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「オオオオオオオオオオオーーーー!」
遠くからけたたましいほどの鬨の声が聞こえてくる。
間違いないだろう、これはこの先にある鬼牙族のものたちがあげる声だ。
魔族の中でも非常に勇敢な種族であるということは、身をもって経験しているが、まさかこれほどの大部隊を前にしてもなお、これほどの士気を保てるとは……。
なにか、決して引けない理由があるのだろう。
しかし……それはこちらとて同じこと。
聖剣を。師匠の形見を取り戻すまでは、私たちも引けないのだ。
少なくとも、無駄死を生み出してしまうまでは。
「鬼牙族に聖水は効果が薄い……各員鎧を着こみ、隊列を組みなさい!」
「「了解!」」
明確な弱点のない鬼牙族は、魔法親和性こそ少ないものの、その巨躯から生み出される怪力は脅威だ。
月狼族である私ならともかく、私の軍を構成している大多数である人間族では、正面から克ち合えば勝つことは難しい。
故に隊列を組み、数と連携をもって駆逐するのだ。
「速度は一定に!決して隊列を乱さずに、犠牲を出さぬように振る舞うのです!」
私の命令の答えは、規則正しい足音となって応えられた。
重厚な鎧と長い槍、そして数人を一組として一つの隊となし、隙間を生み出さぬように、犠牲を減らすことを第一とした隊列――密集陣形。
数と連携――それを最大限に生かすことのできる、鉄壁の陣形。
「……戦果はそこまで迫っている、か」
私たち月狼族は、目の耳、そして嗅覚が非常に優れている。
そこから生み出される直感は、師匠からも褒められたほどだ。
その私が、断言する。
―――圧倒的な強敵が、敵の中にいる。
…………戦火は、そこまで迫っていた。
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「……ふむ、これで最後だな」
最期は逃走を開始していたロック・ウィィ、その最期の一匹を斃す。
ああ、ロック・ウィィたちのおかげでいい練習が取れた。
やはり実戦に勝る経験はないな。
少々ではあるが、勘が取り戻せたようだ。
…………しかし、ずいぶんと剣が痛んでしまったか。
――もう少し、持ってくれよ。
「よし、リリー。お前は戻って……」
「親父。――最後だ、わがままを言わせてくれ」
親父の言葉をさえぎって、一歩を踏み出す。
元をたどればこの戦火を撒いたのは俺の責。
当事者が逃げるわけにはいくまい。
「村長!もうすぐそこに遠征軍が!」
大声を張り上げて、一人の大人の鬼牙族が現れる。
俺に対してやや引いた視線を向けつつ、親父に伝令を伝えた。
「……もう、か。どうやら敵も俺たちを滅ぼす気でいるらしいな」
「どうしますか!」
「どうするも何もないぞ?俺たちが敗れればメイたちが死ぬ。それを赦せるわけないだろうが!迎え撃つぞ!」
「ハイ!!」
伝令係は、村に一時的に戻ると戦える鬼牙族の大人たちを集めた。
気概をその身に秘めた、筋骨隆々の戦士たちが、武器を構えてぞろぞろと現れる。
親父はその先頭に立つと、一言。
「戦だ。―――鬨の声をあげろォォォ!!!!!」
「「「―――――――――――――――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォオォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」
―――天を、地を振るわせるほどの大声が上がった。
圧倒的な形勢不利。
それを分かっていてさえも欠片も衰えぬ戦意。
戦士としての誇りか、守るべきものがあるという事実か……あるいは両方か。
思わず目を細める。
……あぁ、鬼牙族。これほどの戦士たちの同じ血をもって生まれ直すことができたのか。
俺は、なんと幸福なのだろうな……!
