大嘘結婚 1
題名を考えるのに半日
モンハンをやるのに一週間。
ほんまにすんません!!
超巨大船ヴァーテクス。
和平を結んだ全大陸を繋げるためにエルダードワーフたちが総力を挙げて造り上げた技術の結晶とも言える、大陸最大の船。
そして大陸と大陸を繋ぎ潤すことから〝生命の神船〟とも言われる船だ。
遥か昔に造られた物だが、今も技術の最先端を言っていることからドワーフたちが挙って研究を続けているような現存する文明として知らぬものなどいない。
だが、これはあくまで亜人たちと人間を繋ぐために造られた物。
亜人たちが人間たちのために造ったものだからこそ、ヴァーテクスに乗れるのは亜人に限られる。
故に使って良い者も全ては亜人。またヴァーテクスすらも亜人にしか動かせないような設計になっていることから、喉から手が出るほどの技術力が目の前にあっても人族らは黙ってみているしかないのが信頼関係に隙間を与えてしまっているのかもしれない……。
「全くあの獣共が……どうしてワシらが受け取りに行かねばならんのだ。アイツらが運び配れば良いじゃないか? ワシも王も暇ではないんだがな」
黒塗りの高級感が溢れる馬車の中から、目の前にそびえ立つ高い塀を見上げながら呟いた男。
人族の中では知らない者はいないのではないかと言えるほどの商人であり、色んな意味で有名になってしまっている男。
『ラズハ商会』と呼ばれる人族では知らない者はいないほどの、巨大な商会の頂点に立つ男である。
良い商品を良い値段で買い取り、良い商品を良い値段で販売。
接客もその対応も最高級。歴史ある国王たちとも連携をとっているような名のある商会だ。
だが、今代は少しだけ民意が離れている側面がある。
働いている、国に貢献しているといった面では騎士団と同等くらいに貢献をしているものの如何せん性格に難があることで国民たちからは評判は良くない。
「そう言いなさらないで下さいよ、ラズバ様。この荷物を受け取らないと王様に怒られるのはこっちなんですから、それに人族の神聖な場に亜人如きを入り込ませたくないでしょう?」
下から下からと相手に気分を乗せようと言葉を返すお調子者にも見える従者の男は、ラズハの気分を損ねないように気を使っているようだが気疲れを見せるようなことはない。
むしろ、自分も貴女と同じことを思っていますよと言ってるように見える。
「はぁ……全く。最近あった勇者たちの仲間割れのおかげで王都は甚大な被害にあっとる、それに魔族の動きも活発になっているらしいじゃないか。やることが多すぎる……」
「それは仕方ありませんよ。ラズハ様のように大陸中に名を響かせておりますと、王すらも頼らなくてはなりません。どれもこれも有名が故の名誉と思えば良いじゃないですか」
「……それもそうだな。勇者も王もワシを頼らなねば生活が循環しないことを知っておる、なかなか身の程を知っているというものだ」
「その通りでございます! どうせここにいる亜人共も人族の技術で造られた物がなければ生活が出来ない模様、結局は誰もラズハ商会に頭が上がらないというわけでございます」
「ふっ、はははは! 当然のことだなぁ!」
たった馬車一つを守るために集められたのは、今から戦争でもしに行くのかと聞かれてもおかしくはないほどの人数――――およそ二百人。
そのどれも冒険者ギルドから派遣された冒険者の中でトップクラスの実力を誇る猛者たちと、それぞれ貴重な才能を持った魔導士たちだ。
全員が自らのアイテムボックスを用いて積み荷を運ぶだけの簡単な仕事で雇われている者たちではあるが、顔つきや雰囲気が積み荷を運ぶ者の表情ではないことは確かである。
「――――それにしても開門まであと数刻と言うのに動きがないですね……」
いつも通りの月一の貿易。
大体が昼に積み荷運びが終了するように調整されているが、既に時刻はいつもの時間よりも進んでいた。
「ふっ、今は調子が良い。その程度は許してやろうじゃないか」
「ラズハ様は寛大ですねぇ。その亜人を許す心! きっとここにいる誰よりもお強いことでしょう!」
人族の中には亜人を差別する者たちがいる。
それが人族主義者と呼ばれる、人族が世界で最も優れた存在であることを信じている者たちだ。
今までの歴史を覆してしまうような爆弾発言をしてしまう者も少なくない過激な組織とも捉えられるような者たちだが、それでも黙認されてしまっている。
実際に亜人たちが人族に対して問題を起こすこともあるからだ。
「だがワシが黙っていても背後にいる飛竜が黙っているか分からんなぁ……」
チラリと視線を外に動かすと竜騎士に宥められている飛竜の姿を確認する。
「おい兵を一人、貿易国に行かせろ」
「かしこまりました――――」
そう言って外に一人で出て行く参謀。
だが、その後――――事件が起こる。
「ラ、ラズハ様!!」
珍しくノックも無しに馬車の外から顔を突き出した参謀の額には汗が滲んでいた。
だからラズハもただ事ではないと思え、
「どうした」
愉快に香りを楽しんでいた葉巻を口から離す。
「もぬけの殻です……」
「何を――――」
言っているのだ?
