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銀河のポリーズ  作者: 空野 翔


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第3話「最悪の星で最高の連携」

 ルミナが「面白そうな星がある」と言い出したのは、航行中の何もない時間帯だった。

「面白そう、の定義を言え」とジャックスは言った。

「廃墟の採掘基地!むかし機能してたやつ。今は無人なんだけど、内部に希少鉱石が残ってる可能性があって——」

「可能性がある、というのは確定ではないということだ」

「でも高確率!七十三パーセント!」

「残り二十七パーセントが気になる」

「細かいなあ」

「細かくない。原則の——」

「行こうぜ」とブレイクが言った。「七十三パーセントなら十分じゃん。売れたら金になるだろ」

 ジャックスはブレイクを見た。ブレイクは既に前のめりになっていた。金という単語が出た瞬間から、目の色が変わっている。

「……一時間だけだ」とジャックスは言った。

「やったー!」とルミナが言った。「いっくよー!」


 廃墟の採掘基地は、見た目からして歓迎していなかった。外壁は半分崩れ、内部の通路は照明がほとんど落ちていた。かろうじて非常灯だけが赤く光っていて、それがまた不吉だった。空気は一応あったが、古くて、金属の匂いがした。

「廃墟じゃなくて廃棄物だこれ」とブレイクは言った。

「構造は生きてる」とジャックスは言った。端末で基地の内部マップを確認していた。「鉱石の反応は中央区画。ここから十分ほどだ」

「ルミナは?」

「船で待機してまーす!」とルミナの声が通信越しに聞こえた。「大型機体はドッキングポートが合わなかったので。でも通信はつながってるよ!」

「頼りにならない」とブレイクは言った。

「ひどい!ルミナはサポートに徹します!」

「サポートって具体的に何をする気だ」とジャックスが言った。

「もちろん、実況!」

「いらない」


 中央区画までは、思ったより順調だった。順調だったのは、そこまでだった。鉱石の反応があった部屋に入った瞬間、床が鳴った。低い、嫌な音だった。

「ジャックス」

「分かってる」

 二人は動きを止めた。天井を見た。壁を見た。基地全体が、ゆっくりと傾いていた。

「地盤が動いてる」とジャックスは言った。「この区画、支柱が一本折れてる。重量バランスが——」

「要するに?」

「崩れる」

「いつ?」

「早ければ十分。遅くても二十分」

 ブレイクは部屋の出口を見た。来た道と、もう一方——奥に続く通路。

「戻れるか」

「メインの通路は既に傾きで歪んでる。通れなくはないが、走ると振動で加速する可能性がある」

「じゃあどうする」

「別ルートを探す」とジャックスは端末を操作した。「マップによると、この区画の東側に旧搬出用通路がある。基地の外壁に直接繋がってる」

「繋がってたら、だろ」

「そうだ」


 ルミナの声が通信から聞こえた。「ふたりとも、ルミナからも見えてる範囲で言うと——東通路の途中に、旧式の安全扉があるよ。電力が生きてれば開くんだけどー。たぶん、手動でも開けられる構造のはずだよ」

「たぶん、か」

「でも七十八パーセント!さっきより高いよ!」

「さっきと同じ人間が言ってるのが問題だ」とジャックスは言ったが、すでに東に向かって歩き出していた。


 東通路は暗かった。非常灯も半分落ちていて、ジャックスの端末の明かりだけが頼りだった。床がところどころ浮いていて、踏むたびに基地全体が小さく揺れた。

「ゆっくり歩け」とジャックスは言った。「振動を最小限に」

「わかってる」とブレイクは言った。

 二人は無言で進んだ。しばらくして、安全扉が見えた。鈍い灰色の分厚い扉。電力ランプは消えていた。

「手動だ」とジャックスは言った。扉の横のパネルを開ける。中に、緊急解錠用のレバーがあった。「引けば開く構造だが——固着してる可能性がある」

「力仕事なら俺じゃん」とブレイクは言って、レバーに両手をかけた。

 引いた。動かなかった。もう一度、体重をかけて引いた。少し動いた。

「角度を変えろ」とジャックスは言った。「真下じゃなく、斜め手前に引く。固着してる場合、軸がずれてることが多い」

「言い方が説明書みたいだな」とブレイクは言いながら、角度を変えた。

 ぎ、と音がした。続けて、ごん、と大きな音がしてレバーが動いた。扉がゆっくりと開き始めた。

「開いた」

「ルミナの七十八パーセント、当たったよー!」

「俺たちが開けた」とジャックスは言った。

「もう、細かいなあ」


 外に出た瞬間、基地の中央区画が崩れる音がした。大きな音ではなかった。くぐもった、重い音だった。二人は振り返らずに基地から離れた。ルミナのいる船まで戻ったとき、ルミナが搭乗口を開けて待っていた。

「ふたりとも無事だね!よかった、よかったー!」

「お前の情報のせいで行った」とジャックスは言った。

「でも帰ってきた!」

「ルミナの情報があったから帰れた、とも言える」とブレイクは言いながら搭乗口をくぐった。「東通路の扉、知らなかったら詰んでた」

 ジャックスは何も言わなかった。

「鉱石は?」とルミナが聞いた。

 ブレイクはポケットから小さな石を取り出した。親指の爪ほどの大きさの、青みがかった石だった。「一個だけ拾えた。崩れる前に」

「ちっちゃ!」

「ないよりまし」

「いくらになるの?」

「さあ。でも記念にはなる」

 ルミナが「えへへ」と言った。ジャックスは操縦席に座った。端末を開いて、次の航路を確認し始めた。

「ジャックス」とブレイクが言った。

「なんだ」

「お前が角度のこと言ってくれなかったら、扉開かなかったと思う」

 ジャックスは端末から目を上げなかった。

「お前が引かなければ開かなかった」と言った。それだけだった。

 ブレイクは少し笑って、通路の奥に引っ込んだ。ルミナが「なんかいい感じ!」と言った。ジャックスは「うるさい」と言った。


船は、次の星へ向かった。


—続く—


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