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白翼のハルピュイア  作者: 依空 まつり
十章 詐欺師の大仕事
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【19】使えるものはクズでも使え


 ミリアム首座塔主補佐の部屋を出て、見習い達を部屋に見送った後、三流詐欺師〈煙狐〉は頭を抱えた。


(なんかノリでそれっぽいこと言っちゃったけど、どうすんだこれ──!? えー、ミリアム首座塔主補佐を信じさせるって何? 信じるって何? 流石に飴を貢ぎ続けりゃ良いってもんでもないだろ!?)


〈煙狐〉の三流たる所以は、その場のノリでペラペラと思いつきを喋ってしまうところにあった。そうして自分の首を絞めて奔走するまでがセットである。

 どうしよう、どうしたら、どうすれば──とりあえず、会議室付近にいると何か仕事を押し付けられそうなので、ヒュッターは一度外に出た。

 歩きながら、ヒュッターは考える。


(いや、待てよ……俺の任務自体は、もう完了してるよな、この状況?)


〈煙狐〉の任務は、「先帝と〈楔の塔〉の断絶理由の調査」である。

 断絶の理由は、先帝がザームエル・レーヴェニヒに唆されて、自治領を他国に売り払う計画を立てたから。これでほぼ決まりだ。

 なら、それを黒獅子皇に伝えたら、自分は解放される……ということにならないだろうか。


(まぁ、細かい部分は詰めきれてねーし、ハイディちゃんに送った要請はどうすんのか、って話にはなるが……頼まれたことは一応やったわけだし……)


 自分は、最低限やるべきことはやったのだ。

〈楔の塔〉の魔術師達も、見習い達も、全て見捨てて逃げてしまえば良い。


(……とりあえず、逃走経路の確認ぐらいはしとくか)


 逃走経路を確認しつつ、ヒュッターは村の中をブラブラと歩く。

〈楔の塔〉の魔術師達の避難所に使われている村は、小さな畑があるだけの寂れた村だ。今は農閑期なので、若者は街に出稼ぎに行っており、年寄りや子どもが殆どらしい。

 魔物の襲撃と、〈楔の塔〉の魔術師達の惨状に、村人達の間には不安が広がっている。

 幸いなのは、村人達が駆け込んできた〈楔の塔〉の魔術師達を邪険にしていないことだろうか。

 ヒュッターも、情報収集のためにこの辺りの村に何度か顔を出していたから分かる。〈楔の塔〉と周辺の村は、持ちつ持たれつの関係を築いているのだ。

 この手の壁のない村というのは、時に野盗の類に狙われることもある。若者のいない農閑期など尚更だ。

 そういう時、常駐している〈楔の塔〉の魔術師が対処に当たることが何度かあったらしい。

 他にも災害があった時、人命救助をしたり、村では処置の難しい重傷者を、〈楔の塔〉の医務室が診てやったり。

 逆に〈楔の塔〉側も、有事の際の避難先を提供してもらったり、物資の仕入れを手伝ってもらったり、農作物を分けてもらったりと助けられている。

〈楔の塔〉の魔術師の中には、この村に家があり、そこから〈楔の塔〉に通って仕事をしている者もいる。財務室室長アイゲンがそうだ。

 第一の塔〈白煙〉のエーベル塔主の側近でもあるアイゲンは薄毛で小太り、いかにも金にがめつそうという雰囲気のおっさんである。

 だが、初対面のヒュッターに痔の薬を教えてくれた、割と親切な人物であった。

 このアイゲン室長の手腕のおかげで、〈楔の塔〉では、薬や魔導具の材料のみならず、嗜好品販売会の品揃えも充実したのだ。ただ金にがめついだけではない、できるおっさんである。

 そんなアイゲン室長は愛妻家で、娘が四人いた。

 上の二人はよその村に嫁いだが、三女のフローラ・アイゲンちゃん(八歳)は〈楔の塔〉の嗜好品販売会で売り子をしている看板娘でもあった。

 そのフローラちゃんが、村の子ども達と輪になって、地面に石で絵を描いて遊んでいる。


「あ、ヒュッター先生」


「こんにちは、フローラちゃん。何描いてんの?」


「お姫様〜」


 ヒュッターはフローラ達の横にしゃがんで絵を眺めた。

 ドレスを着たお姫様の絵だ。ヒュッターは少し前に読んだ新聞の記事を思い出した。


「分かった、隣国に嫁いだツェツィーリア姫だな」


「正解〜! あのね、これ婚姻衣装なの。これがお花で、これがリボン」


「おー、よく描けてるなー」


 ツェツィーリア姫とは黒獅子皇の妹姫であり、セビルにとって腹違いの姉だ。

 銀月姫とも呼ばれている美しいツェツィーリア姫は、リディル王国の第一王子の元に嫁ぎ、今年の秋に挙式している。

 本物の〈夢幻の魔術師〉カスパー・ヒュッターは、このツェツィーリア姫の護衛のために隣国に行っているのだ。なので、ツェツィーリア姫の護衛カスパー・ヒュッターの名前が新聞に載っていたらまずいと思い、こっそりチェックしていたのである。


