第5話「三人分の答え」
依頼は、珍しくまともな話だった。宇宙の港の掲示板に出ていた案件で、内容は単純だった。惑星間の小規模輸送会社が、競合他社に顧客データを抜かれた。犯人の特定と証拠の確保。報酬は悪くなかった。
「まともすぎて逆に怖い」とブレイクは言った。
「まともな依頼を怖がるな」とジャックスは言った。
「ルミナ的にはちょっと地味かなー」とルミナは言った。「でも依頼人の社長さん、すごく困ってたから、助けてあげたい!」
「感情で仕事を選ぶな」とジャックスは言った。
「でも受けるんでしょ?」とブレイクが言った。
「受ける」とジャックスは言った。
依頼人の会社は、宇宙の港の外れにある小さなオフィスだった。社長は五十代の女性で、ディア・モレルといった。落ち着いた話し方をする人だったが、目の下に疲労が出ていた。
「三週間前から、うちの顧客リストが競合に流れてます」とディアは言った。「新規の契約が取れなくなって——相手がうちより先に、同じ顧客にアプローチしてくる」
「内部犯の可能性は」とジャックスは言った。
「考えました。でも社員は四人だけで、全員十年以上一緒にいる。信じたい」
「信じたいと信じていいは別だ」
「分かってます」とディアは言った。「だから頼んでる」
ジャックスは端末を取り出した。「社内システムへのアクセス権限をもらえるか。外部からの侵入ログを確認したい」
「ルミナも手伝う!」とルミナが通信越しに言った。「データの流れを追うの、得意だよ!」
「わたしの船から作業してもいいですか」とジャックスはディアに確認した。
「お願いします」とディアは言った。
船に戻って、三人で動いた。
ジャックスがシステムのログを精査する。ルミナがネットワーク全体のデータの流れを可視化する。ブレイクが——
「俺は何をする」とブレイクは言った。
「競合他社の動きを調べろ」とジャックスは言った。「表に出てる情報だけでいい。どのタイミングでどの顧客にアプローチしてるか、パターンを見る」
「それ調べてどうなるんだ」
「データが流れるタイミングと一致すれば、リアルタイムで情報を受け取ってることが分かる。内部犯か外部からの継続的なアクセスかの切り分けができる」
「……なるほど」とブレイクは言った。「分かった」
三人がそれぞれの作業に入った。しばらく静かだった。
「外部アクセスのログ、あった」とルミナが言った。「三週間前から、週二回。火曜と金曜の深夜。同じIPじゃないけど、アクセスのパターンが似てる」
「踏み台を使ってる」とジャックスは言った。「IPを変えながら同じ人間がアクセスしてる」
「競合のアプローチ日程と照合してみる」とルミナは言った。数秒後。「一致してる。アクセスの翌日か翌々日に、必ず競合が動いてる」
「外部犯確定だ」とジャックスは言った。「問題は誰が——」
「ちょっといい?」とブレイクが言った。
二人が振り返った。
「競合の営業記録、表に出てるやつ見てたんだけど」とブレイクは言った。「三週間前に、新しい営業担当が入ってる。経歴がきれいすぎて、なんか引っかかった」
「きれいすぎる、というのは」
「前職の会社、調べたら実体がない。登録だけある会社」
ジャックスは少し間を置いた。
「その人間の名前は」
「エン・ファロス」
「ルミナ、その名前で照合できるか」
「うん、やってみる!」とルミナは言った。十数秒後。「……あ、出たよ。この宇宙の港域内で三件、情報窃取に関わった疑いがある人物と名前が一致するよ。別名使ってるけど、顔認証で同一人物の可能性が高いね」
静かになった。
「三人でやると早いな」とブレイクが言った。
「当たり前だ」とジャックスは言った。
「お前が言うと嫌味に聞こえるのなんで」
「事実を言っている」
「ルミナが言ったら可愛いのに」
「じゃあ、ルミナが言おうか?」
「言わなくていい」とジャックスは言った。
証拠をまとめてディアに渡した。ディアは資料を一通り確認して、静かに息を吐いた。
「社員じゃなかった」と彼女は言った。
「そうだ」とジャックスは言った。
「よかった」とディアは言った。声が少し揺れた。「信じてよかった」
ジャックスは何も言わなかった。信じていいと信じたいは別だ、と言ったばかりだったが、今回は信じた方が正しかった。それだけのことだった。
「ありがとうございました」とディアは言った。「あなたたちは——いいチームですね」
ブレイクが「そうっすかね」と言った。
ルミナが「でしょ!」と言った。
ジャックスは何も言わなかった。悪い気はしなかった。
船に戻る道で、ブレイクがジャックスの隣を歩きながら言った。
「さっき、社長に言えなかったけど」
「何を」
「信じたい、って気持ち、俺は分かるけどな。合理的じゃないのは分かってても」
ジャックスは前を向いたまま歩いた。
「分かってる」と彼は言った。「だから確認する。信じたいなら、信じていいと証明するために動く。それだけだ」
ブレイクは少し考えた。
「それ、優しい言い方だな」
「事実だ」
「だからお前の言い方は嫌味に聞こえるんだよ」
「うるさい」
ルミナが通信から「ふたりとも仲いいねー!」と言った。
「仲よくない」とふたりが同時に言った。
それだけだった。
船は次の星へ向かった。
—続く—




