繋がれた鎖 2
呪術廻戦見てますか?
面白いですよね。
貿易をするための国とは言えど、全て最新な技術によって栄えている亜人国家。
様々な種族が街を闊歩し笑い合う姿は国を治める者としての理想を表しているかのようで、朝から夜まで延々と「楽しそう」で溢れているのが国の代名詞でもあった。
「ユーリーさん! おかえりなさい!」
「あぁ、ただいま」
街をかける様々な獣人やエルフ族の民に笑顔でそう返す。
「ユーリー様、お帰りなさいませ」
「そう固くなることはない。せめてここでは柔く行こう、衛兵たち」
街に入ってからというものの、未だに会話のない時間がない。
それほどユーリシスという人物の顔が広いということなのか、それともユーリシスという存在が有名なのかは知らないが全員が笑っている。
「おかえり」そう言ってくれることに密かにほくそ笑む。
「(これで今日の仕事は終わりか…………)」
歩き続けて数分。
城……とまでは言わないものの頑丈そうな見た目と造りから要塞と呼ばれる亜人国家を守るために建てられた場所に足を運んでいた。
目の前には大勢の兵士が戯れている様子、どうやら昼休憩のようだ。
「お、ユーリシスさんや。どうしました? わざわざ転移魔法まで使って昼頃に帰ってくるなんて」
一人の獣人がユーリシスに声をかけると休憩中の兵士全員の視線がユーリシスに向いた。
全員が笑顔を手を振る、そうやって帰って来たことを祝福してくれる。それほどまでに〝ユーリシス〟という人物を顔を知っている者が多く、慕っている者が多いというわけだ。
その姿はまるで『理想の王』である。
「違う、今回は仕事が早く終わっただけだ。それよりもジャバウォックは中にいるか?」
「え、えぇ……ちゃーんと仕事してますけど? もう仕事が終わったってどういう――――」
「それはこれから嫌でも知ることになるだろうさ」
誰しもが驚くだろう、そう考えただけで少し笑みが零れてしまう。
何せ、自分ですらも久しぶりに会った時は笑ってしまったから。
「それではな。訓練に励めよ」
要塞と呼ばれるだけあってよっぽどのことが無い限り傷がつく程度で終わってしまう建物、ドワーフたちが自らの先祖が造ったヴァーテクスを模倣して建てた言われている。
ただ、そこに〝王様〟が住んでいるようには見えないというのが唯一の欠点ではあるが立場が上の者が住んでいるということだけは分かる。
壁も、床も、黒と灰色を混ぜ合わせたかのような鈍さ。輝いてはいないものの重厚感に包まれている通路を歩いていけば開けた場所に到着する。
「あぁ……もう分からん。儂には無理じゃ。筆など取りとうない、もう紙を見るのも億劫じゃ」
「何言ってるんですか! あと二枚だけでしょ! このくらいやってください!!」
「えぇ……ダメじゃ、手が動かん。酒が呑みたい、肉が食いたい――――あ、祭りじゃ。今日は祭りしよう」
「ちょっ、もうっ! しっかりしてよお父さん!!」
「あ、何か元気出て来たぞ? あと五回……いや十回『お父さん』という響きが聞きたいのぉ」
この開けた場所には多くの亜人たちが仕事をしている。
その中で二人ほど騒がしくはあるが、全員が「またか」という表情で自分の仕事に取り掛かっているところを見るにこれがいつも通りのの光景なのだろう。
その変わらない事実に小さく笑みを溢す。
「相も変わらず、だな。ジャバウォック」
「ユーリシス? なにしてるんじゃ、仕事は?」
「お前と違って終わっているさ」
「終わってるぅ? 何を言ってるんじゃ、人間たちの港は往復でも一週間はかかるじゃろうて。ちゃんと仕事をしていれば一週間以上はかかるじゃろうが」
「相変わらずの察しの悪さ、お前は少し物事を考えて発言したらどうだ? 曲がりなりにも国を任されている〝王〟だろう」
「え、流石に言い過ぎじゃない? てか儂に厳し過ぎない?」
存在自体が伝説上となった〝龍〟。
今も尚、天を泳ぎ世界を跨いでいる伝説上の生き物だと言われていた〝それ〟が今は目の前で大量の書類をほったらかしにしている。
きっとこの世界で唯一の存在であり、生物の食物連鎖の頂点に君臨する最強格。
それが亜人国家を治める者――――人化の呪いを受けた〝龍〟。
「ジャバウォック」
「あー、あー、聞こえないぞ。儂は今深く傷ついているからなぁ」
