魔王vs姫騎士
「そちらから掛かってきていいよ」
「では…遠慮なく」
「では…始めっ!」
私と魔王の成り行きを見守っていたルーヴルナのメンバーは、この対決をワクワクしながら見守ることにしたらしい。
審判役をクラウドさんが買って出てくれた。
「まずはっ…」
ダッシュで魔王に向かう。
対魔剣タナトスをぶっ放すと次の目的地の街に迷惑をかけるので、普通に抜いて普通の武器として使うことにした。
魔王も同じく普通に【対魔剣タナトス】を抜いた。
対魔剣タナトスの魔法を使う気配はない。
「せいっ!」
蹴りを入れようとしたが軽々と躱されて、逆に背後に回られて背中に強烈な蹴りを入れられる。
「あぐぁっ!」
「うーん。その辺の有象無象と比べれば強いけど、まだまだだね」
「ぐっ…そ、そうですか」
「うん。せっかくスペックは高いのに戦闘センスが皆無。ほら、今も会話に集中力を割いてる暇はないんじゃない?」
なんとか体勢を立て直して向き合えば、次はお腹に蹴りを入れられそうになり素早く地面を蹴ってなんとか後退して躱す。
すると今度は【対魔剣タナトス】が私を貫くようにこちらに突き出される。
慌ててこちらの対魔剣タナトスで受け止めるが、今度は足払いをされて体勢を崩された。
「しまった…っ」
「はい、王手」
完全に地に伏せた私の首元に【対魔剣タナトス】が突き出される。
「勝負あり!騎士殿の勝ちだ!」
「あのタナトスちゃんがあんなにあっさり…!?」
「騎士の方のタナトス、すごい」
………悔しい。
同じタナトスのロールプレイなのに。
圧倒的な、差があった。
「タナトス、君は僕の妹分だ。だからこそ助言しよう。これからは圧倒的なスペックに甘えず、戦闘センスも磨いた方がいい」
「……勉強になります、ありがとうございました」
「いや、突然きて突然こんなことをしてすまなかったね」
「いえ。そう言えば、タナトスさんのことはなんと呼べばよろしいですか?」
「気軽にタナトスお兄ちゃん、とでも呼んでおくれ。敬語もいらないよ」
タナトスお兄ちゃん、かぁ…相手が魔王とはいえ、前世天涯孤独だった私には甘美な響きだ。
「た、タナトス…お兄ちゃん」
「うん、どうしたのタナトス」
「呼んでみただけ…」
「うんうん、僕の妹は可愛いね」
優しく微笑まれて、なんとなく悔しくてぷいっとそっぽを向く。
しかし【タナトスお兄ちゃん】は気にする様子もない。
「じゃあ、僕はこれで。また、機会があれば甘やかしにくるよ」
「うぅ…」
「またね、タナトス」
「また、ね…タナトス、お兄ちゃん…」
転移魔法で目の前から消えたタナトスお兄ちゃんにリリーさんとメルセデスさんはすごい魔法だとはしゃぎ、クラウドさんはなんだか心配そうに私を見守るけれど。
「お兄ちゃん、かぁ…」
甘美な響きだ、本当に。
あ、そういえば天の声さん的に私がタナトスお兄ちゃんと仲良くなるのはアリなの?ナシなの?
『アリですよ。お好きにしてください』
そっかぁ。
なんで?
『あの魔王はなんだかんだ人間側にも甘いはずですから。しかも【怠惰】、あの魔王が魔王である限り魔界は危険視致しません』
へぇ。
ならまた会えたら甘えようかな。




