第88話「正義の味方らしい登場だ」
悲鳴は、一つでは終わらなかった。
「逃げろぉぉぉ!!」
「子どもを連れて!!」
「いやぁぁぁぁぁっ!!」
園内の至る所から絶叫が響く。
さっきまで流れていた陽気な音楽は、人々の悲鳴にかき消されていた。
骸骨たちは機械のように感情なく歩き、目の前の人間を見つけると一斉に襲いかかる。
ガギィンッ!!
若い男性が咄嗟にベビーカーを庇う。
しかし、三体の骸骨が同時に飛びかかり――。
「ぐぁぁぁぁぁぁっ!!」
鋭い骨の腕が胸を貫いた。
母親が悲鳴を上げる。
「いやぁぁぁ!! パパァァァ!!」
血飛沫が夜空へ舞う。
骸骨は倒れた男性には見向きもせず、今度はベビーカーへ顔を向けた。
赤黒い眼窩が、不気味に揺れる。
その瞬間――
ドォォォンッ!!
紅蓮の炎が一直線に駆け抜けた。
骸骨の群れが爆炎に飲み込まれる。
ガシャァァン!!
骨片が四方へ吹き飛んだ。
「全員、その場から離れろ!!」
低く響く声。
炎の中から姿を現したのは、ケイだった。
右手に握られた紅蓮の銃の銃口から、まだ白煙が立ち昇っている。
その隣へ、青い閃光が駆け抜けた。
「はぁっ!!」
シルファのアズールナイフが夜を裂く。
一閃。
二閃。
三閃。
骸骨たちの身体が次々と真っ二つになり、崩れ落ちる。
「皆さん、落ち着いてください!」
「キャストさんの指示に従って避難してください!」
シルファが叫ぶ。
キャストたちも我に返った。
「こちらです!!」
「出口はこちらになります!!」
「走らないでください!!」
人々は我先にと逃げ始める。
しかし。
ガコン。
ガコン。
ガコン。
暗闇の向こうから、さらに無数の骸骨が現れた。
その数は数十ではない。
百を超えている。
シルファの表情が険しくなる。
「……まだ来ます!」
ケイは舌打ちした。
「キリがないな……!」
その時だった。
スーツ姿の男たちが駆け寄ってくる。
「ジャスティスだな!」
「公安です!」
「避難誘導を開始しています!」
ケイは頷いた。
「犯人の位置は!」
公安の男が苦い表情を浮かべる。
「ロストリバーデルタ方面!」
「ですが近づけません!」
「骸骨が多すぎる!」
ケイは一瞬だけ考え、すぐ決断した。
「この状況……!避難が終わるまで、俺達がここを離れるわけにはいかねぇ!」
「ロストリバーデルタ方面……ヤヤがたしかそっちに向かったな」
「俺たちはここで一般人を守る。」
「犯人はヤヤに任せる。」
シルファも迷わず頷く。
「はい!」
その瞬間。
ドォォォン!!
少し離れた場所で爆発音が響いた。
炎ではない。
何か巨大なものが倒れたような衝撃。
ケイはそちらを睨む。
「……始まったか!頼んだぞ!ヤヤ!」
一方、その頃――
ロストリバーデルタ。
「キャァァァァァ!!」
少女が泣き叫びながら走っていた。
後ろから骸骨が迫る。
あと数メートル。
追いつかれる。
少女は転んだ。
「やだ……」
「ママ……!」
骸骨が腕を振り上げる。
その瞬間。
パンッ!!
乾いた銃声。
骸骨の頭蓋骨が粉々に砕け散った。
黒い弾丸が夜を切り裂く。
「大丈夫か!」
少女が顔を上げる。
そこには、漆黒の銃を構えたヤヤの姿があった。
「立てるか?」
少女は涙を流しながら何度も頷く。
「お、お兄ちゃん……ありがとう……」
ヤヤは少女の頭を軽く撫でる。
「早く逃げろ。」
少女が走り去る。
ヤヤはゆっくりと銃を構え直した。
「……これで終わりじゃないよな。」
その言葉に答えるように。
パチ、パチ、パチ――。
拍手が響く。
暗闇の奥。
一人の男が笑いながら歩いてきた。
「素晴らしい。」
「正義の味方らしい登場だ。」
ヤヤはゆっくりと視線を向ける。
そこに立っていたのは――蔵内イサムだった。




