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「そら、足がなっていないぞ。そんなざまではすぐに倒される」
「うお?!」
剣を構えたゼノに足払いをかまし、転倒させる。
今時はやらないと思うやつもいるかもしれないが、やはり教えるには実戦形式で、痛みを伴うものが一番手っ取り早いのである。
特に戦士はな。
「あーくっそ!なんでこの体格差で簡単に倒されんだよ!」
「だから足腰がなっていないのだ。毎日走り込みをするといい」
マラソンは下半身を鍛えるのに最適だ。
それに腹筋など、ほかの筋トレを組み合わせれば肉体改造は簡単にできる。
「リリー、お前はやってないじゃないか」
「……俺の体はいくら走りこんでも筋肉がつかんのだ…」
腹筋を毎日百回やっても、おなかはぷにぷにのまま。
素振りをしても腕は堅くならない。
この鬼牙族の女の体は、とことん戦闘に向いていないようだ。
「もう一回!」
「かかって来い」
棍棒をもって俺に立ち向かうゼノ。
まあ、流れを見切る必要もなくガラガラな胴体に蹴りをぶち込んで終わったが。
「まあ、リリーは強いんですねー。あなたに似たのかしら」
「強いというか、あれは規格外では……しかし、娘とはいえ武に目覚めてくれるのはうれしい!」
縁側に当たる部分で、俺たちの戦闘訓練を鑑賞しているギージとメイ。
明らかに変な娘相手に疑う心を持たないあたり、うちの親の純朴さがうかがえるな。
大丈夫か、詐欺とか引っかからないか?
…この村にはそんなのないか。
「それにしてもリリー、お前の動きは剣を持ってるのが前提の動きじゃないか?」
「うむ。そうだ」
ギージの言葉に大きくうなずく。
そのとおり、俺は本来大剣を持っているのが戦闘スタイルだ。
とはいえ、そんなのないうえに、この体じゃ持てないから所持してないのだが。
「そうか。よし、いいものをあげよう」
「む?」
そういうと、ギージは家の中に引っ込んで行ってしまった。
なんだろうかとメイに視線で問いかけてみるも、いつものにこにこのほほんスマイルでごまかされてしまった。
うむ、さすがお袋、手ごわいな。
「お待たせ。ほら、これだ」
そう言ってギージから手渡されたのは、俺の背丈の半分程くらいの長さの片手剣だ。
受け取ってみると、ずっしりと重く、手になじむ。
材質は――骨…か?
「それは俺の一番最初の角から作った武器でな。小さいころに使ってたお古だが――」
「これはいい得物だ……。素晴らしい!ありがとう、ギージ!」
振ってみると、いい風切り音。
金属ではなく、骨特有のしっとりとした質感。
ものすごい業物とは、お世辞にも言えん。
しかし、長い年月を超え、味のある武器となっている。
「おー、メイ…愛娘にあんないい笑顔をされると、こんなにも心があったかくなるんだな…!子供作ってよかった……」
「えぇ、今すぐにでもお嫁に行けそうなかわいらしい笑顔でしたね」
おや、桃色オーラが漂ってきたようだ。
あれが来ると対処は不可能、それどころか一緒に巻き込まれてもみくちゃにされる可能性もあるので、早々に撤退だ。
俺は今度はローダのところに向かった。
「んんんんー!」
庭の一角。
ローダはそこでうなっていた。
案ずるな、これも訓練だ。
「あ!師匠!」
俺を見つけると破顔して抱き着いてくる。
うーむ、本当になつかれたものだな。
頭を軽く撫でて、訓練がどうかを聞いてみる。
「魔力ってやつ?わかるようになってきました!」
「――この短時間でそこまでか。ふむ、さすがだな」
ローダには人類側の魔法訓練をさせて見たのだが、見事ドンピシャといったところか。
まあ、父親が元宮廷魔法使い。
さらに、ハイブリッドたる混血種である。このくらいの才能があるということはむしろ当たり前か。
本来、一年ほど、才があるものですら半年かかる、魔力を感じ取るという技能を一日で達成して見せるという、たぐいまれなる魔術師の資質。
どう育つのかが楽しみだ。
「でねでね!師匠、私一つ魔法使えました!」
「……なぬ?」
こ、この一日でか……。
本来、魔法を使えるようになるためには先ほど言った、魔力を感じ取れるようになってから、魔法の構造を知らなければいけない。
どうやったらできるのかを理解して、やっと魔法が放てるようになるのだそうだ。
シリアの受け売りだがな。
ローダはまだ魔法構造を学んでいないはず……ということは、自力で魔法構造を作り上げたということか。
「見ててくださいね……継続治癒!」
ローダは両手を突き出すと、その前に光る球体が生まれる。
それは直径三十センチほどになると、飛び出し、俺を包み込んだ。
……これは?
