第六話 装飾品―2
凛とした音が、広場の空気を一瞬で張り詰めさせた。
その言葉と同時に、場を満たしていた喧騒が引き絞られるように消え、沈黙が落ちる。
屋台に並べられた燐灰石が、一斉に軋むような音を上げ始めた。表面に亀裂が走り、内側から赤い線が浮かび上がる。脈打つように明滅し、石そのものが生きているかのように揺れる。
ひび割れの隙間から黒い光が滲み出し、ゆっくりと膨れ上がった。やがて、形を保てなくなった塊が崩ると、濁った煙を噴き出した。
それを見た群衆から、短い悲鳴が飛び出す。押し寄せる熱と、焼けたような臭気が広場を満たした。
「ひぃっ! 何これ!?」
セレナの周りにいた女たちが悲鳴をあげ、手にした装飾品を机に放り投げる。
外殻が崩れ落ちていくと、その中から現れたのは、ただの小石だった。宝石の面影すらない、道端に転がるようなありふれた灰色の石。
「やっぱり」
セレナのつぶやきと同時に、一等大きなざわめきが広場に広がった。
黒く崩れた塊は煙となって空へ散り、やがて粒子となって消えていく。取り残された女たちは口元を押さえ、顔を強張らせたまま動けずにいた。何が起きたのか理解できないまま、ただ立ち尽くしている者もいる。
「全員、騙されていたの。……騙されていたというより、魔法による洗脳ね」
男の顔から血の気が引き、蒼白になっていった。
「こんなもの、ずっと持っていたら命を削られる。細工は巧妙だけど子どもだましね。『識別』で見抜ける程度じゃ、魔法具としての価値もない」
「ま、ま、まて! おっ、俺は知らない! 頼まれたものだ!」
声を裏返らせて男は後ずさる。セレナは一歩、また一歩と追い詰めるように近づいて、冷ややかな声を落とした。
「頼まれた? 商売をするなら、自分が何を売っているのか知らないと話にならないでしょう。私ね、こういった魔法具は大嫌いなんだけど――」
――これを、どこで、誰に頼まれたの。
巨大な化け物に喉元を掴まれたかのように、屋台の店主の身体が強張った。短い悲鳴が喉から漏れ、額から大粒の汗が噴き出し、背中を伝って衣服を濡らしていった。冷え切った指先が小刻みに震え、荒い呼吸が断続的に漏れていた。
その重圧に耐えきれなかったのだろう。男は声にならない叫びを上げ、踵を返して走り出した。荒く擦れた息を吐きながら、人々を押しのけて走る。足元がおぼつかず、何度もよろめきながらも、必死に距離を取ろうとしていた。
血走った目で前だけを見据え、喉を鳴らしながら逃げ惑うその背を追おうと右足を踏み出し、そしてすぐに、セレナは動きを止めた。
「ぐげっ!」
鈍い声。喉を潰された声とともに、男の体が宙を泳ぐ。その勢いのまま顔から石畳へ叩きつけられ、地面を転がった。




