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Angelic-Personal  作者: 緋月ホウト
The Fateful Encounter / 人間の少年と天使な少女
9/15

9.落ち着きのない足


天使計画干渉のための一人目の助っ人が紹介されてしばらく経ち、クローバ自身が運動をセインに頼んで習慣化するようになった。実を言うと、勉強が大の苦手なこの男、足がとんでもなく速いのである。中学では地元大会で準優勝、高校はじめもそれを知っている陸上部の先輩や先生にスカウトされているのを見た気がする。


(運動を一緒にしてもらっていることは悪いことではないはずだ。ただ…)


「頼んだ側で言えた身じゃないが、見返りに勉強を手伝わせるのは違う気がするんだが?」


「え〜、僕だって久しぶりに身体動かしたんだから、お礼があってもいいでしょ!」


「お礼はするつもりだったが、勉強させるのはお礼に相応しくないと俺は思う」


「じゃあなんならいいの?」


「ん〜…プロテイン奢るとか、お菓子買ってあげるとか」


「やっぱり普通だね、僕はそんなことで満足する人間じゃないんだよ!」


(お前が今一番使えないセリフだろうが。さっきの発言後悔した)


それにしても図書館がリニューアルされていたとは知らなかった。思わず大きな声を出してしまったが、個室ってこんなに吸音性が高かったのかと感心していた。


「まあでも、全部やらせるのは違うことくらい僕でもわかるよ。ところで今日は暇?」


「あぁ忙し…、いや…なんだ。サクラが今度の休日に買い物に行きたいみたいな雰囲気だったから、今日一緒に行こうと思ってたんだけど…」


そう言うとセインが今日1の驚きを見せた。


「え、あのサクラちゃんが行きたいって言ったの?!」


そうではないが、きっかけはある。数日前にクローバはお小遣いをもらった。いつものように貯金で済ませようとしたが、サクラと出会ってから、彼女に食品と化粧品と服などの装飾品意外に何もプレゼントした覚えがないことに気づいた。そこでサクラに最近欲しいものはないかと聞いてみると、ないとは口で言いつつも体がソワソワしだしたのが印象的だった。


「だから、お店がたくさんあるエリアに行って、サクラが気になるものをひとつかふたつ買ってあげたいなと思って」


そう話すとセインの体が震えているのを目視できるほど確認できた。口も開いたままだ。


「なぁセイン、俺何か変なこと言ったか?」


「イーヤ!スゥンッバァラシイッヨ、クローバッ!」


「ヒッ…!」


「僕もその買い物ついて行っていい?!」


「ああわかったよ!」


二人がいた場所の入り口のドア付近にいた人は、少なくとも10秒間は固まって部屋を見ていたというのを後に館員の人から聞いて反省したのだった。




そうして、親から送られて来たサクラと合流すると、三人で商業施設を歩くことになった。とは言えクローバ自身もあまり来たことがなかったため、並ぶ品のことで脳内が巡りまわっていた。


「クローバ、どうしたの急に?一人じゃ持ち帰れないものでも買うの?」


「ううん、最近俺とサクラにほとんど家にいたから、何か新しいものを家に持ち込むことがなかったでしょ、だから最近になって興味のあるものとかあるんじゃない?」


「…服が見てみたい」


「いいよ、高級ブランドものだとさすがに足りなくて出せないけど」


左に立つサクラから右にいるセインに目を向けると、こちらを見てまた何か驚いている様子だった。


「…今度はなんだよ」


「いや…二人、中々心の許したなって」


「お前何をっ…まあ数ヶ月一緒に過ごしたんだ、ある程度の信頼は築けたと思う」


「…そうみたいだね、ところでサクラちゃんもうお店に入ったみたいだよ?」


「あっ、どこのお店?!」


「”Wind-Ocean”ってとこ」


「あそこのお店か、最近よく話題にされてるっけな」


「うん、老若男女のあらゆる服からインナー、サングラスやイヤリングのようなアクセサリー類まで、人が身につけるほぼ全ての種類を扱ってるって話だね」


「まさか、高級ものだったりしないよな?お金はあってもそれ以上だったら何も買えないんだが…」


「実はこのメーカー、とてもリーズナブルなことでも有名なんだ、それでいて商品の質は他社に全く劣らないんだって。ファッション好きな友達に聞くと多くは大好評だった」


「へぇ~」


二人がお店の入り口付近でいろいろ話していると、クローバの名前を呼ぶサクラの声が聞こえた。行ってみると同じ形をした色違いの服で悩んでいた。ありがたいことに両方買えそうなのだが、他の種類も気になっているからここでは一着に抑えたいらしい。