「貿易国の中には塵の一つすらもありませんでした……」
参謀の言葉に一挙に何百と人数が集まる貿易国前の広大な荒野は、まるで時が止まったかのように静けさが広がっていった。
◆
どれだけ早く走っていようと、誰もが視界に捕らえられるような大きさの『ヴァーテクス』が霧の如く霧散した一時間ほど前のこと……
「――――ということは、バルは亜人国家に帰るってことでいいのか?」
二人を背中に乗せて大地を駆け抜ける黒い影、早すぎるが故に鉛筆で引いた一本の線のようにも見える。
瞬く間に貿易国に到着しては高すぎる塀を軽々と登り、現在は人の姿に戻ったハバンの後をついて行っている状態であった。
「そうなるなぁ。何事もないならまた傭兵活動再開しようと思ってる」
「それなら良かった」
「ほ、本当に私も一緒に乗れるのでしょうか?」
亜人しか……亜人だと認められている者以外を乗せることは出来ない『超巨大船ヴァーテクス』。
亜人認定の人族であるバルファは間違いなく乗れるが、そのバルファが連れて来た元勇者パーティの元聖女であるアレフィティナが乗れるとは限らない。
「ティナのことをバルの嫁だと説明すれば大丈夫だろ。それなら誰も反対出来ない」
「よ、嫁!?」
「あぁ……皆もきっと快く受け入れてくれる。何て言ったってバルファの嫁だ、良い奴に決まってる」
「おいハバン。ティナは良い奴だけど俺の嫁なんかじゃなねえぞ? 仲間なんだ」
「仲間だろうと何だろうと、そうしないと乗れないぞ? 初見で信用させるにはこれしかない。ほら、それにそろそろ皆とご対面だ。早くそういうことにしてくれ」
貿易国の中には誰もいない。
既に仕事を終わらせた船員たちは、全員が船の中でハバンの帰りを待っている。
今は入り口付近に立っているが、あと一歩踏み込んでしまえば他の獣人たちの嗅覚範囲に入ってしまいかねない。
決めるなら今である。
「…………よしッ、悪いなティナ。覚悟を決めてくれ」
「――――もちろん。もう既に覚悟は決まってます」
ふわりと赤い光が二人を包み込んでいく……
「……もう良いか? そろそろ行こう。商人たちが来れば船から対応する奴が来る、それまでに二人のことを教えておかないといけない」
一歩。
その一歩を歩み出すのは、とても簡単なことだった。
「取り合えず、亜人国家に到着するまだな。ちなみ言うと俺、結婚について全く分からないから頼むな?」
「ふふっ、今まで通りで良いんですよ。貴方のサポートは私に任せて下さい」
ハバンを先頭に歩いて行くと、船の中から獣人が一人現れた。
きっと今までに嗅いだことのない人族の匂いに警戒して飛び出してきたのだろう。
「そいつら誰だ……ハバン」
猛犬種の男だろうか。
嗅覚も力もある守護犬種とは違い、殺意が高く名の通り獰猛な種族。
見張りとして先陣を切らせるにはもってこいの獣人だ。
だが様子が少しおかしいと思えるほどに、瞳には殺意が込められていた。それも人族であるバルファとアレフィティナの二人を射抜いている。
「ランズ、落ち着け。まずは中に入れてくれ、そうすれば分かるだろ」
「……ハバンが言うなら良いだろう。だが今は全員の気が立っている、注意しろ?」
ハバンは持ち前の脚力で、バルファはアレフィティナを抱えて、見上げても一番上が見えないような船に向かって飛んだ。
船の看板に着地した三人は潮風を長時間浴びても錆び一つない扉を開いて中に入っていく。
「内装も城に近い作りなんですね」
「だなぁ~、俺も初めて入ったけど凄いよな」
光を放つ鉱石が照らす廊下を抜けた先には明かりが点いている。
声も薄く聞こえるが何を言っているのかは聞き取れないものだ。
「バル、血の匂いだ」
「誰か怪我してんのか」
「人族の匂いも混じってる……」
気持ちが焦っているのか、ハバンの歩く速度が心なしか早くなっていく。
それについて行くようにバルファも後を追いかけるように、廊下を抜けて広場に出た。
すると……――――
「おっ、さっきの奴だ」
「お、おぉ!! 我らが英雄!!」
傷だらけになった獣人の十数人。
どの獣人も見たことがある、先ほどアレクやディーナが住んでいる貿易国の中間にある村の外で戦った隷属されていた者たちだった。
「いや、そこまでじゃねえよ。で? 何でそんなに怪我してんだ……って考えれば分かるか。ティナ、ポーションも回復魔法もふんだんに使ってあげてくれ」
「分かってます」
「……取り合えずは大人しく治療されながらだ。まぁ、大体の想像はつくけどな。王都から逃げてきたのか? よく帰って来たな」
「えぇ……家族持ちは全員ここに。後は船を持っている者たちは別々に個人で帰っている、上手く逃げ切れたと思う」
「詳しい話は――――――」
「私が聞いた」
