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魔界転生 ~伝説の勇者が下級魔物に転生したらどうするよ?~  作者: 黒姫双葉
第一章 魔界転生?!~鬼牙族の少女、リリー~    (幼少期編)
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8

窓から照った日差しで、目が覚める。

カーテンなんてないこの家では、これが目覚ましみたいなものだな。


「んー……」


若いから起きるのも楽だなぁ。

これが、歳とるとだんだん布団から出たくなくなったり、二日酔いとかで頭が痛くて動けなかったりということもある。


二人が来るのは一時からだ。

それまでは、ランダのところで勉強をすることにした。




***



「こんにちわ、長老、いるか?」

「おや、もう来たのかい、リリー」

相変わらず本が雑多に積まれた屋台の奥、ランダの声が聞こえた。


「八時だろう?別に早い時間ではないと思うが」

「婆には早いものさ」

「年寄りは早寝早起きが基本だと聞いていたがな」


奥まで足を進めていくと、椅子に腰かけて、煙管を加えたランダの姿が現れる。

…む?

この匂いは、煙草ではないな。

煙管から漂ってきた匂い、それは俺が知っているタバコのにおいにが該当しない。

しかし、麻薬といった感じでもないな。

何か特殊なハーブなのだろうか。


「机は用意しておいたよ。さぁ、さっさと席に着きな」

「あぁ、助かる。……で、いろいろと教えてもらいたいのだが」

「何でも聞いてくれ。答えられることなら何でも答えよう」


用意された机にどっかりと座って、

目の前に「よっこいせ」っと座ったランダに、俺はいくつかの疑問を投げかける、

……婆くさいな、なんて思ってないぞ?


まず、一つ目。


「十二年くらい前に、大きな戦いがあったらしいな。その詳しい年月と、どうなったのかを知りたい」

「ふむ」

ランダは目を細めると、

「正確には十二年と四か月前だね。人類側の勇者と魔王様が戦ったらしいけど結果は勇者の敗北と」

「あぁ。で、その勇者が」

不滅(デュランダル)の勇者、リングスウェイ」


……十二年か。

前にローダの家でそのくらいだと聞いてはいたが、正確に歴史を知るランダから聞かされると感慨深いものを感じる。


――そうか。

俺が死んでからそんなに時間がたったのか…。



「そういえば、人類の政権の奪還作戦が行われたとか?」

「あぁ、あったね。あれは―――そう、リングスウェイが死んでから半年後だった」

「その時にクーラン殿が?」

「そういうことだ。まぁ、鬼牙族は多種族の婿を迎えることも珍しくないからね、それが人間だとしても、受け入れるのさ」

「珍しくないだと?」

「あぁ。…そうか、リリーはまだ鬼牙族の種族特性を知らないのか」

「種ぞ…?」

なんだそれは。

四十数年生きてきて初めて聞いたぞ。


「魔物には…いや、このセカイに住む生物には、必ず種族特性というものが備わっているのさ。それは、場所によっては進化形態なども呼ばれているがね。まぁ、生物が代替わりを繰り返した果ての一つの形さ」


「進化形態…」

「ま、いい方は大げさだがね。人類にもあるものだし」

「人類にも?」

「おうともさ。あの人類の知識や技術。あれこそが人類の種族特性なのだろうさ」

「あぁ、確かに」

言われてみれば、そうだな。


「……そういえば、長老。あんた、一体いくつなんだ?」

「む?なぜそんなことを」

「いやなに、端に聞いていなかったと思ってな。それに、あまりにも動作というか、雰囲気が魔物らしくない」

「…はは、”魔物らしくない”、か?」

「あぁ」


…しまった。気を抜きすぎた!

ここで生まれて外に出たことがないはずの俺が、まるでほかの魔物や人間を知っているかのような言動をしてはならなかった!