「なるほど、ライトピンクとワインレッドか、確かにサクラちゃんならどっちも着こなしそうだね…」


近くでウィーンとドアが開いて、数着のスーツを持った男性が出てきた。


「サクラ、試着室が空いたみたいだからどっちも1回着てみてよ。動いてる姿を見たほうがシチュエーション想像しやすいし」


「わかった」


それにしても、こんなに大きい店が大きな建物の1部屋でしかないと考えるとスケールの大きさに圧倒される。


ウィーン…


「おっ、見てよクローバ!」


まずはライトピンクの服を着ていた、サクラの服の多くは落ちついたやわらかい色が多いから、イメージ通りと言えばそうだった。それにしても可愛い。


「おお」


「…どう?」


「いいと思うよサクラちゃん、とても似合ってるよ!」


「もちろん可愛い、普段から着る想定ならとても使いやすそうだね。後ろも見せてよ」


後ろが少し長めのようだ、生地が揺れていい雰囲気を出している。


「いいと思うよサクラちゃん、やっぱり似合ってるよ!」


「袖もゆとりがあるみたいだし、他のアイテムにも馴染みそうだね、綺麗だよサクラ」


「…ありがとう。」


次はワインレッド。さっきよりも大人な色と言えばいいか、さっきとは違う印象になることは間違いなかった。


「着替えたよ…?」


「うわぁ~、さっきと全然印象違う!」


「そうだな、色違いでこんなに雰囲気が変わるなんて」


「どう?」


「いいと思うよサクラちゃん、すごく似合ってるよ!」


「⋯セインさん、さっきから同じ感想。どっちでもいいみたい」


「い、いやぁ~そういうわけじゃ⋯!」


(サクラも一般的な人間の生活に馴染んできてるみたいだな、でもここまで不満そうな顔久しぶりに見たかも)


「⋯クローバはどうなの?」


「俺?ん〜⋯ワインレッドは大人っぽくてもちろん似合うんだけど、個人的にはライトピンクの方が可愛くて好きかな〜」


「⋯」


感想はサクラの要望通りひとつに絞ったはずだが、何か引っかかることを言ってしまったのかと内心焦り始めていた。


「サクラは、どっちの方が気になるんだ?」


「⋯ワインレッド」


そういうことかとさっきよりも強い罪悪感がのしかかってきた。本人の好みを先に聞くのをすっかり忘れていた。ここからなんて言えばいいのだろうか?個人的意見を押し付けるのは良いことではないが、だからと言ってあっさり好きな方を買ってあげると言えば適当に考えていたと思われる可能性がある⋯


「そうだったんだ⋯ごめんね自分勝手な事ばかり言って」


「いいよ、でもクローバがそう言うなら⋯」


「待って、最後に決めるのはサクラだよ、俺じゃない。ところで、どうしてその2色で悩んでるの?」


ひとつひとつの言葉を一生懸命に考える、我ながらスムーズで上手い話し方だと思った。


サクラによれば、まず自分のイメージカラーであるピンクを探したそうだが、途中でワインレッドが目に入り、今まで着なかった色を試したい気持ちが次第に強くなったらしい。


「サクラちゃんは、自分に似合う色かわからなかったから選んでほしかったんだね?」


「うん」


「だったら、今気になってる色を直感で選んでみてよ、例えば俺とお出かけしてるところとか想像して?」


「クローバ、結構なこと想像させるね」


「う、うるさい⋯!」


「最初に浮かんだ服はどっちだった?」


「⋯ワインレッドかも」


「よし、そっちを買おう」


二人は今ごろ何を急に決めてるんだと思っているに違いない。しかしこの会話がサクラにとって一番力になれているはずだ。


「似合わないかもしれないと思っても、それは今あるアイテムと合わせて似合わせればいい話だ、自信がないならつければいいんだ」


「⋯わかった!」



「お買い上げ、ありがとうございました。」



それから、2着目も三人で考えながらレジを通ることができた。久しぶりの買い物に親なしで行ったため緊張したが、サクラの服を選ぶのは楽しかった。セインはよくわからん。


「ありがとうクローバ」


「いや、とても楽しかったよ。気に入った服が見つかって良かったね」


袋を大事そうに抱えて笑顔になっている一方、セインはさっきからずっと口が開いたまま口数が減っていて、何を考えているのかさっぱりわからない。何かを見る目をしているのは確かだが。




ーーーキィーン!ーーー




「⋯!」


「⋯クローバ、どうしたの立ち止まって?ねえサクラちゃ⋯」


「⋯」


「え…えっ、っと二人とも?」


「⋯っあっ?」


(なんだ、頭で響いたこの無機質な音、⋯音なのか?痛くはないけど)


「なんで二人して無視するんだよ!」


「あぁ、セインすまん、頭が響いてな。」


「⋯ごめん、わたしも。」


「⋯二人とも疲れてるんじゃない?あんなに考えて服選んだんだもん」


そうかもしれない、確かに買い物とは言え大きなことをした実感がある。でも急に疲れが表に出ると、中々重いものだ。


「二人とも、休憩エリアであのお店のアイスでも食べない?確かに他を回る予定もあるから一度休もう、な?」


「いいよ」


「オッケー、じゃあ今度は僕が二人に買うよ、何味がいい?」


「じゃあ俺、パイナップルアイスにメープルシロップトッピングで」


「わたしは、チーズケーキアイスにチョコホイップトッピングがいい」


「おお、中々な組み合わせだね⋯!」

セインの顔が一瞬固まっていた気がしたが、わかったと一言告げて買いに行ってくれた。


(それにしても、さっきの頭に響いた高音の無機質な響きは何だったんだ、痛みは無いから頭痛ではない。だったら尚更なんだ?)


「なあサクラ、さっき頭に何か響いたような気がするんだけど、気のせいかな?」


「ううん⋯わたし、この響きは久しぶりだけど聞いたことある」


「⋯」


せっかく楽しい買い物だったのに、嫌な予感がしてきた。

Tips:Wind-Ocean/ウインドオーシャン

現代ファッションの最前線を走るアパレル会社。全世界でいくつもの店舗を持ち、老若男女問わず人気。セインの紹介通り、服、インナー、靴下、靴、サングラス、イヤリング、スカーフと、「衣」に関わるあらゆるジャンルの製造、販売を行っている。その代表は世界でも有名なウィルシティに住む名門家の女性が務めているらしい。

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