【魔王視点】可愛い妹分が見つかった
「…以上が報告となります」
「ご苦労様」
「……本当に、手を打たなくてよろしいのですか?あのタナトスと称するドッペルゲンガー・クイーンは人間側につきました」
「そうだね。でもそもそも、僕に被せられた役割は【怠惰】だからね」
「それは………」
生真面目な部下だ。
だが、そこが可愛い。
「良い子だね、リーシャ」
「魔王陛下、私は」
「だが魔王の決定は絶対だ」
リーシャ…淫魔の娘が口を噤む。
僕の秘書でもある彼女は、とても優秀だ。
淫魔として生まれたのが勿体ないくらいに。
だが、この子が淫魔なのは僕にとっては都合がいい。
何故ならこんなに優秀なのに、種族しか頭にない馬鹿な次期魔王候補たちにヘッドハンティングされないからね。
「そもそも、僕だって役割を被せられる前は割と人間側に友好的だったの覚えてない?」
「…仰る通りです」
「役割さえ与えられれば、自然と彼女もそれに染まるさ。同じドッペルゲンガー………ドッペルゲンガー・キングである僕が言うんだ、間違いない」
「では、魔王陛下直々に彼女に役割を被せるので?」
「…リーシャは鋭いなぁ」
リーシャは僕にその気がない、ただ同族を庇っているだけだと気づいている。
だが、リーシャは僕の【部下】だ。
僕の決定には従うつもりのようだけど…さて。
「そもそも僕たちドッペルゲンガーは、特殊な魔族だ」
「……仰る通りです。種族としては我々淫魔にも劣るほど弱い」
「その分役を羽織れば、羽織った役に応じて強くもなるけどね。僕みたいに」
この姿になって三百年。
四千年前に伝説の魔王を倒した勇者の姿を羽織った僕は、まさに最強となった。
その後にそのまま【怠惰】の役割を被せられたけどね。
それからは未だ次期魔王候補たちに敗れたことはない。
世代交代は、まだまだ先になりそうだ。
「タナトス」という少女が次期魔王候補に名乗りをあげればわからないけれど。
「だからね、種族としては個体も少ない。「タナトス」は、僕にとって妹のようなものだ」
「…個体の少ない種族ならではの認識ですね」
「だろうね。だが、それだけ可愛い存在なんだよ」
山やら森やらなんて、この魔界では放っておけば数日で息を吹き返す。
魔素が多いから、自然の回復力は人間界とは桁違いだ。
だからタナトスが起こした魔界の大騒動も、数日で落ち着いた。
今回のことは、不問にする。
これは僕の…魔王の、決定だ。
「だから…他の次期魔王候補たちにも、余計なことをする暇があれば世代交代出来るようかかっておいでと伝えておいて」
「…かしこまりました。しかし」
「ん?」
リーシャがこんなに食い下がるのは珍しいな。
どうしたんだろう。
「嫉妬、してしまいます」
「………ん?君が?」
「はい」
「…タナトスに、かな?」
「はい、魔王陛下にそこまで気に入られる彼女が憎い…とまでは申し上げませんが。嫉妬という感情を向けているのは間違いないかと」
おやおや、どうしてこんなに僕の愛おしい子は可愛いんだろうか?
「特別枠の妹分が出来たのは君には申し訳ないのだけど、君も僕の中で十分特別枠なんだけどな」
「魔王陛下…!!!」
顔を真っ赤にして、淫魔特有の愛らしい尻尾をゆらゆら揺らす愛おしい子を抱き寄せる。
「僕には君が必要だ」
「はい!」
「これからも頼むよ」
「お任せください!では早速次期魔王候補の皆様に先程の魔王陛下のお言葉を伝えて参ります!」
るんるんで部屋から下がり仕事に戻る彼女を見送って、笑った。
「可愛いなぁ、本当に」
さて、僕は僕で「準備」しないとね。
「ドッペルゲンガー、発動」
タナトス。
君が【タナトス】という役を羽織るなら。
【同じ役】を羽織った者が現れたら、君はどうするのかな。




