11.嘘を知る鼻
本当にあの事件以来、数日たったはずだがまだサクラはショックを受けていた。
「・・・」
俺は今、必死に考えている。どうにかしてサクラの機嫌を良くしたい。自分の心当たりのある限りはすべて話した。それでもうつむいたままだ。天使に関係する者が動いている可能性があること、人が被害に遭っていること、ただただ事態にパニックになっているのか、不安要素となる相談には全面的に協力したつもりだ。あと残っている問題ってなんだ?なにも思い浮かばない。
(セインにはもう話したが解決しなかった。でも親に話せば絶対に俺が非難されて余計めんどくさいことになるな。誰か、ある程度面識があって頼れそうな奴は...)
「...そうだ!」
その週の休日、クローバはとある二人を学校の近くにある駅で待ち合わせをする約束をとった。そう、ある程度面識があって”意外と”頼れそうな人間。
「待たせたね、二人とも」
「クローバがオレらを呼ぶなんて初めてじゃないか、どうしたの?」
「それにしてもクローバ君がら呼び出しておいて、わたしたちよりも遅く来るなんて...待ち合わせで一番やっちゃいけないことでしょ?」
部活の同級生、カナスとユーアだ。クラス内で話せないわけじゃないが、俺は気軽に会話できる性格じゃない。でも、部活という半強制的な空間に集められて話し合いなんてさせられていれば、意識しなくても自分にとっての話し相手に変わる。
「悪かったよ、お気づきかと思うけど普段からこういうことはしないから、どうやって仕切ればいいか困ったもんでな...っていうか、時間は間に合っただろう!」
それから、駅近くにある図書館にある個人やグループで使うことのできる部屋に三人で入った。彼らなら口の堅さは信用できると思うが、万一のためにドアで空間を遮断できるようにしたかったからだ。
「それで、初の呼び出しはコンクールの手伝いか?でもクローバ、カメラ用の三脚とかは持ってきてないな?」
「部屋使うくらいだから、結構大事な相談ってこと?もしかして、恋したの?!」
「おお、クローバにもそんな子がいたのか!見直したよ!」
勝手に恋愛相談だと誤解されてしまっている。同年代へ人間関係の相談事なんて、一言いうだけで、彼らはすぐ恋愛に持ってっちゃうんだから...嫌だねぇ。
(でも待てよ、サクラのことだとわかれば同じなのか...?まずい、どうやって話を進めよう。いや、異性だとはっきり言う必要はないはずだ...そうだ、サクラの立ち位置に少年とすり替えれば何も問題はない!)
それで無理なら、そん時はそん時だ。一連のことに巻き込んでしまうことを恐れて迷ったが、二人は意外と秘密は守れる人間だと思っているから、いずれちゃんと説明することにあらかじめ覚悟を決めている。
「えっと...まず前提として、最近俺の家に一人の少年が居候をはじめたんだ」
「「...えっ?」」
二人同時に声のトーンが下がった。こういう深刻な顔をする先輩を見ると、意外とおとなしく話を聞く姿を俺は見ている。これがさっきの考えの証拠だ。
「そしてもう一つ前提があって、最近とある商業施設で人が重傷を被った事件が発生したのって知ってるか?」
「ああ、あの事件ならオレたち含めこの辺りでは知らない人なんていないはずだから大丈夫、重傷の原因が不明なんだろ?恐ろしいよな...」
「その事件とクローバ君の居候の子がどうして関係あるの?まさか、ケガを!」
「いや、その子は大丈夫だ。でも、実は俺のクラスメートのセインと三人でその日ちょうど買い物に行ってたんだ。そして事件に遭遇しちゃって」
「なるほどな、その子がショック受けちゃったわけだ」
「...そうなんだよ」
さっきとは打って変わって真剣な表情をしていて、笑顔はとっくに消えている。
「あれから数日経ったけど、中々立ち直らないんだ。俺も不安要素になりそうな部分はできるだけ補ったつもりなんだけど...」
「じゃあ、クローバ君自体に気になるところがあった...?」
「そんなことは...いや、思い当たらない」
「なら、彼女自身が抱えてることに間接的にでも触れちゃったとかはないのか?」
(天使に関して俺がまずいことを言った?そしてそれがサクラにとって辛い連想をさせた?俺の責任...なのか?でも本当に心当たりが...)
「ん~...ってなんで少年って言ったのに彼女になってんのさ?!」
そう言うと、二人は呆れたとも苦笑いしているようにもとれる顔をしながら、ゆっくり丁寧に説明し始めた。
「...自分では気づいてなさそうだけど、クローバって嘘をついているときの態度、結構わかりやすいのよ。前に先輩に怒られてコンクール用は順調だみたいなこと言ってたけど、実際はそれも嘘なんだろ?今同じ顔してた」
「少年のこと語ってるクローバ君が顔赤くして話してるんだよ?おまけに会話のテンポも速いから、もう嘘ついて女の子が相手なのを隠してるの確定じゃない」
(ああ、一本...いや三本は確実に取られたな。もうごまかせない)
危惧してた”そん時”がもう来たようだ。ここは開き直って正直に話そう。
「わかった。二人とも、さっきまでの話は二人が言うようにオブラートに包もうとした結果の嘘の話だ。一から説明し直すけど、ひとつだけ約束してほしいんだ」
「”絶対に公にしないこと”だろ?今一番クローバが言いそうなのは」
「そう考えると、クローバ君の思考って意外と単純?」
「うぅ...うるさいっ!」
反応を楽しんでいるかのようにゲラゲラと笑い出した。なんだよ、今まで俺が嘘をついていたのが恥ずかしいじゃないか...この二人との付き合いは半年弱のはずだが、人の”慣れ”とは本当に恐ろしいな。
「二人に嘘をつくのは無駄だって思い知っ...」
「「ハハハッ!、フフフッ!」」
いつまで笑ってるんだよこいつら...!
