第8話
話の中で、米内久子は、帽振れで少佐になった、という描写があり、分からない人がいるかもしれませんので、補足説明をします。
旧大日本帝国海軍では、昇進してすぐに待命又は予備役編入になること、名誉昇進になることについて、上官が転出する際、艦上から帽子を振って送り出すことから、「帽振れ○○」と言ったとか。
(私が書籍資料で確認する限りは、中公新書ラクレの「歴代海軍大将全覧」の中でも、そのような描写がありました)
そうした背景から、久子の最終階級については描写している、ということで平にお願いします。
(要するに少佐に昇進してすぐに、久子は予備役に編入されたのです)
米内松江は、改めて実母の久子のことを追憶した。
松江にとって、久子は産みの母ではあったが、育ての母では無かった。
何しろ、自分が満1歳になってすぐの頃に、久子は欧州へと出征したからだ。
そして、久子が欧州から帰還したのは、自分が小学校に入学した後で、家族の中では最も遅く、欧州から帰還する有様だった。
(欧州に出征した松江の家族の中で、最も早く欧州から帰還したのは養父の仁だった。
それから一月近く経って、実父の洋六も欧州から帰還したのだが。
それから暫く経っても、実母の久子は中々、欧州から帰還できなかったのだ。
久子自身の言い訳や、洋六や仁の言葉に依れば、久子は余りにも有能過ぎたのだ。
対ソ戦の為に欧州に展開した日本陸海軍の重爆撃機部隊の整備や、この頃は黎明期といえたジェット軍用機の開発整備等に、優れた腕前を部下と共に当時の久子は発揮していたのだ。
(此れはこの頃の日本のジェット軍用機開発が、英独の様々な協力によって行われており、更には工業基盤の問題等も相まって、まずは旧ドイツ国内で試作されて、問題点が解決された後、ほぼ日本国内で量産化が行われていた、という実情から起きたことでもあった)
それに対ソ戦、第三次世界大戦の真っ最中でもある。
海兵隊所属だった洋六や仁は、第二次スペイン内戦終結に伴い、対ソ戦の陸上戦力確保の為に、日本本国への帰還が認められたのだが。
極めて有能な航空整備員である久子を、日本に帰還させること等、当時の日本海軍上層部が認める訳が無かったのだ。
最もその代償から、久子は最終的にはいわゆる帽振れとはいえ、海軍少佐にまで特進出来もしたのだ)
ともかく、そうしたことから松江にとって、久子は余りにも遠い母であり続けることになった。
早苗や正にしてみれば、久子は瞼の母だったが、松江にとっては、瞼の母でさえなかった、と言っても過言では無かったからだ。
だからといって、日本に帰国して来た久子が、実の娘の松江にとって冷たかった訳ではない。
むしろ、ずっと離れていた分を少しでも取り返そうとして、久子は松江に会いたがった。
だが、松江の方が、久子との距離感に悩み、会うこと等について躊躇ってしまったのだ。
尚、その裏には、未だに続いている久子と藤子(松江の養母にして、異母姉)の確執があった。
勿論、お互いに大人になっていて、面と向かって喧嘩をするようなことは、ほぼ無いのだが。
そうは言っても、久子の欧州出征で被った様々な負担から、藤子は未だに遺恨を抱いている。
そして、松江は心情的には育てて貰った恩義もあって、藤子に寄り添わざるを得ない。
だからこそ、藤子が厭っている久子との距離感に、松江は悩んだのだ。
(この辺りは事情がかなり違うが、両親が離婚後、同居している親権者の親に気兼ねして、別居している非親権者の親に、子どもが面会交流するのを躊躇うような事態に近かった。
親権者の親が、非親権者の親に会いに行ってもよい、と子どもへ勧めても、親権者の親に忖度して、子どもが非親権者の親に会いたがらない事態が、現実には多発している)
そうしたことから、久子が採った方法が、欧州駐在中に習得した料理を、日本に残していた家族に食べさせたい、と言っては、仁や藤子、松江を始めとする子ども達を呼ぶという方法だった。
実際問題として、松江にしても養父母同伴となると、久子に会うのを躊躇う理由は無くなる。
それに、欧州駐在中、実際に久子は現地の住民や欧州各国の部隊の面々と交流することで、様々な料理を習得してもいたのだ。
松江どころか、他の家族の面々も、驚くほどだった。
そうしたことをきっかけにして、松江と久子の仲は少しずつ直ったのだ。
少なからずの補足説明になります。
この世界における第三次世界大戦が勃発した後、日本陸海軍の重爆撃機、戦略爆撃機部隊は、欧州に赴いて対ソ連本土に対しての戦略爆撃を遂行することになりました。
満蒙からの出撃では、日本の戦略爆撃機部隊は、ソ連本土への戦略爆撃を行うには、航続距離が足りなかったからです。
そうしたことから、日本の戦略爆撃機部隊は、欧州に展開してソ連本土への爆撃を行う事態が起きて、米内久子はその為に奮闘する事態が起きました。
その一方、対ソの第三次世界大戦が起きた後、満蒙における日ソの勢力圏においては、いわゆる「奇妙な戦争」の事態が基本的に起きました。
ソ連軍は欧州方面における攻防戦に主力を投入する一方、日本軍にしても、それこそシベリア方面でソ連に対する積極攻勢を展開することに補給問題を痛感せざるを得ず、お互いの事情から、いわゆる「奇妙な戦争」の事態を基本的に引き起こしたのです。
そうしたことが、未だに描く前ではありますが、本編第6部等における描写を引き起こすことになった、ということでお願いします。
御感想等をお待ちしています。




