繋がれた鎖 4
毎日投稿できるようになるチートが欲しいこの頃
いやぁ、片付け追い出されたな」
「そうですね。ちょっと申し訳ないです」
亜人国家の東側へと向かう静まり返った夜の道を二人で歩く。
結婚したという事実によって周囲を揺らがした二人は、何食わぬ顔で片付けを手伝おうとすると「明日は夕方から凱旋するんだから」という理由でジュエリーによって帰宅を強要されてしまい今に至るというわけだが、
「どうだった? 全員良い奴だったろ?」
きっと今日の主役であったアレフィティナに笑いかける。
最初こそは〝味方ではない〟という認識を持たれていたアレフィティナだったが、気が付けばバルファと同様の人数が押しかけていた。
他者との親和性――――ありとあらゆる存在との共存と共鳴、流石は〝聖女〟と言ったところだろう。
「えぇ、味わったことのない安心感を覚えました。やっぱり今まで気が休まる時間が少なかったからですかね……何も気にしないでお話し出来たのは久しぶりです」
「だろう? 皆んな良い奴なんだよ。最初こそはあれだったけどな」
「えぇ。そう言えば、どうしてここへ?」
「あぁ――――」
静かに夜の道を歩き…………足を止めたのは何の変哲もないただの壁。
もちろん国と森林を遮る巨大な壁ではあるが、どこを見渡しても何もないことを不安に感じたアレフィティナはそう言ったのだろう。
だが、バルファは壁に手を伸ばし指の一本一本をピタリと壁に貼り付けた。
すると、黒く禍々しい魔方陣から触手のような得体の知れない存在がバルファの指を絡めていく。
「バ、バル!?」
「大丈夫だ。これは俺の知り合いの魔法だからな、正確には魔法とは違うらしいけど」
何秒か経過しただろうか。
逃がしはしないと言わんばかりに絡みついた黒い職種は壁に溶け込むように消えると、先ほどまで壁だと認識していた場所の一部が刳り貫かれたように消え去った。
「さ、行こうぜ。この道を真っすぐ行けば俺の家だ」
「もうっ、入り口なら最初にそう言って下さい! びっくりするでしょう?」
夜だからか……少し不気味、いや人を寄せ付けないような雰囲気を漂わせる夜の獣道。
確かに真っすぐ視線を上げれば微かな明かりが灯る横に広い家に目に入った。
東方の屋敷と呼ばれる建物に近しい二階がない作りに、夜を邪魔しない優しい光は王都に長くいたアレフィティナには珍しく映ったようだ。
「あそこ……ですか?」
「そうそう。あれも皆が力を合わせて建ててくれたんだぜ? スゲェだろ?」
「た、確かに凄いですね……。何だかようやく王都を離れられたような気がして安心します」
見えるものが変われば、世界はここまで変わるのかと心に染み込んでいくような感覚に安堵した様子のアレフィティナ。
不思議なことに体が軽くなったような気がした。
そんなアレフィティナの安堵とは裏腹に、バルファからは緊張が高まっていくように感じる。
「…………どうしました?」
「いや……確かここら辺から結界で守られてるはずなんだ」
バルファが立ち止まったことによって周囲の音がやけに耳に届く。
静まり返った夜の森というものはこうも静かなのだろうか……。
「結界というのは音すらもここまで?」
「いや、確か生物が近づくと反応するような仕掛けになっていたはずだ。それにただの結界じゃないって言われたから、俺みたいな魔力が無い奴には分からないくらい凄いやつなんだと思うけど……流石に音は聞こえ――――――」
音が聞こえない、視界も徐々に狭まるような昏さ。
本来ならば結界で区切られているはずの〝この場所〟は、ある意味で別の世界だと考えていいだろう。
だが、ここまでの違和感を覚えてしまうと本当の意味で別の世界へときてしまったのではないかと思ってしまう。
そう思えてしまえるほどに、この空間には生命を感じない。
「(あれ? 何か……――――)」
聞こえる。
そう呟いてしまう前に、アレフィティナの映す世界が急加速した。
「…………ッ!!」
「悪い、掴んでてくれッ」
あまりに突然の急加速に力一杯体に抱き着くも、背中に感じる風圧に耐えきることが出来ずにバルファにしがみ付くような形になってしまい頬を赤らめてしまう。
だがそれも、一瞬で我に帰ることになる。
「(バルファの体が熱い……?)」