整えられた髭を玩びながら明後日の方向を向いて逃げようしている、途轍もなくふざけた龍である。
隣で仕事を手伝う人との間に生まれた愛娘メイガスが頭を抱えているのを見れば、ここ何日かは適当な状態だったのだろう。
「――――そうか、残念だ。今日は祭りが出来そうだったのにな」
普段は真面目で規則正しいユーリシスが祭りなどとふざけたことを言えば一斉に視線の的になる。それはきっとどこにいても同じで、この亜人国家の環境を整えている管理局も同様だ。
頭が固く、融通は利かず、ユーモアにかける。そんな三拍子が整った不真面目な王を支える者たちだが、まさかユーリシスが『祭り』などと急に言い出すとは思わなかったらしい。
「…………なに?」
「お? 聞こえないんじゃなかったのか?」
「うぐぅ……儂いじめられてない?」
「しかたありませんね。お父さん仕事しないし」
メイガスの一言で管理局の皆々は静かに頷いた。
「ふふっ、相変わらず愛されてて何よりだ。それより聞こえるようになったのなら丁度いいな、まずは悪い知らせからだ」
「えぇ、それはユーリシスがやる仕事じゃろ?」
「いや、これはもう僕の管轄じゃない。人族が獣人に手をかけた……『隷属の首輪』というアイテムを使ってまでだ。原因は私利私欲のために近いことは分かっているし、皮肉なことに解決した者が原因の一つでもあるがな」
「被害にあった者たちは?」
『隷属』や『奴隷』と言った言葉に敏感な亜人たちはユーリシスの言葉を聞いた途端に〝獣化〟し始め立ち上がった。
「もうこれは戦争だ」
「狼煙を上げたのは向こうからだしいいんだろう?」
「……ぶっ殺す」
怒りという膨大なエネルギーが一定に圧縮されていくのを勘付いたユーリシスは霧散を促すために
「さぁ? きっと今頃は港で大騒ぎしてるんじゃないか?」
あっけらかんとそう言った。
すると立ち上がっていた者たちは「へ?」と声を合わせる。
「大騒ぎ…………いいなぁ」
「まぁ話を戻すが、結果として人族への物資提供を止めることにした。これは独断と偏見じゃない、歴史的契約に則った誓約違反だ。あとで人族の王へ追求を頼む」
「承知した。儂から声を届けよう」
「そうしてくれ。……そして、ようやく良い知らせを伝えられるのだが――――」
ユーリシスは管理局にいる鼻が利く獣人たちの方を向いて笑う。
「僕についた匂いを嗅いでも分からないか?」
エルフは魔力を覗く。
ドワーフは第六感によって閃く。
獣人は嗅覚で定める。
誰しもが知る常識の中で、確かな証拠を確認出来る者はここに三人。
黒狼族と仲が良い白狼族の女性が二人、剛力によって建築業を営むのが一般的な熊獣人の男が一人。
生まれたばかりの子供でもない限り、分かるだろう?
僕からする僕とは違う強者の香り…………
「バル———————の匂いがする」
「いやでも、バルって確か魔王討伐するとか言って連れてかれたよね? 何年かは戻らないって」
確かな証拠があっても信じられないか。
そうだろうな、もしかしたらたまたま出会っただけかもしれないしな。
「なら、お前たちは港に行ってみるといい。もしも自宅に帰っていないのならアイツはまだ絡まれていることだろう、仕事は僕とジャバウォックに――――――――」
「すみません。お父さん、飛んで行きました」
先程まで椅子にふんぞり返るように座っていた彼がいなかった。
「…………まぁ、いい。ここは僕に任せて行って来い、そして笑い合ってくるといい」
〝龍〟であるジャバウォックが出向いたということは、そういうことだろう。
そんな意思を全員が感じ取ったのか我先にと管理局を飛び出して行った。
「メイガス、お前もだ。久々に会って来い」
「でも仕事が…………」
「この程度の量なら僕の魔力操作で一時間もかからない。気を遣わずに行って来い」
「……うん! ありがとう! ユーリーさん」
それから港は大騒ぎになり、本当の祭りをやることになった。
ジャバウォックは気分が高まって天に向かって火炎を放ち、ハバンはバルファの隣でずっと肉を貪り、国中の亜人たちが英雄の凱旋を笑って迎えたのだ。
だが、ここで問題が起きた――――――――
「け、けけけ結婚ッ!!??」
そんなメイガスの一言から亜人国家の日常もまた変わろうとしていた。




