大嘘結婚 2
青い鳥で書くと言ってから今日までの間。
俺はハンターだった……
すまない!!
超巨大戦艦ヴァーテクスでの生活は、およそ船の上で生活しているとは思えないほどに快適なものだった。
もはやヴァーテクス自体が海上を走る〝要塞〟のようなものであり、ただ歩いているだけで見当たるような平凡なものではない。
広さは十分、室内は快適、獣人だろうがエルフだろうが人間だろうが全員が会話を楽しむような平和的空間は、立場的に唯一の存在のアレフィティナには心地の良い場所になっていった。
……たった一つのことを除いたら。
「聞かせてちょうだいよ、アレフィティナ! どんな感じでバルファ様を攻め落としたの!?」
「そうよ! 亜人国家では、どんなに攻められても崩れない難関不落の男だったんだからね!?」
「い、いえ……落としたなんて」
亜人たちにとっての〝英雄〟であるバルファの妻という立場。
それは予想を上回るほどに注目されてしまうものだった。
自分の知らないバルファの一面は相当なものだったらしくヴァーテクスに乗る〝女〟たちほぼ全員がバルファに釘付けだった様子で、その妻であるアレフィティナは必然と囲まれてしまう。
現在、ヴァーテクスでの生活は三日目。
厨房で亜人たちと大量の料理の仕込みをしている途中の昼食前。
ちなみに、三日間で一人になった時間はトイレのみ。
常に友好的視線に囲まれながら、獣人とエルフの女性陣に混じって男性陣の日常生活の補助をしていた。
「そろそろ話した方がいい。人間はどうかは知らないけど、ワタシたちは強い者に惹かれる。そして全員がバルファに夢中、だけどバルファは鈍感だからくっ付いてくれなかった。故に全員がアレフィティナに夢中」
「そうそう。まぁ三日も一緒にいたら何となく分かってきたけどね~」
トントンとリズムを刻むまな板。
油が弾ける音が鼓膜を震わせる。
そんな様々な音が聞こえる場所で、ゆったりとした声音が協調された。
「ジュエリー?」
ハバンの妹の一人。
そしてハバンとは性格が真逆にも等しい、どちらかと言えばバルファに近いような明るくハッキリとした性格の女性。
「何でもこなせて、何でも許して、何でも手伝って……ティナは良い女だからねぇ。流石にあのバルファでも感覚的に気が付いたんでしょ」
「あり得る」
「そんなことは無いんじゃないでしょうか……実際に私がやれることというものがそれだけなんですよ。いつもいつも戦って守ってくれるのはバルの方ですから。負担で言えば私の方がかけてますからね、ここで頑張らないと私が支えられる部分が無くなってしまいます」
「なぁーに言ってんの? 男が女を守るために戦うってのは当たり前でしょ」
「ワタシも英雄に守られてみたい」
「アレフィティナ、そんなに自分を卑下してはダメよ? それでは守ってくれるバルファ様に失礼。それに結婚しているのなら尚更よ」
「男はね、自分の女には良い女でいて欲しいの! だからいつも通りでいこうよ? こんなに頑張ってるんだからさ、夫との優劣つけるなんて勿体ないよ」
こんなに会話をしていても次々と料理が完成されていくのだから凄い。
獣人である二人は普通なら考えられないようなサイズの大皿を軽々と持ち上げて食卓に並べ、エルフであり双子の姉妹は見たこともないような魔法を無詠唱で使い続けていたのか、大量の料理をいつの間にか作り上げていた。
「それでッ! どうやって結婚したの? とっちからのプロポーズなの? いつ頃から結婚してたの?」
三日間の間に同じ質問をされた記憶は数知れず……
アレフィティナからすれば想定の範囲内であり、少しだけ頬を赤らめてしまうような御伽話を脳内で再生させる。
「そ……それは、バルの方から――――」
まるで夢の中でしか起きないような、自分だけが幸せになれるような造られた話。
これから先にあり得るかもしれないような、あり得ないかもしれないような、本当と嘘が混じった物語を口先から流れるように吐き出していく。
これは二人で考えた……というには少しだけ語弊があるが、バルファも話しを合わせることが出来るくらいにはお互いで考え合った。
「結婚に関しても、プロポーズは……バルからの方です」
「えぇ!? あのバルファ様が!?」
「自分から!?」
「えぇ……それに何回も言ってますが、私たちは結婚してから間もないですよ? 王都からの逃亡を経てから、ここまで向かって来る短い時間での出来事でしたから」
「んじゃさっ、ティナはプロポーズされてどんな気持ちだった? やっぱり嬉しかった? それとも感動した?」
結婚しているならば何の変哲もない一言が、アレフィティナの思考を止めた。
〝結婚〟というものが嘘でありながら結婚している状態であるアレフィティナは、そんな単純なことでボロがでそうになってしまう。
もしも、そんなことを……と想像してしまうだけで体内の血液がグツグツと熱くなってしまうほど恥ずかしいからだ。
