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魔界転生 ~伝説の勇者が下級魔物に転生したらどうするよ?~  作者: 黒姫双葉
第一章 魔界転生?!~鬼牙族の少女、リリー~    (幼少期編)
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「ローダ、魔法の勉強はどうだ?」

「はい!難しくてわからないところもいくつかありますが、だいたい半分ほどの魔法を覚えることができました!」

「……半分か」


もう(・・)半分。

ランダからもらった本は、厚さで言えば十㎝はある大物。

魔法の教本は、分厚く頑丈な厚紙で作られているといっても、かなりの大きさになる。

さらに、魔法本の記述は、ただの文字ではなく魔方陣。ただ速読できればいいというものではなく、魔法の理解力も求められる。

俺は魔法が使えないためどういう風に理解しているのかは正確には不明だが、魔法が使えるものたちが言うには、本から魔法を知る時は、難解なパズルをやっているような感覚に近いらしい。

もちろん、難解なというくらいだから、それは非常に時間がかかるものなのだ、本来は。


「うう、まだ半分しかできなくて……」

「いや、よいのだ。……いやはや、まったくもって恐ろしい才能よ」


小声で思わずぼやく。

それはともかく、ここに来た理由をそろそろ話さなければ。


「ローダ、そろそろ時間だぞ」

「模擬戦ですね!やってきます!」

「うむ。覚えた魔法は基本使っていいが……危なそうなものは禁止だ。それは今度ほかの、生物以外に試すとしよう」

「はい!」


まあ、もし危ない魔法が出そうになったら俺がどうにかするが……一応注意はしておかなければな。

普通の兵士からすれば魔法は脅威だ。

俺は昔、人間同士の戦いに参加させられたこともあったが、その時にとても強く痛感したことの一つである。

魔法は人類の主兵装といってもいいほどに普及し、発展した技術であるが、戦争に参加する兵士全員が実際の戦闘で使えるクラスの魔法を扱えるわけではない。

俺のように全く魔法を使えないものの方が珍しいということも事実ではあるが………人類のほぼすべてが魔力を持ち、魔法として扱えるといってもその差は歴然。

そもそも一般人にとってなじみの深い”魔法”は、もはや魔法ですらなく魔具と呼ばれる魔力を流すことで起動する機械(なお、これは魔法ではないので俺でも使える)。

魔法は街中のいろんなことに使われている便利なものといった認識でしかないということだ。

魔法使いや、魔躁師はその中でも魔法の才に抜きんでており、それを磨いたものがなる特殊な職業なのである。


「ではまぁ……行くか」


軽くローダの頭を撫でて、外へ出るように促した。



***



「ゼノ君、今日は負けないよ」

「まだまだ、今日も勝つぜ!」


二人向かい合い、俺の戦闘開始の合図を待っている状況。

場所は家の外の空き地だ。

さすがに魔法を使うようになれば家の中でやるわけにもいくまい……。

双方の準備が済んだことを確認して、合図を出した。


「――始め!」

「「―――ッ!!」」


合図の瞬間に二人とも動き出した。

ゼノは前へ、ローダは後ろへ。

二人とも行動は正解である。

魔法は、普通なら中距離、遠距離で運用するもの。

魔法使いはその”距離”と”強力な魔法”が最も大きなアドバンテージだといってもいい。

ようは戦士が、魔法使いを殺せる間合いに入る前に仕留める………ということだ。

ゼノはそのアドバンテージを殺すために前へ。

ローダは生かすために後ろに飛んだ。

距離はゼノの身体能力の方が高いため、やや縮まるが―――。


「即脚!」


ローダの身体能力強化の魔法によって再びもとの距離へと広がった。

はてさて、この先はどうなるかの。

はっきり言ってまったくわからん。

ゼノにはいくつか技を教え、またギージや俺との戦いによって立ち回りが巧くなっているが、戦士は一朝一夕には強くはなれん。

もちろん、元の身体能力ではローダより優れているはずだが、ローダは身体能力の差を覆す可能性を持つ魔法がある。

俺は正直リーダが習得した魔法がどんなものなのかは不明だが、あの魔法本の、ローダが覚えた半分の中に状況を容易に変える一手を打てる魔法がないなどとは言い切ることはできん。

