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第6話

 そんなやり取りを、米内藤子と松江の母子はして、更に松江は、養父の仁や実父母になる米内洋六や久子にも、自分の想いを話した末に、旅費を出して貰って、1957年の夏休みの間に、10日間の旅程で欧州へと赴くことになった。


 尚、この旅程に赴くまでに、松江はそれなり以上の手間暇を掛けざるを得なかった。

 未だに大学生の身とはいえ、一応は軍学生という立場でもあるのだ。

 ほぼ形式的とはいえ、東京女子医科大学に海外旅行に赴く旨を申請して許可を得る必要があった。

 更には言うまでもないが、パスポート等を取得する必要もあったのだ。


 そして、松江が最初に向かったのは。


「此処がワルシャワ」

 松江には、それ以上の言葉がどうにも出なかった。


 松江は、ワルシャワ、その中でもワルシャワ・ゲットーの跡地を訪ねていた。

 だが、その多くが取り壊されていて、ほんの一部だけが往事を偲ばせて、ドイツ軍との戦いを想い出させる為に保存されているだけだった。


 松江は、改めてワルシャワ・ゲットーの跡地がこうなった理由を想い起こしていた。

 このワルシャワ・ゲットーの跡地は、色々な意味で、現在のポーランド人とユダヤ人との間に突き刺さった歴史上のトゲになっていて、その為にこのような状態になっているのだ。


 日本政府等がこの問題については、内々でそれなりのところに話をして、それなりの政治的判断で収めようとしたこともあるのだが、どうにも収まらない問題になっている、と松江は把握していた。


(この世界の)第二次世界大戦末期の悲劇の一つとして知られるワルシャワ蜂起、そのきっかけとなったのはワルシャワ・ゲットーでの蜂起だった。

 既に連日、百人単位の餓死者、病死者が出ていたワルシャワ・ゲットー内のユダヤ人達は、少しでも多くのユダヤ人が助かるならば、と先走った蜂起を行ったのだ。

 そして、それに引きづられる形で、ワルシャワ市民も蜂起せざるを得なくなったのだ。


 せめて、後三日待てば、バルト海沿岸での上陸作戦に成功していた日本軍と英領パレスチナ部隊が、ワルシャワまで指呼の間に達することが出来ていて、それに合わせて、ワルシャワ市民が蜂起していれば、ワルシャワはほぼ無傷で解放されただろう。


 だが、ワルシャワ・ゲットー蜂起からの流れがあった為に、結果的にユダヤ人とポーランド人は合わせて数万人単位の死傷者が出てしまい、更にワルシャワ市街の一部までも破壊される事態が起きたのだ。


 ユダヤ人側によれば、この当時のポーランド人は自分達に寄り添ってくれず、闇の物資をぼったくりで売りつける有様だった。

 だから、自分達はワルシャワ・ゲットー蜂起に踏み切らざるを得なかったのだ、と主張する。


 ポーランド人側によれば、そもそもユダヤ人を援けること自体が、ドイツ占領政府によって重大な犯罪とされていたのだ。

 そうした中で、ユダヤ人に援助等をそうできる筈が無い。

 それに後三日、ユダヤ人が我慢してくれれば、ワルシャワ市街が破壊されることは無かった、と主張しているのが、(この世界の)現実だ。


 最も悪いのがドイツ政府で、後はお互いに悪くないで話を付けてはどうか、と内々で日本政府等が双方に働きかけたところ、双方が却って相手が悪いのだ、と怒り出す事態にまで至ったという噂を、松江は実父である洋六から教えられてもいた。


 松江は、改めてワルシャワ・ゲットーの跡地を見ながら、想わざるを得なかった。

 お互いに被害を被り合っている以上は相手が悪い、と言いたいのは分かるが。


 何とか和解できないものなのだろうか。

 それとも、それが歴史というものなのだろうか。

 私としては、ユダヤ人に寄り添いたいけど。

 松江は、暫くの間、どうにも動けなかった。

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