第13話
「此れは、私なりの想いからの贈り物です。
このブルターニュ地方での名産の一つが、リンゴから造られた様々なお酒ですが。
貴方はまだ未成年だ。
ヒサコ・ヨナイに怒られそうなので、これを贈ります。
此れで、少しでもこのブルターニュ地方の名産の味を貴方が想像してくれれば、と心から想います」
其処までのことを言われて、米内松江は、ホテルの支配人から、それなりの焼き菓子のケーク・ブルトン を、ホテルからの出立の際に贈られることになった。
取り敢えずの味見を、ということから、ケーク・ブルトンを少し試食した松江は驚嘆した。
本当に素晴らしいリンゴの風味がする。
ホテルの支配人が、此処までのことを言うのも当然だ。
「本当に有難うございます。母の久子に、このホテルの方々の厚意を必ず伝えて、又、家族でこのケーク・ブルトンを味わって食べます」
「宜しくお願いします」
松江とホテルの支配人は、そんなやり取りをして別れることになった。
そして、松江はブレストからパリを経由して、マドリードを目指すことになった。
此処でも乗り継ぎ等の手間暇もあって、松江が午前中の早めの時刻にブレストを出立したにも関わらず、マドリードに到着したのは、夕方というより夜になるのは止むを得ないことだった。
そして、松江はマドリードのホテルに一泊した上で、その翌日に、今ではマドリード近郊に住んでいるカテリーナ・メンデス及びその家族を訪ねる予定だった。
更に言えば、予めその旨を国際電報のやり取りで、カテリーナと松江は確認し合ってもいた。
ホテルに宿泊した松江は、我ながらぜい沢すぎる、と考えながらも、イベリコ豚の生ハムをメインにした夕食に舌鼓を打つことになった。
それこそ、自分の実の両親、更には養父にまで、現地でイベリコ豚の生ハムを食べないのは、勿体ないどころか、言語道断とまで旅立ちの前に言われていたのだ。
実際に松江がイベリコ豚の生ハムを味わう限り、家族3人の言葉は最もとしか、言いようが無かった。
「こんなに美味しい豚肉、生ハムがあるなんて」
松江は、そう独り言を言わざるを得なかったが、その一方で考えてしまうことがあった。
カテリーナさんやその家族は、この美味を知らないのか。
言うまでもないことかもしれないが。
カテリーナやその家族は、ユダヤ教徒ばかりであり、その為に食事の戒律を厳守している。
(この辺りはユダヤ教の宗派によって違うとも、私は家族を始めとする様々な人から聞いてはいるが、少なくとも、カテリーナやその家族は、食事の戒律を厳守する等、ユダヤ教徒の戒律を厳守している)
更に言えば、そのこと等が、今では私の養母の藤子の親友になっているアンナ・メンデス(小林アンナ)と、他の家族の仲を引き裂いた、とも私は聞いている。
アンナは、今では小林亨二と結婚して、小林家の一員になっているが、結婚の際にユダヤ教を棄教して、夫と同様の仏教徒に改宗したのだ。
そのことが、メンデス家内部で波紋を広げて、ユダヤ教を棄教するようなアンナは家族ではない、ということになり、アンナは自らの親兄弟から絶縁されてしまったのだ。
宗教、信仰を重んじると言うのは大切なことだが、だからと言って、特に犯罪を犯した訳でもないだろうに、棄教したからといって、家族から絶縁されるというのは、余りでは無いだろうか。
松江は、ホテル内にあるレストランでの夕食で、イベリコ豚の生ハムをメインとするコース料理を食べつつ、そんなことをどうにも考えてしまった。
そして、夕食後は旅の疲れもあり、松江はシャワーのみを浴びて、そのままベッドに倒れ込んで、意識を失う事態に至った。
松江は想った。
カテリーナさん達の真意を知りたい。
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