「新聞によると、ツェツィーリア姫のドレスは白だったらしいぞ。純白のドレスに、最高級のコルヴィッツレースのベールをかぶっていたらしい」


「ベールってどんなの?」


「こんな感じじゃないかな」


 ヒュッターは一言断って、地面のお姫様の絵にベールを描き込む。ただベールを描くだけじゃ寂しいので花冠の絵を添えてやったら、少女達が「可愛い〜」と喜んだ。


「ヒュッター先生、絵上手いね〜」


「幻術使いは、物事の形を正確に捉えるのが大事だからな」


 ヒュッターがキリッとした顔で言うと、少女の一人が声を上げた。


「わたし、ヒュッター先生の幻術見てみたい!」


 その言葉に、他の子ども達が、俺も、私も、と同調する。

 どれ、ここは一つ手品でお茶を濁すか……とヒュッターはローブの中に手を引っ込めた。

 だが、ヒュッターがローブに引っ込めた手を出すより早く、フローラが他の子ども達をたしなめる。


「駄目だよ、ヒュッター先生は、幻術使うと体が痛くなっちゃうんだって、お父さん言ってた」


 子ども達は「えー」と、がっかりしている様子だった。その顔は、暗い。

 魔物の襲撃で落ち着かないこの状況、大人の不安は子ども達に伝播しているだろう。だから、子ども達は娯楽を求めている。

 無詠唱幻術を装って、花でも出してやればいい……が、それよりも、できることがあるのではないか。

 その時、三流詐欺師の悪い癖が出た。思いつきでペラペラと喋ってしまうアレだ。


「そうだな。みんなが手伝ってくれたら、俺は無詠唱幻術が使えるかもしれない」


 子ども達が一斉にヒュッターを見る。

 期待に満ちた目だ。そういう目を向けられると、ついつい調子に乗ってしまうのが、元芸人のサガだった。


「明日、皆が手伝ってくれたら、楽しい幻を見せてやろう」


 えー、なになにー? と興味津々の子ども達を手招きして集め、ヒュッターは小声で「お手伝い」の内容を教えた。



 * * *



 集会所に戻ったヒュッターは、ゾンバルトとアルムスターを見つけると、二人の首根っこを掴んで、近くの空き部屋に引き摺り込んだ。


「おい、ゾンバルト。アルムスター。ちょっと手伝え」


 アルムスターは「処刑ですか……」とガタガタと震えているが、ゾンバルトは目を輝かせた。それこそ、村の子ども達のように。


「悪いことを企んでる顔ですね、ヒュッター先生! いい! すごくいいお顔ですよ!」


 子ども達のキラキラした目は好ましいが、ゾンバルトのキラキラした目は無邪気に邪悪である。唾棄すべき笑顔だ。

 ただ、人手が足りないのは事実。使えるものは、爽やかクズ野郎でも人でなし人形オタクでも使わねば。


「勝負は明日だ。ゾンバルト、今から言うものを大至急調達しろ。アルムスターは避難する時に人形を持ってきてるな?」


 アルムスターが不自然に目を逸らす。

 ヒュッターは有無を言わさず、その胸ぐらを締め上げた。


「お前みたいな奴は、どうせ逃げる時に人命救助そっちのけで、お人形抱き抱えて逃げたんだろ? あぁ? しらばっくれんじゃねぇぞ」


「そそそそれはだって、あの子達を置いてくるなんて、できるわけないじゃないですかぁ、人間とは違うんですよぉ!?」


「普通は人間助けんだよ、ボケェ! ……まぁいい。とにかくその人形で、こういうことはできるか?」


 ヒュッターがいくつか例を挙げると、途端にアルムスターは顔をしかめた。

 人形にやらせるには、ちょっと難しすぎたか……とヒュッターが別案を考えていると、アルムスターがボソボソとした早口で言う。


「…………すぎます」


「あんだって?」


「簡単すぎます。私のお人形達は人間じゃないんですよ?? 人間なんかより緻密で繊細な動きができるに決まってるじゃないですか人間じゃないんだから人間じゃあるまいし人間なんかを基準にしないでくださいよヒュッター先生ぇ……!」


「……お、おぅ」


 悪人大好き爽やかクズ野郎と、人間嫌いな人形オタクのクズ野郎──思うところは多々あるが、選り好みをしている状況ではない。

 使えるものはクズでも使え、だ。

 そう割り切って、ヒュッターはアルムスターにも指示を出した。



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