカウントダウンのように徐々に…………徐々に。
◆
微かに前髪が眉を掠めたくすぐったさに目を覚ます。
「……何か――――来るの?」
超直感。
存在しないはずの世界線の出来事ですらも感覚的に理解出来てしまう力――――『第七感』。
そのおかげと言っていいのか……メイガスは自分よりも二回りほど大きいベットから体を起こした。
「揺れてる……? いや、ただ寝起きだからかな?」
滅多なことが無い限り地震など起きるはずもない平和大陸。
それが地震というのならば、龍が現れる時くらいなものである。
「でも、私が反応したってことは何か起きてるのね…………お父さん起こさないと」
まだ微睡のなかで彷徨う脳を無理やりたたき起こして前に進む。
自室の扉に手をかけ、淡い明かりが照らす長い廊下を一人歩いていると妙に足の裏に違和感があった。
その違和感が焦燥を煽るようで徐々に意識に明確さが増していく。
気が付けば父親の部屋まで駆け出していた。
「父さんッ!!」
ノックも無しに父親の部屋に入れば、そこはもぬけの殻。
ただ頬を撫でる冷たい風だけが部屋に存在していた。
「…………父さん?」
辺りを見渡しても何か変化があるようには見えない。
その時――――嫌な予感が背筋を冷やした。
突き破るように壊れた窓へと駆け寄り、青白んだ夜空が映る外へと顔を出す。
「――――なに…………あれ」
真っ先に視界が捕らえたのは黒く蠢く何かの軍勢。
分からない。分からない……けど、一つだけ直感など関係なく分かることがあった。
それは体が硬直してしまうほどの恐怖と絶望感。
ブワッと身体中の毛穴が開いて汗が噴き出す。
もうあれはダメだ。
ただ貿易をしていた国では、とてもじゃないが守り切ることは出来ない。
「バル…………」
彼女はそう無意識に呟いた。
この絶望から救い出してくれるかもしれない唯一の希望。
この国を体一つで守り抜いた英雄の名を――――
「助けてッ…………」
今まで味わったことのない受け止めきれない絶望が彼女を襲った。
ただ、出来たことは一つだけ。
立っていることだけで精一杯な体を無理やり動かして、祈る。
「助けてよ…………!」
無意識にも縋ってしまった罪悪感と、自身に降り注ぐ無力さを嘆くことも出来ずにいる。
ただこの時は一人の少女――――それはまるで過去の自分の姿と重なった。
無力で、恐怖でブルブルと体を震わせていた過去の自分…………
それでいいの?
「……え?」
貴女だって彼と出会って変わったでしょう?
強くありたいと、そう思って強くなったでしょう?
今、この瞬間に貴女だけが出来ることは本当にないの?
――――目を覚ましなさい、私
ハッとなって意識が復活した直後、闘気によって強化された剣閃が夜の世界を照らした。
今回は驚くほど短いです。
まるで新年に変わった直後に去年を振り返った時のような感覚です。
問題は次ですね