……いや、ランダが天才でアホと称した魔法使いが作った本だ。間違いなくあるはずである。


「つまりは、駆け引きか」


ゼノは戦闘経験。ローダは魔法。

だいたいの戦闘能力は同じとみるべきだ。

ならば、この戦いを制すのは自分の能力を把握し、先を見据えて行動する駆け引きの才。

撃つべき時に迷いなく一手を打ち、引くべき時に潔く引き、耐えるときに辛抱強く―――そんな行動をできるかということだ。

俺の勘では、こういう駆け引きは今だとローダの方が優れていると思うのだが……。

まあ、駆け引きの才は学習して強くなっていくもの。

この先がどうなるかは不明の一言に尽きる。

それはこの戦いも、だが。


「く、おりゃ、くらえ!」

「”岩壁(ライト・ウォール)”!」


前回の戦いと同じ状況になり、ゼノは手にした棍棒を投げつける。

即脚を発動したローダに追いつくのは確かに大変であるため、その判断は正しい――それが前回と完全に同じ状況ならば。


「……それは悪手だ、ゼノ」


ローダは魔法を唱え、手をかざす。

ゼノの棍棒は大量の土煙をあげながらせり出した地面に阻まれ、ローダに牽制の役目を果たすことすらできなかった。


「チャンス!」


ゼノはその岩壁に向かっていく――ほう、まさかあれをやる気か。

ゼノの体の中の流れを見る。

力は地面から体を流れて、手へ集結し……不完全ゆえに大きく力が分散しながらも、ローダの岩壁を粉砕した。

俺が教えた発頸である。

再現率は三十%ほどだが、教えたばかりでここまでできているのは十二分といえるだろう。

……だが、岩壁を粉砕できたことと、この戦いに勝てるかどうかは別物だ。

俺は先ほど流れを見たときに、壁の向こうのローダに強い勝ちの意識の流れが発生したのを捉えた。

それは、もちろん岩壁を作り出したことなどではない。

それは――――


「な、空中?!」

爆玉刻印(アイフルーン)、起爆!」


岩壁を砕き、土煙を払ったゼノの目に飛び込んできたのは、五mほどのところに浮いたローダと、ゼノの周囲に大量に設置されている魔方陣だった。

岩壁による土煙は、魔方陣の設置と、空中への退避を見させないため。

最初の岩壁を作り上げた時点でこの構図は出来上がっていたということだ。

ローダは決して空を飛んでいるわけではない。

即脚によって強化された身体能力で大きく飛びあがり、重力を軽減する魔法で落下速度を抑えているため、ゼノには空中を飛んでいるように見えたのだ。

どうしようもなくなったゼノに対し、爆玉刻印が一斉に起爆する。

爆発の大きさに比べて割と小さな破壊音が鳴り、ゼノが吹っ飛んでいった。



……空中にいるのは、爆玉刻印の効果範囲に巻き込まれないように。

俺が戦闘前に指示したことを忠実に守っているローダの魔法は、効果範囲を大きく、威力を少なくしているようである。

それはゼノが死んでいないことでわかるだろう。

だいたい、広大な空き地の三分の一くらいを覆った爆発から逃げるには、地面による二次元的な動きではなく、空を利用した三次元的な動きが最も適しているからな。

それを一瞬で判断し、行動を積み上げて勝利を掴んだローダの、作戦勝ちだ。


「お、降りるのがなれない……あわわ!」

「ま、まだまだぁ!!!」

「……ほお、まだ動くか?」


威力は抑えているといってもそれなりに強い爆発。

それをくらっても動けるとは、なかなかいい根性をしている。

空中から降りるのに手間取っているローダに接近しようとしたところで――


泥の腕(ま、マミーズ・ハンド)、起動!」


周囲に仕掛けてあったもう一つの魔方陣が起動し、一斉に軟化して、泥と化した地面がゼノの体を捕まえる。

最初は一つだけだった腕は、連鎖的に増えていき、ぐるぐると巻き付く――最終的に全身泥まみれの人の形をした何かが転がっている光景が残った。


「勝負あり、ローダの勝利だ」

「やりました、師匠!」

「作戦勝ちだな、よくやったぞ。……して、ゼノよ。無事か?」

「お、おひゅ、どりょがつまっただけだ、もんだいふぁいぞ」


泥が口に詰まったままもごもごしゃべるゼノ。

良い根性だ……今度はあきれの意味でだが。

うむ、ゼノは焦りすぎだな。

それと、敵の考えをスルーしすぎだ。

なぜこういう行動をしたのかをもっと考えなくては、駆け引き勝ちは難しいぞ。


「まあ、なんだ。水浴びてこい」

「…おう」



***



「あー、さっぱりしたぜ!」

「おう、戻ってきたか」


家に戻り、泥だらけのゼノがメイとギージに驚かれたあと、そのゼノを水浴び場に突っ込んで――今に至る。


「何書いてんだ?」

「うむ、まあ日程表みたいなものだ」

「日程……なんの?」

「お前たちの訓練のだよ。あと数日で基礎訓練を終えることになるだろうが、そのあとは最低限のことだけを教え、自分なりの戦い方を見つけることになる。それのヒントのようなもの、か」