体の内側から〝闘気〟が揺らめき溢れる姿――――『闘気解放』。
人族という他種族からすれば非常に脆い体ですらも、〝闘気〟と呼ばれるものをコントロールすることによって他種族と渡り合えるようになる技術。
極めんとすれば、十をようやく超える年齢だろうと陸戦最強とまで言われる戦闘種族の獣人族にも負けず劣らず戦うことの出来る力である。
「ティナは万が一のためにすぐに治療できるような状態でいてくれ! もしかしたら――――」
遠くも近くも感じない距離をたった数歩で駆け抜け、あっという間に屋敷の入り口に到着した。
「フリートたちが勘付いた可能性があ…………る?」
「――――――――……ッ」
「やぁ、待っていたよ? バル」
◆
凄惨な景色というのはどういうものを指すのだろうか……
革靴が染みるほどの血溜まりに足を浸すことだろうか。
名すらも知らない誰かの顔だけが木の先に括りつけられている光景だろうか。
意図的に分解された体の一部が至る所に飛び散り、臓物が噴き出る。男は皆殺しにされ、女は攫わて玩ばれるというのは、戦える時代のあまりにも残酷で当然の結末と言えるだろう。
誰しもが戦えることによって生まれる、強者と弱者の境界線。
生まれた瞬間から誰しもが納得してしまい、育つにつれて誰しもが恐怖してしまうような事実から〝強さ〟という確実性のない志を手に入れようとする。
だからこそ、〝強さ〟に〝強者〟というものには種類がない。
優しい心。
守りたい気持ち。
強かな精神。
どれも詭弁であり、自分自身が圧し潰されたくないという想いで造られた強さを知らない者た達が造り上げた現実逃避の何者でもない。
そんなものでは〝強さ〟は得られない。
そんなものでは〝強者〟に届かない。
〝強さ〟というものは求める者にしか手に入らない、何の変哲もない事実でしかない。
世界はあまりにも不平等でありながら、平等である。
故に〝善〟の精神というものは…………
――――そんなものは何も意味を成さないのだ。
それでも……それでもだ。
どうしても〝強さ〟が欲しいならばどうすればいいか。
答えは極めて簡単である。
体を壊し
考えを壊し
存在を壊し――――また起き上がる。
体を壊し
考えを壊し
存在を壊し――――また起き上がる。
体を壊し
考えを壊し
存在を壊し――――また起き上がる。
体が変わり
考えが変わり
存在が変わり――――また壊れる。
体が変わり
考えが終着し
存在が壊れて……――――――
その無限とも呼べる〝強者〟に至るまでの道を、ひたすらに進むのだ。
血を撒き散らし、自我を捨て、ただ純粋に力を渇望する。
狂気とも言えるそれを、永遠とも感じるそれを、終わらないとまで追い詰めてくるそれを、ひたすらに進んでいくのだ。
その末に掴み取ったものこそが……自らの〝強さ〟である。
「あ、あぁ……――――」
そして冒頭に至る。
手に入れた〝強さ〟振りかざし、考えを貫き通した結果……目の前には何があるのか、と。
宙に浮かされ者からは血が滴り、赤い影をつくりだす。
体の部位が損傷し、綺麗だと思った髪や肌が打撲痕と切り傷によって荒らされる。
「――――殺してやる……」
人によって凄惨な景色というのは違う。
人によって〝強さ〟が違う。
人によって〝強さ〟の――――強度が違う。
バルファという一人の青年が何のために力を求めたのか、それは本人すらも分からないの現状だった。
目を覚ました時に二つの白骨死体の腕に抱かれて目を覚ました。
師という存在に出会い、流され、促されるまま時が経ち気が付いたら剣を握っていた。
理由を求めることなく示された道をひたすらに進み心を学んだ。
「どうして?」と聞かれてしまえば分からない。ただこの大自然を守るためにこれまでに培ってきた全てを出し切り、守り切った。
「バル?」
バルファは良くも悪くも純粋で単純である。
故に、常人ならば絶望しかねない存在と戦える。
故に、届かない強さを目の当たりにしても、届くと信じ続けることが出来る。
故に、他者から与えられた〝善〟の心を誰かにも与えられるように変わっていける。
優しさに囲まれ、楽しさで包まれ、温かさを与えられた。
魔力がなかろうと、力がなかろうと笑っている人たちが常に周りにいてくれた。