(でも...なんでだろうな)
「...グッ!、ハハハハハ!」
(人が笑ってるのを見ると、つられて笑っちゃうんだろう?)
「おっ、やっと笑ったなクローバ?」
「...ヘ?」
「ほら、クローバ君って前期の中間テスト学年一位って完全勝利だったじゃない?そんな”クローバ・エリッツ”が結果に満足した様子をひとつも見せず、ただ一人考え事をしてばかりだったから、他の順位一桁の人はコケにされたと思って燃えてるの」
「...そんなふうに見えてたのか?」
突然の学年事情を話されて困惑した。同時に俺が学校で本当に人付き合いが悪かったんだと自覚した。テストに関心がなかったわけじゃない、一位と聞いたときはもちろん嬉しかった。でもそんなことを隅に置けるほどの存在が、俺のとても近くにいたというわけだ。
「周りが期末テストで”打倒クローバ・エリッツ”に燃えている中、一位死守どころか部活もサボって、笑顔が消えて生気がなくなったように見えたものだから、中学の同級生だった人とか先生たちが、内心ではとても心配してたのよ?」
「そう...だったのか。とりあえず、セルゲイ先生にはしっかり言わないと。」
「ああ。笑顔が見れて少し安心したよ...それで、女の子との関係は一から説明してくれるんだったな。それで、今はどこまできたんだ?!」
「...お前ら、結局男女の話として楽しそうに聞こうとしてるな!」
その頃、室町博士の研究所では客が何人か集まって話していた。
「皆さん、本日はお集りいただき感謝しています。そして、そのためにこちらの研究室を貸していただいた室町先生も、ありがとうございます。」
「こちらこそ、室町良です。後ほどヴィダルからも詳しくお伝えしていただきますが、私は今”天使計画”について研究をしており、サクラという天使計画の被害者と思われる少女と出会いました。彼女は現在、クローバ・エリッツという第一発見者である16才の高校生とその家族と共に生活をしています。それについては何も問題はないのですが、クローバ君と私は天使計画について『非常に恐ろしい計画で、世界に危害を加える可能性がある』とし、それをあわよくば止めるために活動しています」
その話題というのは、クローバ・エリッツ、サクラ、天使計画についてそのままのことだった。彼らは協力者にふさわしい人材を集めて一つのグループを作るためにしばらく動いていた。ヴィダルが対象人物を室町博士と会わせ、博士が最終的に認めた者だけが、今この場に座ることができている。
「では、失礼ながらメンバーのご紹介を私ヴィダルの方からさせていただきます」
部屋には室町博士、ヴィダルを含めて5人存在していた。他の3人はどうやら本当にヴィダルがスカウトのために全国各地を巡って集めた、名の知られた人物らしい。
「まず、ウィルシティ出身の白縫帆友生。現在17才の高校生ですが、現在は留学によってツーリス王国で生活しています。彼女はウィルシティの公式グレードカテゴリーの現No.2で、特に魔法能力に長けています。」
「白縫帆友生だ、私をスカウトしてくれたヴィダル殿には感謝している。また他のメンバーにもこの場を借りて挨拶をさせて頂く、どうかよろしく頼む。」
「...次に、A.N.R出身のミシシッピ・シーザース。つい先日まで同国内のTIMER本部で26才という若さながら実動部隊で活躍されていたエリートです。加えて彼は学生だった頃、陸上の200メートル走で世界大会の出場経験があります。」
「紹介ありがとう、ミシシッピ・シーザースだ。先の説明でもあったとおり、”つい先日までTIMERだった人間”だが、ヴィダル殿の勧誘を受けて辞めた。お金を手放したのかという疑問などがあるかもしれないが、私なりの覚悟があって今ここに立っているつもりだ、よろしく頼む。」
「最後に、ツーリス王国出身のユウト・イトウ。彼は情報処理とスパイ能力に長け、ツーリス軍にも協力していた過去があります、現在は辞めて普通の学生として生活しており、十分信頼できる人物だと我々は判断したため、採用しました。」
「...ユウト・イトウです、これからよろしくお願いします。」
この5人がどうやらクローバの仲間になるらしい。
「ありがとうヴィダル、そしてみなさん。まず一つ私、室町からお伝えするのはこれからの活動についてです。活動名義を『アッキヌフォート』とし、我々はサクラ、クローバ君と彼の信頼における仲間たちと共にプランを立て、天使計画に干渉するための行動を開始します!」
Tips:A.N.R/アメリカ・ニュートラル・リパブリック
12の国のひとつで、他国の監視が役割。また、最先端の技術である、とある研究者が発明した「G/ギア」を中心とした工業発展をしている国でもある。中でも主には、自家用車などの車型「DG/ドライブギア」、飛行機型の「FG/フライトギア」のような大型のG製品を生み出している。




