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魔界転生 ~伝説の勇者が下級魔物に転生したらどうするよ?~  作者: 黒姫双葉
第一章 魔界転生?!~鬼牙族の少女、リリー~    (幼少期編)
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「ふむ、立て続けとは面倒な。……せめて祝杯をあげるくらいの時間はまてんのか……」


人類はせっかちだ。

これは俺にも言えることであるが、如何せん魔族に比べると寿命が短く、代替わりが激しい人類が焦りに身を任せてしまうのは、ある意味仕方のないことだ。

せっかちゆえに急速な発展をすることができたともいえるのだし、一概に短所とは言えない。

しかし……今だけは不都合だ。

岩山を削り砕きながら、巨躯の泥猪が迫る。

……ふむ、今の俺は、それなりに気分が悪いのだ。


「なにせ、せっかくの戦士の誕生の瞬間に立ち会えたというのにな。まさか、面倒な軋轢を生む戦が控えてるなど思いもしないだろう?」


しかも、総じて戦とは……決して負けられない戦いなのだ。

さて、ロック・ウィィの対処法として、ヴァイツがやったように関節を狙うという選択肢は最適だ。

なにせ、露出した肉を直接刈り取れる(・・・・・)


「リリー、あぶね…………ェ?」


五撃で十分。

四肢をすべて断ち、倒れさせる。

そして、自重によって砕けた鎧の中に埋まる生身の肉体を両断した。


「次だ。俺はちと本気だぞ?」


言葉は憐れな逃亡者であるロック・ウィィではなく、そのあとに侵攻してくる遠征軍へ向けて。

一人残らずぶちのめす(・・・・・)

さてさて……血が滾るなぁ。


「やべえ、リリーのやつなんかキレてるぞ……」

「し、師匠を助けないと!」

「お前達はこっちだ!」

「のわ、ちょっと待て親父!リリーが!」

「ギージになんとかさせる!」


俺が一匹を切り裂いたことで、他のロック・ウィィも脅威判定をしたようだ。

次々に臨戦態勢へと入っていく。

―――好都合だ。

逃げようとする個体がいないのは幸運である。

なにせ、この体はそこまで身体能力が高くない。

ロック・ウィィの強靭な四肢によって生み出される運動能力を、逃走に回されては追いつけないからな。

だが、寧ろ迫ってきてくれるのなら、いくらでも対処できるわ!


「単調だ、もっと技を鍛えろ!」


巨体を生かした前足での押し付け。

しかし、ただ図体の大きさを生かしただけでは、流れを読める”見切り”の前には無意味。

剣の刃で前足を滑らせ、力を側面に流す。

傍から見れば、俺の剣でロック・ウィィが滑り落ちるかのように映ることだろう。

しかし、そんなものは普通の剣士でもできる。

”見切り”の神髄はそんなものではない。

側面に流した力を活かし(・・・)返す(・・)

剣を逆手に持ち変えて、柄尻を顎下にぶつける。

いくら重厚な泥の鎧とはいえ、肉体と接触している以上は、衝撃を伝えてしまう。

本来的に与えるはずだった自身の力を半分返されたロック・ウィィは、脳震盪を起こし、気絶した。


「ええい、甘い(・・)甘すぎる(・・・・)!!今のままではこの程度か!!」


鈍った、ずいぶんと鈍ってしまった!

返せる力がたったの半分だと!?

温い!前の肉体(全盛期)ならば二倍にして返していたわ!