「まぁ、教えるのはやぶさかではないよ、しかし、聞いて驚くなよ。わたしはね……六百歳だ」

「――なに?」

心の中の考えをすべて放棄して、ランダに向きなおった。


「バカな…龍種ですら五百年以上の齢を重ねている個体は二十もいないというのに!?」

「あいつらのような化け物のような強さを持っているというわけではないよ。ただ単に…そう、死に場所をなくしちまっただけさ」

寂しそうに笑うランダ。

この表情を、俺はよく知っている。


これは。この笑みは――戦場で家族を亡くしたものが浮かべる笑みに、そっくりだ。



「誰か、大事な人を亡くしたのか」

「大事、なんて思ってはいなかったよ。ただ、そばにいるのが当たり前だった。それがいきなりいなくなってしまって……急に空っぽになっちまったんだ。死ねるかと思っていろいろ試しもした。でも、結局死ねなかった。そのままずるずる生きてきて、このざまさね」

「――そうか」


この人は。

孤独の路を生きてきたのか。

寄り添う人もなく、ただずっと、一人で。

……強いな、この人は。



「俺は――俺も、()は戦争孤児だった。それも人同士での争いのな。その時に、とある魔物に命を救われた。俺は、魔物と敵対する立場にいたが、魔物を憎むことはできなかったんだ。それは、魔物と人間は分かり合えるってことを知ってたからだと思う。結局、死んでからそう思えたんだけどな」

「……リリー、君はやはり――」

「これは内密な話で頼む」


さっきのだけなら、疑惑で済んだかもしれない。

でも、ここまで言ってしまったら確実にばれているだろう。

だが、いいじゃないか。

この人にだったら、言われたとしても悔いはない。

一人の路を歩き行ける強い人になら。


「俺は、貴女の様に強くならなければいけない。夢をかなえるために、な」

「…私は口は堅いほうだ。さて、少し重い話になってしまったね。今度は楽しくいこうじゃないか」


その言葉に俺はあぁ、と答えて、この”危険な”話を終えた。



「では、二個目の疑問を」

「あぁ、どんことい」

ランダは、先ほどの話なんて存在していなかったかのように、自然に答えた。

煙管に詰まった灰を灰皿にトンッと落とすと、新しい煙草?を詰め、火をつける。

うーむ、ほんとにあれは何なんだろうな。


「先ほどの、種族特性について教えてほしい」

「鬼牙族のだな。まぁ、文章に起こせば簡単なものだ」

ランダは、三本指を出すと、一本、折りたたんで

「まず、鬼牙族の男は短命で強靭な肉体を持つ」

そういった。

そして、次にもう一本を折って

「女は、わたしの様に長命であり、どの種族とでも子をなせる高い繁殖能力を持つ。しかし、その代りに非常に非力である」

最後に、残りを折って

「そうして生まれた子たちは、非常に生育が早い。これだけだよ」


なるほど。

やはり鬼牙族は生育が早い種族であったか。

女が長命で、繁殖能力が高いのは、代替わりが激しいからだろうな。


「ついでに言っておくと、魔法親和性は女の方が高いぞ。鬼牙族の女の体は、魔力に近い物質で構成されている。最低ランクから少し上くらいの親和性にはなっている」

「ほー」

どちらにしても最低ランクか…。


「…ん?というか、俺は鬼牙族の女性がいること自体が初耳なのだが」

何度か、俺は鬼牙族の村を征服することになったことがあったが、女性は一人もいなかった。

「……あぁ……鬼牙族の女性は、死ぬと死体にはならないのだ。魔力に近い物質で構成されている体は、生命活動が止まった瞬間に、空気中に溶けてしまう」

「なんと…」

では、俺が村に行ったとき、女性たちはすでに…。


「気にするな。君の責任ではない」

「……いや、これは俺の罪だ」

これは、俺が負うべきものだ。

「――次の質問、いいか?」




***


「ランダ、いろいろと助かったよ」

「なに、わたしもいろいろと話をできて楽しかったよ。こんなに人と触れ合ったのは久しぶりだ」

「また、遊びに来る」

「ああ、待っている」

互いに軽く手をあげ、俺は本屋を後にした。


いろいろと、有意義な時間だったな。

知識をたくさん得られたし。

――何より、俺の正体を知ってもなお、普通に接してくれる人と出会えたのはうれしい。


本当に、強いなぁ、ランダは。

と、もうじき昼だ。

飯を食って、二人を出迎えなければ。



「ただいま」

「リリー、お友達が来てますよ」

「リ、リリー……いつの間に男の子と仲良くなったんだ……?」

ギージ、何もそんなに言葉を振るわせなくてもいいだろう…。


「一人だけか?」

「いいえ、二人ですよ~」

台所で料理を作っているメイ。

楽しそうだ。


「ローダも来てたか。……待ち合わせの一時間も前なのだがなぁ」

まぁ、この場合早く来ても悪いことなんて何もないからな。

「リリー、手を洗ってきてください。そしたら、ご飯にしましょう」

「うむー」


入り口近くにある水場へと移動。

水桶から水を汲み、手を洗う。

……それにしても、少し汗かいたな。今日熱かったし。


手元の桶を見る。

冷たそうだ……。


「……とおッ!」

ぽいっと服を脱ぎ捨て、上から水をかぶる。

ざぶんっ!