その光は、俺を包み込んだあと、やや薄くなりながらもすっと存在していた。
もしかして、と思い先ほどもらった剣で軽く手を切ってみると、時間が少々かかりながらも治癒していった。
「―――なんと、長期間にわたっての治癒だと」
「そうなんです!……その、私やっぱり師匠と一緒のところで戦うにはまだまだ力量不足なので…こういったところで頑張りたいなって思って」
――頑張るどころではない。
本来、治癒魔法は一瞬だけしか効果がない。
ゆえに、危険な戦場だとわかっていながらも非力な治癒魔法使いを前線に送らざるを得なかったのだ。
しかし、この魔法があれば、敵の攻撃が届きづらい後方から援護してもらうことができる。
いやはや、なんという娘だ……。
しかし、危険である。
人類側十王が総べる、人類連合”十王国家”、その中でも森精族の前でこの魔法を使えばとたんに真理を看破され、構造を知るために誘拐されたりという可能性が高くなってしまう。
「よいか、ローダ。その魔法は、あまり人前で使わないように」
「はい!」
疑いもせずに俺の言うことをすぐに聞くローダ。
………本当にしっかり育てなければいかんな。
その後、再び襲い掛かってきたゼノを返りうちにし、ローダの魔力増強訓練のアドバイスをしたりするうちに、三時になった。
……ふむ、あの悪ガキどもが来るのはそろそろか。
「………すいません」
噂をすればなんとやら。
来たようである。
「リリーさんはいますか?」
「あら?はい、いますよ。庭でお友達と遊んでいます」
「……どうも」
そうして、やってきたのは、ローダをいじめていた二人の少年。
ゼノを見て顔をしかめると、何かを言いたそうにして、やめた。
「ローダ、ちょっとこっちに」
「えっと、はい……」
やはりまだ怖いのだろう。それはそうだ。
いじめられた心の傷、しかも人殺しとまで侮蔑されたのだ、強い苦手意識があっても何らおかしくはない。
――だが、ローダはそれを克服しなければならない。
そのための一歩として、こいつらを呼んだのである。
本来、俺が手を出してはいけないのだろうが、まあ最初くらいはな。
「その、すまん…」
「えっと、その……」
「少年。何が悪かったのか言わんと伝わらんぞ」
「……ローダ、いじめて、すまなかった」
「あの、その……は、はい!」
ローダは答えになっていない答えを返す。
しかし、自分をいじめていたということを少年どもが謝ってくれたという事実は変わる切っ掛けになりえるだろう。
とりあえず、この件は一件落着か。
そして、少年たちの帰り際。
「……お、おい、リリー!今度は正々堂々戦って倒してやるからな!」
そう言って、走って帰って行った。
ふむ、改心した、ということでいいかの。
さて、今日の訓練をそろそろ終わりにさせるとするか。
ゼノとローダを呼ぶ。
「ぜぇぜぇ……」
「ゼノ君、なんでそんなに汗かいてるの?」
「マラソンと腹筋のせい……だ……」
「集まったな。さて、ここで一つ通達がある。訓練の最後には必ず、二人で模擬線をするように」
「模擬戦…?」
ローダが首をかしげる。
なぜやるのかという顔だ。
「なぜやるかというとな、実戦に近い形式で、自分とは全く違う戦闘スタイルの相手と戦う経験を得られるからだ。もちろん、怪我には注意し、寸止めにさせてもらうが」
「師匠!私まだ魔法ほとんど知りません!」
「うむ。だから今日は肉弾戦だ。やられなれ、というやつをしてもらう。……少し痛いかもしれんが、大丈夫か?」
「望むところです!」
そうか、なら安心だ。
とはいえ、完全に心得なしのまま戦わせることはしない。
ローダに、俺が知っている魔法構造を耳打ちして教えておく。
……この魔法構造、使えるかと思って勉強してみたのだが、やはり生前の俺は使うことができず、構造だけは知ったままお蔵入りになっていたものだ。
生まれ変わっても相変わらず魔法は使えなかったため、本当に役に立たないな…という状況だ。
「では――双方位置について………はじめ!」
今回の戦いでは、俺はゼノにもローダにもアドバイスはしていない。
つまり、この二人がすべて自分で考えて、自分なりの戦闘スタイルで戦うということだ。
これを知っておくことで、今後の訓練などに生かすことができる。
――むかし、三人の弟子をとり、育てたときに学んだことである。
「ローダ!一ついいか!」
「え?うん、いいけど…」
「えっとな、ごめん!」
む。
ほう、ゼノがローダに謝っているのか。
「えっと、なんのこと?」
「いや、俺も兄貴たちといじめてたろ……だから、その、俺もちゃんと謝んないとって」
……ほう。
ちゃんとそこまで考えが回ったか。
もうちょっと時間かかるかと思ったが、こんなに早く謝るところまでいくとは。
若い衆の友情が育まれているようで何より何より!
