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第五話 夢の静寂―1

第五話


『夢の静寂』


◑ ━━━━━ ▣ ━━━━━ ◐


 その夜、セレナはそのまま部屋に泊まった。


 外へ出ても、新しく宿を探すだけになる。そう考えて、結局ここに留まることを選んだ。


 魔力の枯渇と傷の痛みは、まだ身体の奥に鈍く残っている。だが、寝台に身を沈めた途端、その感覚は遠のいていった。柔らかな沈み込みに引きずられるように、意識がゆっくりとほどけていく。


 ――セレナ。


 深く、冷たい水の中だった。


 水の膜に包まれたまま、身体がゆっくり沈んでいく。抗う気力もなく、ただ流されるままに落ちていく。頭上には、水面の光が揺れていた。遠く、ぼやけた光。手を伸ばせば届きそうなのに、距離は縮まらない。


 セレナはそれを見つめたまま、静かに目を閉じた。


 ――セレナ、セレナ!


 どこからか、声がした。


 高すぎず、低すぎない声。水の中をすり抜けて、直接耳の奥に触れてくるような響き。


 揺れる。風のように、柔らかく揺れている。その音に引かれるように、セレナはゆっくりと瞼を押し上げた。


「あ……」


 息と一緒に、声が漏れる。


(いまのは、夢……?)


 久しぶりだった。夢を見るなんて。何を見ていたのかは、もう思い出せなかった。


 ただ、夢だったという感覚と、名前を呼ばれていたような感覚だけが、はっきりと残っている。あの声が、余韻のように、耳の奥に引っかかっていた。


 それが、頭の中に響いているのか。


 それとも、どこかからか聞こえているのか。


 セレナには分からなかった。


◑ ━━━━━ ▣ ━━━━━ ◐

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