―――ならば、ロック・ウィィ達には申し訳ないが、俺の肩慣らし相手になってもらう。


「GUUUUUUUUUUUUUGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!」


ますます怒り狂ったのか、ロック・ウィィが方向をあげた。

俺も気を引き締め、柄を握りなおす。

……ふむ。鎧に対して有効なのは斬撃ではなく衝撃だ。

人と人(・・・)との戦では、刃の代わりに槌を使ったものだが、今はそんなものは存在しない。

故に、剣の腹(あるもの)で代用した。


「――――ッはあ!!」


基本的には突進か押しつけしかしてこないロック・ウィィは対応が簡単だ。

力の流れを見極め、制御する”見切り”の再訓練にはちょうどいい。

突進してきたロック・ウィィの巨大な牙に、刃の腹を当てる。

骨と骨がカチ当たり、盛大な音が響く。

それが摩擦に代わりだす前に、見切った流れを作用させる。

……行う動作は突き上げ。

牙を振り上げる動作は、この巨体ならそれだけで相手に致命傷を与えられるだろう。

そうなる前に、潰す。

――――力が見える。

流れた力は頭蓋を下へ向けさせる。

干渉するならばいまだ。

牙の側面にある剣を、上方へ。

ついでに俺自身の力も込めて、頭を垂れさせる(・・・・・・・)ことにした。

飛び上がりながら剣の腹を押し付け、ロック・ウィィの頭は魔界の土の下へと陥没していった。

背を台にそのロック・ウィィの背後へ。

動き出しても構わないように関節裏の腱を切りつつ、次を見る。


「――――む」


いかん、暴れすぎたか。

皆が俺を見る目が、すでに変わっていた。

驚愕、呆け、そして……恐怖。

当然だ。得体のしれないものは怖い。

心を持つものならば必ずそう感じるのだ。

…………しかし、ここで暮らしていけなくなるとしても今だけは全力で戦う。

そうでなければ、俺はここで二度目の生を貰えたということに対して、恩返しをすることができなくなってしまうのだから。

そうだ。

俺は、お袋にもギージにも……いや、この鬼牙族の村中に感謝しているのだ。


「故に退けぬ。猪共も遠征軍も、責任をもって打ち払う!」


―――――そして、終わったらこの村を出ていこう。

それが、この村に混乱を招いた俺ができる最後の事だ。


「………………」


無言で剣を構える。

鈍った技術は気合で押し切る。

村の誰一人として怪我すらさせん。


「おいテメェら、俺の娘にだけ働かせるとはどういう了見だ!!!!さっさと動けこのアホ共!!!!!うちの娘になぁ、ケガさせたら承知しねえぞ!!!!!」

「――――なっ!?」


そんな中で、ただ一人だけ、ただ楽しげな視線を向けてきた男がいた。

……ギージ、いや……親父。

親父は黙って俺の後ろに立つと、頭に巻き付けた布がほどけるほど強く頭を撫でてきた。


「リリー。お前がなんでそんなに強いのかとか、そんな細かいことは俺は知らん。俺はサイタスみたいに頭よくないからなぁ」


だけど。


「娘が、父さんと一緒に戦ってくれるっていうんだ。これで張り切らねぇ父親なんていないだろ?」

「…………ああ、そうだな」


俺にとってメイが初めての母親であると同時に、ギージだって初めての父親なのだ。

もともとが男である俺には、少しだけ変な意地があって。

しかし……やはり、本当の子持ちの父親には敵わないものだな……!


「親父、怪我はしないでくれよ」

「馬鹿言え、誰に言ってるんだ。俺はこの村一番の戦士だぞ?」

「……なら、娘がしっかりとその名を継がないといけないな!」


親父が、自身と同じほどの大きさを持つ大剣を取り出した。

俺ももう一度、剣を構えなおす。

さて。

親父と一緒ならば負ける気などしないな、まったく。

…………だから。今更になって初めて呼べた名だけど。

あと少しだけ、親父と呼ぶことを許してくれ。


「リリー?」

「…………」


親父の俺を呼ぶ言葉、それを聞こえないふりをして。

―――ああ、俺はあなたたちの子供として失格なのだろうな。





***




「遠視の魔術の結果なのですが、聖遺物の付近には鬼牙族の村があるようです」

「……なるほど」

「どうしますか?」


本当ならば争いはしない方がいい。

だが、もし魔王を呼ばれたのなら、これほど奥地に来てしまった以上、撤退しきれる保証はどこにもない。

師匠のような戦力を欠いた今の状態では、全滅すらあり得る。


「見つからなければ放置、もし発見されれば――――排除します」

「はッ!了解いたしました!」


いざとなれば、私が時間稼ぎをしなければならないだろう。

……やはり、私には将など向いていないのだ。


「それともう一つ……村の付近で、魔物と鬼牙族が戦闘を起こしている様なのですが……」

「……まさか」

「はい、先ほど我が軍が追い払った魔物です。このままではおそらく、発見されてしまいますが……」


聖剣の場所と村はほど近い。

このあたりの最新の地図を取り出し、場所を確認してみるも、この大軍では見つからずに済む方が奇跡というレベルだろう。

……魔物は聖水を嫌う。

故に、無駄な戦いを避けるために聖水を大量に散布したというのに、それがめぐりめぐって自身の首を絞めることになるとは。

……ああ、つくづく向いていない。

やはり、将とは……王とは、あの人のようなことを言うのだろう。

―――しかし、今は将としての責を負ってしまっている以上、私が決断するしかない。


「―――村を、滅ぼします。全軍、支度を」

「「了解(サー)!!」」



…………運命の戦いが幕を開ける。

幼き夢を叶える第一戦が。

かつての面影を追った少女の戦いが。

―――そして、このセカイの命運を決める物語が、始まる。




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