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第86話「夢の国に潜む殺人鬼」

午後五時三十分。


夕陽がパーク全体を赤く染め始めていた。

昼間の賑わいはそのままに、どこか一日の終わりを感じさせる空気が流れている。

その頃、ヤヤたちはアメリカンウォーターフロントの広場を歩いていた。

次はどこへ行こうか――。

そんな話をしていた、その時だった。


――ブルルルル。


ヤヤのスマートフォンが震える。

画面には、《ケイ》の文字。


「ケイ?」


ヤヤはすぐに通話へ出た。


「もしもし」


『ヤヤ、今どこだ?』


電話越しのケイの声は、昼間とはまるで違っていた。

低く、張り詰めている。

ヤヤの表情が自然と引き締まる。


「アメリカンウォーターフロントだ」


『そのまま動くな』


『近くにいる』


「……?」


数分後。

人混みの向こうから足早に歩いてくる二人の姿が見えた。

ケイとシルファだった。


「待たせた」


ケイは周囲を一度だけ見回す。

その表情には、さっきまでの穏やかさは一切残っていなかった。


「いやぁ~、まさかお二人さんが結婚記念日デートに来てるとは思わなかったよ~。でもどうしたの?」


ユウヒが尋ねる。

レインは冗談を言う空気ではないことを察し、静かに口を閉じていた。


「……今から話すことは、まだ確定情報じゃない」


「だが、最悪を想定して動く」


その一言だけで、空気が張りつめる。


「さっきカイトから連絡が入った」


「凶悪な殺人犯が、このパーク内に潜伏している可能性がある」


「殺人犯だと?」


ヤヤが聞き返す。

ケイは短く息を吐いた。


「五年前――」


「都内でニューエイジ・ホテルが爆破した事件を覚えてるか?」


その瞬間。

レインの表情が変わる。


「あの事件……」


レインが小さく呟く。

ケイは静かに頷いた。


「ああ」


「死者、負傷者ともに多数」


「戦後最悪級の爆破テロ事件だ」


一瞬の沈黙。

ヤヤがゆっくり尋ねる。


「……犯人の名前は?」


ケイの目が細くなる。


「蔵内イサム」


「そして、服部ヒジリ」


その名を口にするだけで、場の空気が重くなった。


「元々は神奈川県の議会議員だった」


「だが、多額の税金を不透明に流用していたことが発覚し、二人とも議員を辞職」


「その後、姿をくらまし――」


「五年前のホテル爆破事件を起こした」


「その後、二人は逃亡。俺達ジャスティス、そして公安の連中もずっと奴ら追っていたが完全に消息を絶っていた」


レインが思わず息を呑む。


「そんな奴らが……なんで今ディズニーにいる可能性があるのよ?」


ケイは目を細める。


「目的は未だに不明だ。だが公安も動いている以上、無視はできない」


その時。


ケイはスマートフォンを取り出した。


「今から二人の顔写真を送る。」


操作を始める。

直後――


ピロン。


ヤヤ。

ユウヒ。

レイン。

三人のスマートフォンが同時に鳴った。

画面には男女二人の写真。

どちらも穏やかな笑顔を浮かべている。

だが、その笑顔がかえって不気味だった。


「……この二人が」


ヤヤが画面を見つめる。


「蔵内イサムと服部セイだ」


ケイは三人を順番に見た。


「これから手分けして園内を捜索する」


「だが、一つだけ約束しろ」


その声には、有無を言わせない重みがあった。


「もし見つけても、一人で対処するな」


「必ず連絡しろ。絶対に単独で仕掛けるな」


三人は真剣な表情で頷く。


「了解」


「うん」


「分かったわ」


夕陽が完全に沈み、夜へと変わる。

さっきまで夢の国だった景色が、別の顔を見せ始めていた。

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