これが、ゼノにもローダにもいいように働いてくれるといいが。
――いや、働くだろうな、きっと。
「ううん、いいの。ゼノ君なんだかんだ言って私をかばったりしてくれてたし」
「でも!」
「それに、もう終わったことだしね。ゼノ君、一緒に師匠の弟子になってくれてありがとう」
「え…?」
ローダには、ゼノが責任を感じて一緒に弟子入りしたということにしてある。
ようは、同門の友人といった感じでな。
ローダはそのことに関してゼノにお礼を言ったのだ。
まこと、純真な娘だな。
「ほら、ゼノ。今お前に求められているのは、ともに切磋琢磨する友としての役割だぞ?友人として、誠心誠意力を尽くし強くなるがいい。おまえは、友を守る戦士になるのだらな!」
「うん、ゼノ君……これからも、よろしくね?」
「――おう!」
おうおう、ゼノめ、ローダの笑みに顔を真っ赤にしておるな。
女慣れしてないのお…。初々しいものだ。
「それはさておき、そろそろ開始してくれよ?」
「あ、そうでした。師匠、もう一回お願いします」
「うむ。…では――はじめッ!」
今度こそ、模擬戦が始まった。
「即脚!」
まずローダが後方にバックステップをして、魔法を唱える。
ローダの足に青色の光が、模様のように張り巡らされ、移動能力が強化された。
あれが、俺の教えた魔法である。
「セイアアアア!」
「ほう、器用なものだな」
ゼノの振り回す棍棒をステップで躱していくローダ。
攻撃手段は持っていないため、攻撃こそしないが、ほぼ完ぺきにゼノの攻撃を避けきっている。
……しかし、ゼノもただ避けられるだけではないよの。
あのように若くとも、一端の戦士であるのだから。
ゼノは棍棒を投げつけると、ローダが避ける、その隙をついて徒手空拳での戦闘を挑み始めた。
うむ、いい判断だ。
確かに、移動速度が強化されているローダに、重い棍棒は当りづらい。
ならば、手数の多い拳や足を使って戦うというのは的確である。
「そこだ――!」
「あっとと……!?」
ゼノの胴体を狙った正拳攻撃を避けたところで、体力が切れてきていたローダの足がもつれ、体勢を崩す。
そこにゼノが蹴りによる一撃を放つ。
―――ここまでか。
「そこまでッ!!」
二人の間に飛び込み、ゼノの蹴りを受け止め、倒れかけたローダを抱き留める。
「二人ともいい戦闘だったぞ」
二人をねぎらい、座らせる。
うむ、機転も利き、何より意欲がある。
さて、問題点をあげるとすれば、ゼノは少々攻撃に意識が向きすぎか。
防御をなかなか無視している。
確かにこの村の中でならそれでもいいかもしれんが、戦場に出るとすれば鬼牙族とはいえ、防御や回避も考えなくては生き残れん。
とはいえ、マラソンやら腹筋やらで体力が少ない状態であそこまで動けて見せたのは素晴らしいな。
次にローダ。
攻撃を教えていなかったから攻撃はしなかったが、回避能力が高いということはうかがえる。
それに、攻撃を受けていながらも冷静に魔法を唱えられていたというのも、高評価だ。
これは、むしろいじめられていたからこそ身についた技能かもしれないな。
問題点は、体力の少なさだろう。
つかれているゼノと戦って先に体力が底をつくようでは、敵に襲われたときに心配だ。
あとは、魔法だが……こればっかりは俺にはどうしようもない。
明日あたりランダの婆さんのところにいっていろいろ学んでくるか。
「さて、ではこれにて今日の訓練を終了する――――なんだ、ゼノ。俺の顔に何かついているかの?」
「いや……なんで俺の渾身の蹴りをローダを抱きかかえるっていう不安定な状況で受け止められんのかなってさ…………」
経験の差というものだな。
長く戦場にいれば自然と身につく。
俺には見切りがあるからさらに高精度ではあるが。
「なに、修練を積めば同じことくらい簡単にできるわ。それよりも、オーバーワークにならんように今日は家に帰ってしっかり休めよ」
「はい!」
「あいよー」
そして、今日の訓練は終わった。
俺も明日に備えるか。
また明日の一時から、二人を教えなければならないしな。
師匠という懐かしいものに心が躍っているのを自覚する。
さて、勘を取り戻すためにすこし素振りでもするか。
そんな感じで一日の修練を終え、今日が終わった。