「えっと……巫女様は……」
「戦う。……なに、情報は漏らさぬよ。いざとなればこの首を切り落とそう」
先ほどの伝令係が、おずおずといった雰囲気で俺に話しかける。
腫れものを扱うように……といった感じだが、仕方あるまい。
既に、俺は異物となってしまったのだから。
したがってその反応も仕方がない……そう思っていたら、別の大人の鬼牙族が伝令係に大股で歩きよってきて―――ゴスッと、なかなかの音を響かせて頭を殴った。
「馬鹿野郎が!村長の娘さんが、偉大な戦士だった……それだけだろうが!……すいませんな、巫女姫様。こいつはまだまだ若造で」
「―――俺を、恐れん……のか?」
「鬼牙族は戦士の一族。男も女も……たとえ敵であっても、一流の戦士に対しての経緯を忘れることはあり得ませんぞ」
「…………―――!!」
「……そうでした。師匠、目が覚めました!巫女様……俺たちを、導いてください」
「――ふ。任せろ!巫女の名を背負った以上、誰一人死なせん!…………俺こそ、勇敢な戦士たちと出会えて、光栄だ」
いつの間にか。
一族が俺を見る瞳が変わっていた。
恐れも恐怖もなく、ただ……一人の戦士を、仲間を見る瞳で見てくれていた。
ならば、もう恐れることはないな。
――俺は”征王”リングスウェイ。そして、鬼牙族の村長にして偉大なる戦士、ギージと、最高の美貌と心の優しさを併せ持つメイを親に持つ、鬼牙族のリリー。
我が二つの生涯を誇りに、この戦いを一切の犠牲無く、終わらせて見せよう。
「―――続けェェェェェェェェェ!!!!」
運命の戦いへと、先陣を切った。
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「敵兵、見えました!」
「……馬鹿な、あの数で私たちの軍と戦うと……?!」
村は大規模だと聞いていたが、あくまで村。
戦いに出張ってきている鬼牙族はせいぜいが百人かそこらといったところだろう。
それに対し、私たちの軍は、非戦闘員や前線には出ない魔術師を含めて一万ほど。
それらを除外しても、七千は戦える人材がそろっている。
……まさに無謀だ。
だが――なぜだろう。
あの百人ほどの小規模な鬼牙族が。
今のままでは、私たちに痛手を負わせるほどの力を発揮するように思えてならない。
――いけない、将がそのような不安を見せては、部下に伝わってしまう。
師匠のように……豪放に、豪快に、そして細やかにふるまうのだ。
悪い想像を頭から振り払い、部隊に指示を送る。
「――蹴散らしなさい!我々人類の力を見せるのです!……全軍、行動開始、圧殺せよ!!」
「「「圧殺せよ!圧殺せよ!圧殺せよ!!!!!!!!」」」
数こそ力、それを体現した密集陣形が一気呵成に敵へと迫る。
鬼牙族ですら匆々には打ち破れぬ”堅さ”を持つ隊列、しかしそれは―――なんと、一瞬にして崩れ去ってしまった。
片手に剣を携えた、幼い子供によって!
***
「密集陣形……俺が崩す、そのあとに皆は、殺さない程度に追撃してくれるか?」
「殺さないようにって……まさか、巫女様!?」
「ふ、そのまさかだ!俺は、あいつらと……人類と交渉を行う!……行っただろう?誰一人犠牲にせんとな!!」
「敵も犠牲を出さず、俺たちも犠牲にならず……??!!」
「そうだ!もしやり遂げたら……面白いと思わんか?!」
親父含め、あとに続く鬼牙族の男たちが顔を見合わせる。
そして、一気に噴き出すと、
「面白い!やってやろうぜ!」
「俺たちは誇り高き鬼牙族!犠牲なく戦争を終わらせるなんて……最高ですぜ!!」
――面白いと。
この戦士たちは、俺の心意気を汲んでくれたようだ。
ならば、この俺が期待を裏切るわけにはいかんのう!
「―――ああ!これほど楽しい戦いは久しぶりだ!」
走るのをやめ、親父に飛び乗る。
「おっとと?!どうしたリリー!」
「俺を、あの中に投げてくれ」
「――――?!」
指をさした先にあるのは、堅牢なる移動城塞、密集陣形。
怪力自慢の鬼牙族ですら単騎で挑むのは躊躇するそれに、投げ込んでくれなど、普通に考えれば正気の沙汰ではないだろう。
しかし!ギージならば……俺の親父ならば、やってくれるはずだ!
「応よッ!!まっかせろォォォォォォォオ!!」
ゴウッ――親父はフルスイングで俺をぶん投げた。
耳で風を切る音を捉えつつ、剣を構える。
……集団であるならば、どんなに完璧に見えるものにも必ず綻びが発生してしまうものだ。
人と人は、どれほど繋がることができても、一つに同化することはできないのだから。
”見切り”で、密集陣形そのものを一つの流れとしてとらえる。
足元に一つ、そして俺が向かっている正面に一つ。
流れは、人の精神性なども影響される。
人が飛んでくるなど取った例外行動で、その精神が揺らがないわけがない。
「貰った!!」
鈍光一閃。
初手で重苦しい密集陣形をこじ開け、そのままの”流れ”で全員の足を払う。
崩れのその一瞬を、鬼牙族の皆は逃すことなく、蹂躙した。
「―――我が”見切り”に、見通せぬものなし!さぁ、かかってくるがいい!!」
……開戦の狼煙があがる。