行き詰ったならどうすればいいか。

どこに行けばいいか。

訓練するならどういったことに気を付ければいいのか。

そう言ったことを描いてあるのである。

日にちごとにまとめてあるから、まあ日程表と呼んでもおかしくはないだろう。


「んー、いるのか?だって、そういうのリリーが教えてくれりゃあいいじゃねーか」

「……うむ、まあそうだな。だが、俺がいない時だってあるだろう?」

「いない時……?」


ゼノの言葉に、俺はあいまいに笑って返した。



***



「師匠、そういえばそろそろ今年の成人の儀ですよ。知ってましたか?」

「む、そろそろなのか?」

「はい。毎年だいたいこの時期にやりますね。ロック・ウィィが単独で現れるのがこの時期らしいですよ」


今日の訓練は早めに終わった。

そのまま夕飯でも食べていけばいいんじゃないかというメイの言葉によって、俺たちは今に集まっている。

ゼノの後に俺とローダも水を浴び、さっぱりしている。

やはり運動によって火照った体を冷やすのは気持ちがいいな。

……ふむ、成人の儀。

やるというのは知っていたが、もうそろそろなのか。


「ああ、俺の兄ちゃんが参加するって言ってたな……だけどなぁ」

「む?何か心配事でもあるのか?」

「親父が、ロック・ウィィの行動が最近おかしいとかぼやいてたんだよな」

「父君が?」


ゼノの親父殿にはあったことがないが、ギージによると祭りなどの行事の際にはよく一緒に行動することが多いらしい。

人類側で言う、司祭のような役割を担っているのかもしれないな。


「どんなふうにおかしいというのだ」

「ロック・ウィィの群れの行動はだいたいが決まってんだ。単独で現れるロック・ウィィは、群れの中での争いに敗れたやつが俺たちの村の近くに来て、成人の儀をやるやつが戦う」


ロック・ウィィ――分厚い泥の鎧に身を包んだ、猪型の魔獣。

そも魔獣とは、魔界及び人間界に生息する、大気のマナによって変容した動物のこと。

特殊変異なのでマナの濃い所で発生することが多く、一代のみの変異であることもあれば、種として定着することもある。

基本的に知能は持たず、そこが魔物と魔獣の大きな差異である。

話を戻すと、ロック・ウィィは、魔獣のランクとしては中くらいのランクだ。

一体相手に、人類の戦士が十人以上いて、それなりの装備を持っている状態ならば安定して勝てるというくらい。

魔法使いが居ればもっと楽に勝てる相手である。

そのロック・ウィィの最たる特徴は、泥による分厚い鎧だ。

この鎧は本体への衝撃を大幅にやわらげ、攻撃に転用すればその重さと巨体による突進で甚大な被害をもたらす。


「だけど、ここ数年でロック・ウィィの群れの進路が揺れることが多くなっているらしいんだってさ。まぁ、あまりにも多い場合は村の大人たちが食い止めるらしいけど、そうなると成人の儀は中止だからなぁ……」

「中止になるとまずいか?」

「ああ、まずいな。親父の話によると、成人の儀は村で生きるのに大事な武勲でもあるし、戦士としての自信にもつながるとかなんとか。だから、外せない大事な行事らしいぞ」


心構えは大切だ。

まして、驕らずさりとて卑屈にならないというぴったりの心構えをできるような武勲を立て、しっかりとした自信を持てるような試練があれば、もしもの時も物おじせず、蛮勇によって無駄死にもしない理想的な戦士が生まれることだろう。

成人の儀……なかなか考えられているものだ。


「たしかに、それは外せんなぁ――」


ゴロンと床に背中を預けて、ぼやいた。

成人の儀が、何事もなく終わることを。

そして、あと少しのこの日常が、平和なまま終わることを願った。


「どうか、何も起こってくれるなよ………」





***



ガーランド王が統治する人類側十王国家最大の国、ハイラウシア王国。

年老いた老王の前に、一人の女がひざまずいていた。


「――命を下す。かつて奪還に失敗した、伝説の聖剣。その奪還を」

「は。この命に代えましても」

「……よいのだぞ。其方もあの地に赴くのはつらかろう」

「いいえ――――あの方の……師匠の形見は、私が取りもどしたいのです」

「そうか………では、任せたぞ、ウェルス(・・・)

「―――お任せを」


顔をあげたのは、銀髪と狼の耳を併せ持つ、少女と女の中間に値するような雰囲気を纏った者。

ハイラウシア最高の戦士にして、”征王”の三弟子が一人、月狼族(ワービースト)のウェルスだった。


「”不滅の剣(デュランダル)”奪還作戦、必ずや――成功させて見せます」




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