女性のような声に近い高めの声が、大勢の困惑している亜人たちを切り裂くように響いた。
「〝ユーリー〟!」
「久しいな……、バルファ」
百人近くが乗り込んでいるヴァーテクス、その中には力のある獣人と知力に長けたエルフ族が乗っている仕事の効率化をキッチリと管理している無駄のない戦力。
もちろんのこと、亜人だからと言って全員がバルファの姿を見たことがあるわけではない。
だからこそ急に現れた人族に対して、ここにいる獣人とエルフ族はいい顔をしなかった。
だが、今は違う。
「バルファ?」
「バルファってあのバルファ?」
「……ん? オレってもしかして今、凄いことになってるのでは?」
ざわつく周囲からでもはっきりと分かるくらいには、バルファの名前が聞こえてくる。
「どうした? もう魔王討伐とやらは終わったのか? それとその人間は誰だい、私の記憶が正しければ〝聖女〟と呼ばれていた者に似ているような気がするけど」
「まぁ待てって。そんなことよりも今はこっちのことだろ」
「いや、関係はある。彼らは勇者たちに隷属されていたと言っている、命令はバルファ……お前を捕らえることと聖女である者を殺すことだ。だから皆がここまで人族に対して酷く警戒しているんだよ、警戒に外へ出たランズがそうだっただろう?」
「いやホントに関係ないわ――――――」
あっけらかんと言えばいいのか、それともざわつく周りを静かにさせるためにワザと強く言葉を響かせたのか、バルファは誰しもが聞いている場で言い切った。
「だって、今治療してるのは俺の嫁だからな」
「は?」
ユーリシスが口をあんぐりと開き、一瞬で我に帰りハバンを見るとハバンも深く頷いている。
「聖女だか何だかとかもう関係ないんだわ。俺たち二人とも勇者と対立して王都抜けて来たからな」
「……そのせいでこの方たちが被害にあったことは本当に申し訳なく思っております。大変申し訳ございませんでした」
治療しながらも頭を下げるアレフィティナをこの場にいる全員が注目した。
明らかに少ない魔力量、明らかに初級の何の役に立つのかも分からないような回復魔法を唱えながら一生懸命治療をしている姿が瞳に深く掘り込まれていることだろう。
そして誰もこう呟くのだ――――〝聖女〟と。
「俺からも謝っておく、本当にすまない……。そしてこれからは償いをしていこうと思ってるし考えもある」
「考えっていうのは何だい?」
「俺は亜人国家に帰るからな。それまでの間の守りは俺に任せて欲しい、そして亜人国家に到着してからも前と同じように傭兵に戻る。これ以上人間の好きにはさせないことを俺が勝手に誓わせて貰う」
そう言ってバルファは自身の目の前に腰に差していた歴戦武具である刀を置いた。
それを見つめる周りにいる獣人とエルフたちは、ユーリシスの言葉を待っている。
「……ふぅ、バルファがそこまで言うなら任せるよ。それにそっちの女性も良い人そうだしね?」
「全部任せてくれ。海竜が出ようと、天竜が出ようと、俺が全部守ってやる」
航海で起こる最大の危険は海竜と出くわすことと、空を優雅に飛翔する天竜に発見されること。
きっと人族の最大戦力である勇者ですら二体同時に襲われたらただでは済まないだろう。それでも守ると言ったのは〝命を賭ける〟ということを表しているのかもしれない。
「ふっ、そういうことなら良いね。私たちは平和大陸から離れるとしよう」
ユーリシスが不意に指を鳴らすと船が少し傾いた。
「……よし、全部回収した。それじゃ出発だ、イーバル! ヴァーテクスに透過の魔法を頼む!」
「かしこまる」
イーバルと呼ばれたエルフ族の男が壁に触れた瞬間、壁に魔力回路が走り広がっていく。
「バルファも来たことだし、もう平和大陸に未練はない。だから積み荷をくれてやる必要もないよね」
こうして亜人たちに見限られた平和大陸。
本来あるはずの荷物が無かった商人たちは焦り、報告された王は頭を抱える。
これから始まる魔王との戦いに不安が残る勇者パーティの心を激しく揺さぶるように、最悪という名の感情が波のように押し寄せてくる。
◆
とある大自然が広がる孤島――――
「がはははっ!!」
「何よ……相変わらずうっさいわね」
「見ろ!! 儂の弟子がやりおったわいッ」
愉快そうに笑う初老の爺が手に持つのは一つの紙切れ、それに記されていたのは王城を真っ二つに切り裂いているバルファの姿。
「はぁ!? あんたの弟子は人族でしょ? そんなことしたら――――」
「いい! いい! 順調に進んでる! マニュアル通りじゃねぇのは良いことだぁ!!」
野太く豪快な笑い声が大自然に鳴り響く。
隣には耳を塞ぐ小さき少女が、殺意の籠る視線で射抜いていたとか……
これから焼尽いたしやす。
最後らへんが適当になってしもうてる……




