第五話 夢の静寂―1
第五話
『夢の静寂』
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その夜、セレナはそのまま部屋に泊まった。
外へ出ても、新しく宿を探すだけになる。そう考えて、結局ここに留まることを選んだ。
魔力の枯渇と傷の痛みは、まだ身体の奥に鈍く残っている。だが、寝台に身を沈めた途端、その感覚は遠のいていった。柔らかな沈み込みに引きずられるように、意識がゆっくりとほどけていく。
――セレナ。
深く、冷たい水の中だった。
水の膜に包まれたまま、身体がゆっくり沈んでいく。抗う気力もなく、ただ流されるままに落ちていく。頭上には、水面の光が揺れていた。遠く、ぼやけた光。手を伸ばせば届きそうなのに、距離は縮まらない。
セレナはそれを見つめたまま、静かに目を閉じた。
――セレナ、セレナ!
どこからか、声がした。
高すぎず、低すぎない声。水の中をすり抜けて、直接耳の奥に触れてくるような響き。
揺れる。風のように、柔らかく揺れている。その音に引かれるように、セレナはゆっくりと瞼を押し上げた。
「あ……」
息と一緒に、声が漏れる。
(いまのは、夢……?)
久しぶりだった。夢を見るなんて。何を見ていたのかは、もう思い出せなかった。
ただ、夢だったという感覚と、名前を呼ばれていたような感覚だけが、はっきりと残っている。あの声が、余韻のように、耳の奥に引っかかっていた。
それが、頭の中に響いているのか。
それとも、どこかからか聞こえているのか。
セレナには分からなかった。
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