誰にも辿り着けない――――自分自身の〝強さ〟を得た少年の周りには〝善〟の精神が存在したことによって、誰も寄せ付けない力を手に入れた少年は始めて自らの感情を露わする。
かつての仲間。
かつての同志。
そんなものは関係ない。
自分の家族とも言える者へ与えた凄惨な痛みに対して――――――今まで生きて来た人生で、感じたこともない隠された『殺意』を容赦なく振りかざす。
「『闘気解放』」
「なぁ、バル? 聞いてく――――」
あまりにも自然で、あくまで当然のような振る舞いをするフリートの首元目掛けて……一歩。
それだけでバルファの刀はフリートの体を両断することが出来る位置に立つ。
「話すことはない」
「…………ッ!!??」
研ぎ澄まされた何か――――あるいは殺意。
圧倒的な恐怖を感じたのかフリートは取り繕っていた笑みを消した。
だが、やはり三人は仲間なのだろう…………
「いいのぉ? こいつらが、どうなっても……」
「おい、殺すなよ。その獣人は俺が貰う約束だっただろう」
「イヤリス、それにゴーン。バルに聞こえるように話すなといったはずだよ? いくら僕たちに余裕があるからってこれからバルの力がいらないわけじゃないんだ。今の見てただろう? パーティを組んでいた時ですら見たことも感じたこともない力だ…………これなら魔王討伐も時間の問題だ」
余裕を感じさせるような笑みを再び浮かべるフリート。
自分の方が立場が上だと言わんばかりに口角を引き上げるイヤリス。
獣人の女を厭らしく見上げるゴーン。
その三人を――――黒く塗る潰された酷く冷たい瞳で見つめるバルファは静かに鞘を握った。
「〈領域解放〉」
殺意を言霊にしたような小さな声がフリートたちの耳に届く。
「……いいよ? やってみたらいい。それでも僕らを殺すのは無理だと思うけどね」
やはり、どこか余裕のあるフリートは両手を広げでバルファにそう言った。
背後で笑う二人もどこか余裕があるように見える……
その光景がアレフィティナの安堵を大きく揺さぶった。
パーティの中で唯一の弱者であったアレフィティナは四人の背中を見ていた。だからこそ、共に旅をしていた中で思い知ることになった。
「(バル……)」
バルファは間違いなく強い。
魔力が一切ないために魔法一切は使えない。
それでも、三人とはかけ離れた強さを持っていることを知っている。
それなのに、
「どうして……そんなに――――」
その呟きを消し去るかのような熱風が頬を走った。
『闘気解放』を行ったことによる生命エネルギーの放出、それによる無意識に体が反応したのだろう。
「天賦領域――――斬絶」
力一杯握られた鞘へと『闘気』を流し込み、歴戦武具が輝きを放つ。
そして溜め込まれた『闘気』を纏うように刀身が輝き、ゆっくりと鞘から引き抜かれる。
「見たことがないね……もしかして刀身を強化したのかな? まるで僕の歴戦武具みたいだね」
そう言ってフリートも瞼を細めてしまうほどの聖属性魔力を放つ剣を抜刀――――する寸前、バルファは刀を振るった。
本来ならば届くはずのない距離…………だが、
「天賦領域――――斬絶一刀」
キィィィン――――と甲高い鋼の音が耳に届く少し前の一瞬、フリートの胴体を容赦なく斬り裂こうとする斬撃の軌跡が描かれる。
「へぇ……――――」
音を超えた剣速の反動によって尋常ではない衝撃がフリートたちに襲い掛かり、土煙が姿を隠すように舞い上がった。
「守らず、防がず、二撃目はあらず」の心情の下、限りなく攻撃に特化させているバルファの剣技。
師や友……家族は斬れずとも、敵対してきたあらゆる存在を斬り裂いてきた一撃必殺の剣技である。
逆を言えば「守らせず、防がせず、一撃で終わらせる」という意味を持つバルファの剣技の前では、文字通り二振り目をした姿を見せたことはなかった。
「(終わった……の?)」
土煙が舞い視界が悪い。
何も持たない私では感じることも無理……だからここはバルファの動きを――――
「…………え?」
「………………」
油断した心を見透かすように、突然土煙が空へと舞い上がった。
「あははははッ!!!! 残念だったねぇ……バル?」
舞い上がった土煙から姿を現したのは無傷の姿をしたフリートたちの姿。
その光景を訝し気に睨みつけるバルファの姿が、対峙した。
突然のグロ・シリアスでごめんね




