13
次いで翌日。
村は、成人の儀の準備に追われ、あわただしく人々が動いていた。
先人の儀の場所に、必要な道具を設置するもの。
はぐれたロック・ウィィを監視し、その他の害が発生しないかを見張るもの。
成人の儀に参加するものどもの着る一張羅を仕上げるもの。
この一張羅が特殊なもので、鬼牙族特有の模様を、強靭な布同士を編むことで仕上げられているのである。
おそらく、生半可な剣では通すことはできないだろうのぉ。
とはいえ、一張羅といっても、製作が難しいこれを、すべて覆えるように作ることはできないため、襷のような、広い布のような物を巻き付ける感じになる。
急所を守ることができるので、全然問題はないがの。
「……俺にこれを配分するなら、参加者にもっと作ってやったらどうだ?」
「ダメですよ、リリー。あなたは大切な巫女様の役を仰せつかっているのですから。安全第一です」
「むぅ……」
この装飾品。
巫女役である俺の服は、すべてこれで作られている。
もちろん模様も込みだ。
その採寸を含め、いまギージの家で参加者全員が打ち合わせを行っているのだが……。
「それにしても、あれだな!男の鬼牙族は体がすぐ成長しちまうから大変だな!」
「種族特性だからな、しかたあるまい」
岩板に文字を刻んだもので予定の確認をしているギージとサイタス。
何故成人の儀の二日前にこの装飾品を作っているのかという理由は、ひとえにこれに尽きる。
まあ、鬼牙族は成長が速いからなぁ。
ゼノも、すでに、最初に会った時よりもに大きくなっているほどだ。
その成長の速さのせいで、あまりに前に作っても着れなくなってしまう。
故に、二日前に制作するのが通例になっているようだ。
製作には、巫女役を除いた村全体の女性衆が集まっておこなう。
小柄な女性たちとはいえ、さすがに家の内に収まらなかったので、庭でやったりとかなり散らばっている状態だ。
「あ、すいません。ローダの父のクーランです」
成人の儀に伴って、ローダとその父、クーラン殿が普通に街中に出歩くようになったことは善い結果だろう。
わだかまりが解けたようで何よりだ。
「遠視の魔術を使用してみたんですけどね、どうやら遠くで軍隊が出張ってきているようで」
「どこの国か分かりますか?」
「十王国家序列二位、ガーランド王国です」
……む、二位?
俺がいない十二年間に国家間のパワーバランスが変わったのか。
人類側ではよくあることだが……あのガーランド王国がか。
少々気になるな。
「向きはどうだ?」
「こちらを目指しているみたいですね……?」
「侵略か?定期侵略には早い時期だが」
人類は、定期的に魔界へ遠征をおこなっている。
第○○回侵攻遠征と言われているそれは、約一年に五回から六回。
今は五月になるそう(魔界に四季はない)だが、五月は遠征の時期には当てはまらんしなぁ。
「だいたい……四日後ですかね、到着するのは」
「うむ……成人の儀を遅らせるわけにもいかんしな……」
「大規模な戦闘になるようなら、村の場所移動を考えて、魔王様へ伝言を送らねばならないな」
「……話し合いでの解決は難しいか?」
つい、口をはさんだ俺に視線が一斉に向く。
しかし、”征王”として、子供の夢を未だ持つものとして―――ただ戦争するなどということは納得できん。
「……目的がわかれば、だな。この村を襲うことが前提のやつらとは、交渉などできん」
「まだ、なんとか鬼牙族の女子の情報は漏れていない状態を保てているが……もし漏れれば、奴隷として狩られる可能性もある」
―――魔族の奴隷。
人類側で高値で取り扱われている”商品”。
基本的に魔族は強力で、魔法親和性が低かろうが並みの人間だけでは勝てない。
それが何かしらの要因で力を喪い、囚われた場合……人間の欲望の捌け先として利用されてしまう。
それそのものが侵略行為である、アスモディウスの眷族種、吸精族は別として、例えば、見目麗しい鬼牙族の女などは捕まった末の末路は悲惨だろう。
ただでさえ非力なのだしな。
「……武力制圧したうえで話をすることができればいいんだがなぁ」
ぽろっと零れたギージの言葉。
それが、印象に残った。
***
「うわぁ、師匠、とっても美人です!」
「……ああ、ありがとうな、ローダ」
「似合ってんなぁ。素材がいいっていうのは得だ……」
女性衆が集まって作り上げた、参加者というより巫女役である俺の一張羅は、男であった俺には不似合いな程美しく仕上がっていた。
袖はだいたい肘辺りまで、裾は膝までの長さがある。
服自体は長いのだが、重さは全然感じられず、へそ辺りでスリットが入り、足の動きも阻害されないようになっている。
ズボンは、男性用に作られた襷の、もう一回り大きいものを何重にも巻き付けるといった感じだ。
伸縮性もあるこの布のおかげで、下着を着けていなくても何ら問題はない。
むしろ、あの伸びない生地は動きづらかったから助かったくらいだの。
「明日、ですね」
皆が一生懸命に取り組み、段々と成人の儀の準備は終わりが見えてきた。
今では、幾人かは成人の儀終了後の酒盛りの準備をしているものまでいるほどだ。
「お!さすがメイさんの娘だなあ、美人だ!」
「腰の剣が凛々しさ増してるぜぃ!いよぉっ、別嬪さん!」
「うるさいわ!」
儀を行う場所を、サイタスとその息子、スーガ達参加者全員を含めて下見に行く。
成人の儀では、三人が自分の角から削り出した剣と身に着けた服、そして自身の肉体だけを駆使してロック・ウィィを討伐するらしい。
一対一ではないようだな。
昔はそれこと一対一だったそうだが、出産率が増加し、成人の儀を行う頻度があまりにも多くなったために複数人で儀を執り行う形式に落ち着いたらしい。
ランダの知識は便利だの。
「ここか」
しばらく歩いて出てきたのは、大量の泥が地面を埋める、足場の悪い空き地だった。
魔界の土地では、雨が降らなくても、こういった泥地帯が大量に存在している。
これによって行軍が遅れ、版図の拡大がうまくいかないといった裏事情もあるのよな。
「成人の儀では、巫女であるリリーと参加者である三人以外は、遠くから見守っている。巫女を傷つけず、ロック・ウィィを倒して見せろ、ということだ」
……ほう、だから巫女である俺には、全身の服が作られたのか。
たしかに、儀を行うものが倒れた場合、その矛先は巫女に向く。
緊急時は大人が対処するにしても、それまでの無防備な間におこる危険をなるべく減らせるように、ということなのだな。
よく考えられている。
「予定だと午前十時頃に、ロック・ウィィが単独で現れる。お前たちはそこで、敵と対峙するんだ」
「任せとけよ、親父ィ!」
「そっすよ旦那!ヴァイツもやる気十分ですぜ!!」
「………………」ブンブンブン。
凄い勢いで首を縦に振るヴァイツ。
確かにやる気は十全のようだな。
「リリー。お前はギージの……村長の……まあ、あいつはいいか。メイさんの娘だ。体を大事にするんだぞ」
「うむ。……できたらな」
「よし、では解散だ。各自休み、明日に備えろ!」
「いやいや、まだ早すぎだろ!午前だ午前!」
「三人で怪我しない程度に模擬戦でもするか」
「…………うむ」
ヴァイツは、かなり渋い声だった。
模擬戦か、良いのう……。
本気で人と打ち合ってみたいものだが、この体ではままならん。
難しいものだ。
「武器の手入れでもしておくか」
万が一にでも、使うかもしれんからな。




