6 テイマーとお買い物
本日2度目の投稿です。読み飛ばしにご注意ください。
ギルドから出てとある商店を目指しトボトボと歩いているシュウの頭の中では今、たった1つのことが延々とリフレインしていた。
――体何がいけなかったのか。
いきなり手を握ったのが良くなかったのか、それとも急な話でびっくりしたのか、いやそれでも話くらい聞いてくれてもいいだろう、もしかしたら生理的に受け付けなかったのか、それならもう詰んでるな等、先ほどの盛大な玉砕に関しての反省が浮かんでは消えていく無間地獄に陥っていた。
実際性急に過ぎたなとはシュウも気づいてはいた。ギルドを通して正式な加入の誘いを出すことが正解なのはマナー的にも事実だったのだ。しかし直前に少女自身が「ギルドに頼らない」と発言していたため慌てて勧誘をしてしまったという側面もあった。
(まぁ、終わったことでいつまでも落ち込んでても仕方ないか……運よくまた会えたら誘ってみたいけど、ソーサラーなんてすぐにどっかのパーティに入っちゃいそうだし、はぁ……)
ちなみにシュウは少女がソーサラーだという事実にばかり気を取られていたため、チネットのソーサラー外れ発言や何故少女がパーティを組めなかったかの理由については一切眼中になかった、一応耳には入っていたが気にするほどの余裕があの時も、そして今もない状態である。
悲しみに包まれながらも足は目的地にもくもくと近づいていた、初めて行く店だが、何度も行ったことがあるため足取りには一切の迷いがなかった。
シュウが目指していたのはブルンネンにある、とある『装飾品』を扱っている商店である。
装飾品は武器や防具と同様1つまで装備できるが、それらとは違いレベル制限がないため強力な装飾品を序盤から持っていればかなりのアドバンテージとなる。
最もそうそう簡単にレアリティの高い装飾品は手に入らないわけだが、現在向かっている『シムーン商店』には再序盤テイマーの必需品となる装飾品が販売されている。値段も安価で誰にでも手に入る為、攻略サイトの初心者チップスにも良く記載されていた。
10分ほど歩くと目的の店に着いた。寸分違わずゲームと同じ場所に建っており、オレンジと黄色いレンガで作られた外観もほぼ変わっておらずシュウは安堵した。ここに来てようやく心が落ち着いてきたようだ。
ドアを開けるとカランカランと呼び鈴が鳴った、外から見ると大きく感じたが、棚という棚にポーションやら装飾品のサンプルやらがびっしりと飾られていたためにかなり狭苦しく感じられた。
内装も外観同様ほとんど変わっていないようだ、この様子ならお目当てにありつけるであろう、そう考えていると店の奥から店員と思しき中年の女性が現れた。
「いらっしゃいませ!初めてのお客様ですね?ゆっくりご覧になってください。もし何かお探しの様ならお声掛けくださいね」
その言葉を聞いてシュウは懐かしい気分を覚えた、何せゲームで初めて入った時の台詞とそっくりそのまま同じなのだ。最も店員の方に見覚えはなかったが。
「ではすいませんが、『犠牲のペンダント』は置いてありますか?」
「はい、それでしたらいくらか在庫を置いてあったと思います……500ガルドになりますがよろしいでしょうか?」
「大丈夫です! ではそれを50個お願いします」
「承知しました、50個ですね……50個!? し、少々お待ちください!」
そう言うと店員は慌ただしく店奥に戻っていった。恐らく在庫の確認に向かったのだろう。シュウ的には別に当たり前のことなのに何を驚いているのかと感じていた。
『犠牲のペンダント』は装備者のHPが最大値の状態から一気に0になる攻撃を受けた際にそのダメージを肩代わりしてくれるというものである。効果の発動後に壊れてしまうため実質1度しか発動せず、少しでもHPが削られていると効果が現れないため比較的使いづらい装飾品である。しかし一部のジョブ、具体的に言えば耐久面にかなりの問題があるテイマーにとってはなくてはならない存在であった。
テイマーは装備できる防具類が貧弱で防御力にかなりの難がある。そのためあえて自身の総耐久を低めにしておくことで犠牲のペンダントを発動させやすくするのが序盤のセオリーであるとされていた。
とはいえ1発で壊れてしまうのならば使いづらいことには変わりないのではないか、と考えられがちであるが、それは裏技とも呼べる手段でカバーが可能である。
それが今まさに行っている『大人買い』である。犠牲のペンダントが破壊された直後に別の犠牲のペンダントを装備することで所持数分の攻撃を耐え続けることが出来る。特にブルンネン周辺には『連続攻撃』のスキルを持つモンスターは一部のユニークモンスターを除いて生息していないため、タイマンであれば理論上負けることはなくなるのである。まさにシステムの隙を突いた戦術であるが、序盤でしか通用しない戦法なためか、特に問題視されることはなかった。
もちろんこの世界でそんな気の狂った戦い方をするテイマーは存在しないため店員は酷く困惑することになった。何せ普段は碌に売れない装飾品が捌けてラッキーくらいに思っていたらこれである。そもそも同じ装飾品を複数買うこと自体が異常なのだ。
それから数分後、ありったけの在庫を抱えて店員が戻ってきたが、その顔には申し訳なさがにじみ出ていた。
「あのぉお客様、申し訳ありませんが犠牲のペンダントは全部で40個しか用意できませんでした……再入荷の目途も立っておりませんので、こちらでご容赦頂けませんでしょうか?」
「ああ~それは考えてなかった……わかりました、じゃあそれ全ていただきます。あと『キャンプセット』と『松明』、それと『スモールポーション』があればそれもお願いします」
「承知しました、ではそちらも……ちなみに幾つ用意すればよろしいでしょうか?」
「あ、ポーションは10個、残りはどっちも1つで大丈夫です」
軽く会釈をすると店員はまたも奥に消えていった。
ちなみにキャンプセットは魔物のポップしない場所で使用でき、魔よけの効果を持ち簡易的な休憩所を設営できるアイテム。松明は棒の先に発光する魔石が括りつけられており、装備することでどのような暗闇も照らしてくれるアイテムである。どちらも一度購入すれば半永久的に使用できるため、こちらは冒険者共通の必需品と言えた。
その後店員が返ってきたので会計を済ませてしまう。全部で35,000ガルド。ブルンネンの宿に泊まる際2食付きで1日3,000ガルドであることを考えると決して安い額ではないが、必要経費として割り切る。むしろ本来であれば犠牲のペンダントを購入数の倍近く欲していたシュウからすれば大分残金が残る結果となったため、懐はまだ温かいとすら感じていた。
ちなみにシュウの所持金は村に居た頃に何年も貯め続けた『お小遣い』と旅立つ際に両親に貰った『餞別』を足したものである。これに加えてブルンネンまでの馬車の代金も出してもらったため、別れ際に相当な感謝を告げてきた。故にいつか、なるべく早く両親に恩返しをしなければならないとシュウの胸に刻まれている。
品物を全てポーチに収納し、店員に「また近いうちに犠牲のペンダントを買いに来るから入荷しておいてほしい」と告げ、店員を苦笑いさせるとシュウは店を後にした、外に出ると街並みはオレンジ色に染まり始めていた。
必要なものは全て揃い、1日でも早くレベルを上げたいところだが、今日のところはどこかの宿で一晩を過ごし、明日は早くに出発して依頼されているヒーリ草をこれでもかと集めねばならない。
そうして自分に気合を入れると、シュウは本日の宿を求めて歩き出した――
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