「……分からなかったです。色んな感情が溢れてしまって」
今の精一杯。
これで納得してくれと瞼を閉じる。
このままの流れに身を任せてしまったら、火照りと緊張で思わずあることないことを口走ってしまいそうになる。
「恥ずかしがってる姿が可愛い」
「まぁ嬉しいでしょうよ、こんなに顔を赤くするくらいに好きな人と結ばれる瞬間なんだからさ」
「ジュエリーだって気になるでしょ?」
「もう少し聞きましょうよ」
「気になるけど、それはまた夜。今は明日到着予定の亜人国家に卸す荷物の選別と確認をしている男たちのメシを並べるのが先だよ」
女性陣のリーダーであり、このヴァーテクスの生活の全てを管理しているジュエリーの命令には流石に従わざるおえない皆は一斉に各自行動に移る。
それはアレフィティナも同じで、大量に造られた料理を並べ始めてるのだ。
「(また夜に聞かれるのかぁ……)」
あまりにも量が多い料理の品々はバイキングコースに沿って並べられていく。
大陸それぞれの料理、大陸それぞれの飲物・酒。それこそ見ているだけでお腹が一杯になってしまいそうなほどの量を船の男たちは平らげてしまうのだから凄い。
「さぁて……今頃、バルの方は看板で警備しているだろうか行っておいでティナ。ワタシらは各部屋に回って呼んでくるよ」
大広間から扉を開いて真っすぐ伸びる道を歩いて行くとヴァーテクスの外へと出ることが出来る。初めて船に乗り込んだ時と同じ道だ。
外とは違う暖色の明かりが照らす道の奥には真っ白に塗り潰された外の世界がある。
「……ティナ? 昼飯か?」
その世界には一人だけ。
看板の先頭に座し、広大な海と雲一つない空を逐一確認している男。
「えぇ、そうですよ。だから呼びに来ました」
船が走ることで出来るさざ波の音が心地いい。
海上から見える景色は同じようで同じではない、それもまた地上にいる時とはまた違う面白さだと思う。
だが、バルファは海を眺めるために船の場所で一番見晴らしがよく動きやすい場所にいるわけではない。
ここに来た時にユーリシスに言ったことを全うをしているのだ。
「…………まぁ、大丈夫だろ。よしっ飯行こうぜ」
穏やかな大海原を一度見渡し、何事もないことの確認をすると座っていた状態から弾むように飛び上がりアレフィティナの隣へと着地した。
「バル。一つだけ相談事があるんですが……」
「ん?」
「そ、その結婚の内容について……なのですが」
「あぁ……やっぱりティナの方も大変か? ホントに悪いなぁ、亜人の世界では変に有名になっててさ。俺はただ師匠に言われて修行してただけなんだけど」
「それでもこれほどの方たちに〝英雄〟と呼ばれるに相応なことをしたんでしょう? 聞きましたよ、魔獣の軍勢をたった一人で壊滅させた挙句に付近に住んでいた孤児を保護したんでしょう?」
「まぁ……孤児ってほど子供ではないけどな。それに近くにいたし、俺以外に助けられる奴いなかったからな。ていうか、ティナもその話し知ってたのかよ」
「私の話し、結婚の話し、そしてバルの話し、この三日間で詰め寄られた内容はこんな感じですかね。おかげでとんでもないモノを捏造してしまった気分です。知らないところで徐々に徐々にと巨大になっていくのが分かります。ですから、昼食後に二人で話しましょう? これからのことを」
「俺はもちろん良いけど、外にいると日焼けするぞ? 見てみ、この腕」
視線を落とすと肘から下の色がハッキリと変わっていることが分かる。
「良いんですよ、既に私の体は〝女〟と呼ぶに相応しいものではありません。それでは昼食を食べましょう? きっともう皆さん待っていますよ」
「……あいよ――――」
そういって扉を開けて広場へ入っていく瞬間、微かに纏わりつくような悪寒が背筋を撫でた。
「……ッ!!?」
「どうしました!?」
普段通りに過ごしていれば絶対にしないような速さでもう一度看板に戻っていくバルファを追いかけるように、アレフィティナとその他の獣人たちが外に出た。
「どうした、バル?」
ハバンが骨付き肉を頬張りながらバルファの背中に声をかける。
だが、バルファは微動だにしない。
「バル……?」
誰の声も届いていないような、聞く余裕もないような……
「ハバン、もう少しで亜人国家に着くんだろ?」
「あぁ。明日の今頃に着いてる」
「なら、ヴァーテクスの速度を――――――」
耳の中をかき混ぜるような暴風が看板に出ていた全員を揺らした。
そして、突然夜になった。
「え……」
「うわぁ!!!? 飛竜!?」
上空には太陽を隠すような飛竜と、それに跨る騎士の姿が見られた。
そして、誰かの叫びにも似た驚きの一言が飛竜の耳に届いてしまう。
――グガアアアアアアアアアアァァァ!!!!
「出来れば飯を食った後にしてほしかったな」
週一で書いていきたい。
欲を言えば二日に一話いきたい。
でも、考えれば考えるほどダメな部分が出てきてこうなるんだ。