冷えた水が火照ってた肌を伝っていく。

「あー…気持ちーなぁー…」

水浴びなんて、四十歳を超えたあたりからやっていなかったからなぁ。

懐かしい。

それに、気持ちいい。

これからたまに水浴びするのもいいかもしれないな。


「リリー?早くしてくださいね?」

「おっと、今行くぞ」


適当に服を着て、奥の部屋へと向かった。

「師匠ー、待ってましたー!」

「リリー、待たせすぎってぶはぁっ?!」

「どうした、鳩が豆鉄砲喰らったかのような顔をして」

部屋に入って開口一番そんなことを口にした――しようとしてゼノが、いきなりせき込んだ。

いったい何だというんだ。


「リリー、家だとしても、さすがにお友達がいる前でその恰好はやめてくださいね」

「男の子もいるわけだしな」

恰好…?


上。

上着を羽織っただけ。

下。

履いてない。


「……服か、めんどくさいなぁ」

特に下着が。

女物とか、圧迫感がすごいんだよなぁ。


とはいえ、さすがにはしたないのはその通りだ。

俺の部屋から、下着を取り出して(なお、ギージのお古である。女物は嫌いだ…)適当に履いた。

体格差があるからな。

これだけで、膝下までの丈はある。


「またせた」

「じゃ、飯にするか」

いただきまーす、という声で、みんながご飯を食べ始めた。



「ご飯一緒に食べさせてもらっちゃって、ありがとうございます…」

「いえいえ、いいんですよ。同じ村に住んでいるんだもの」

「そうそう、鬼牙族は全員が家族なんだ。いちいち気にするなんてお前だけだぜ!」

「そういうお前は少しはギージとメイに感謝をしろ、あと口にご飯粒ついておるぞ」


とてもとても騒がしい食卓。

こういうのも楽しいな。


「ところでリリー。午前中はどこに行ってたんだ?」

「あーむ……うぬ?あぁ、ランダのところにな」


「「「「え?」」」」


全員一致で疑問詞が飛び出てきた。

俺何か変なこと言ったかの…?


「え、あの気難しいランダばあさんのところ…か?」

おそるおそる、といった感じで聞いてくるギージ。

「気難しいかどうかは知らぬが、本屋のランダだ」


「……俺、あの本屋の人と話したことあるけど、沈黙に耐え切れなかったぜ…」

「なんか、見た目怖いよね」

「あんまり話す機会がないんです。どんな方なんでしょうか」

どんな方、といわれても…。


「うーん……長生きしてる婆さん?」

こんな中では俺も長生きしてる方だと思うが、それだってせいぜい五十年かそこらだ。

ランダは600歳だからな。


「いろんな知識もってるひとだから、結構話すと楽しいぞ?」

「そうなんだ…。わたしも今度話してみようかな」

「やめとけって…」

「そういえば、長老って何歳なのだろうなぁ。俺やメイが子供のころからずっといたが」

あぁ、同じ村の中でも年齢解ってないやつとかいるのか。


まぁ、あの婆さんは、人との関わりきってそうだったしなぁ。

本屋も、ほしい人は金を置いて勝手に持って行ってくださいという手抜き形式。


そんな、話がひと段落したところで、ちょうど飯が食い終わった。

メイの、子供たちは遊んできてくださいね、という言葉に甘えて(なお、ギージはメイにかじを頼まれて、俺たちと遊ぶのに失敗した模様)、俺とゼノ、ローダは庭に出ていた。


ギージの家は、村長の家ということで、庭も広い。

ここなら、十分に戦闘ができるだろう。



「…さて、二人とも。修行を始めようか」



こうして、初めての修行が行われた。

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