↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/16

3 テイマーとバランスブレイカー

 時は1日遡り、シュウはブルンネンに向かう馬車の中でテイマーについての情報をまとめていた。

 

 実際のところ【レッドダイアモンド】においてもテイマーは当初、完全な産廃扱いを受けていた。というのも自身のレベル以下のモンスターしか仲間に出来ないという制約がそのファクターの多くを占めていた。

 

 例えば、初心者が最初に潜ることになるダンジョンであるブルンネンから南西に行ったところにある『廃坑』では、大抵の場合プレイヤーは20レベル程度で攻略を開始することになるが、そこに生息しているモンスターの最低レベルは30である。

 攻略完了時に25程度まで育っていれば充分であることを考えるとその歪さに気が付くだろうか、つまり攻略時点でテイマーが仲間に出来るモンスターが実質存在しないのである。

 もちろんダンジョンの外でレベルの低いモンスターを予め仲間にしておくこともできるが、モンスターのレベルアップに必要な経験値はプレイヤーに比べて非常に多く、一部レベルが低くても役に立つモンスターを除き、どうやりくりしても力不足になってしまうのだ。

 

 ならばとモンスターの力を借りず、自身の力のみで戦えば良いと思われるかもしれないが、ほぼすべてのスキルがモンスターを強化、回復するものしか存在せず、更に装備できる武器も攻撃力が貧弱であり、追い打ちをかけるようにSTR(近接攻撃のダメージに関係するステータス)やAGI(攻撃の命中や回避に関係するステータス)等を筆頭にあらゆるステータスが剣士や武闘家といった攻撃系前衛職に比べて低めに設定されているともあり、産廃評価も頷けるものであった。

 結果的にテイマーはガチ攻略では不必要な存在であるとされ、マイナージョブとしてモンスター愛好家に使われる程度の存在に成り下がっていた。

 

 そんな評価が一変したのが【レッドダイアモンド】のサービス開始から3年もの歳月が流れたある日、非公式BBSにこのような書き込みがされてからのことである。

 

 

 

 「なんかテイマーのSTRだけ上げてたら通常攻撃でめちゃくちゃダメージ出るようになったんだけど、バグ?」

 

 

 

 最初は荒らしの類であろうと誰も気にかけていなかったが、それからもたびたび同様の書き込みが行われるようになった。これを受けて一部のプレイヤー達が検証を開始したところ衝撃の事実が判明したのである。

 

 なんとテイマーのみSTRを上げた時のダメージ量の上昇が指数関数的に伸びていくことが分かったのである。

 具体例を挙げるなら、50レベルでSTR特化の剣士が『病気のゴブリン』(HP30程度)を素手で攻撃したときのダメージは500程度の値に収まる。対して同条件でテイマーが攻撃した場合、ダメージはなんと53000程度になるのだ。仮に剣士が完璧な装備を着け、スキルを使用しても2000が限界であることを考えれば明らかなインフレであった。

 

 何故このような設定になっているかは公式からは明らかにされなかったが、この異常なダメージはテイマーのレベルがある程度上がったところで解放されるようになるため、長期に渡って誰一人気づくことがなかったのである。

 

 この結果を受けて【レッドダイアモンド】内のテイマーの価値が急上昇、一部のプレイヤーはメインキャラを捨て、こぞってテイマーを育て始めたのである。【レッドダイアモンド】はロールプレイを重んじていることや、登録時に生体認証を行うため原則サブキャラを作成することが出来ない為であるが、前世ではシーフでプレイしていたシュウも役割の違うテイマーのキャラで作り直すか真剣に悩んだほどであった。

 

 もちろんほとんどのプレイヤーはバグか、あるいは設定ミスであろうと歯牙にも掛けていなかったが、こともあろうに公式Q&Aにて「仕様である」と明言されてしまったのである。

 

 このQ&Aが掲載された日が俗に「【レッドダイアモンド】がレベルを上げて物理で殴るゲーム」になった日であるとされ、引退者が続出、匿名掲示板でも炎上の嵐となった。しかし既に人気も下火になりつつあった【レッドダイアモンド】公式は一切の対処をせず、沈黙を続けることになった。

 

 秀もこの件では失望を覚えたが、仕様であるなら仕方ないと割り切ることにした、既に他のゲームに移行するには時間もなかったし、何より【レッドダイアモンド】を愛していたからでもあった。

 

 結果的に半年もしたころにはタンクを除き前衛はテイマー一色となった、比較的PvP要素が薄かったからこそ許された形となったが、テイマーが棒切れでドラゴンをぐちゃぐちゃに粉砕する様は正に地獄絵図であった。ロールプレイを重んじるとはなんだったのか。

 

 

 そういった理由でテイマーが【レッドダイアモンド】随一の壊れジョブと認定されたわけであるが、欠点がないわけではなかった。

 

 まず異常ダメージを出すまでの敷居が高いという事、有志の検証では剣士の攻撃力を上回るのに必要なレベルは最低25であるとされる。これはプレイ時間で言えば最低でも100時間程度必要となる計算になる、それこそ何千何万時間とプレイする廃プレイヤーにとっては大したことではないかもしれないが、ライトユーザーにとっては100時間もの間最弱キャラで稼ぎの悪い狩場を周回し、ひたすらレベル上げを行うことは相当な苦痛であった。

 

 次に魔法攻撃が一切ないという事、中盤以降は物理完全無効のモンスターも多く、パーティを組んでいない場合所謂「詰み」になる状況も少なくない・・・・・・少なくなかったのだが、これは有志の検証によりとある装備を装着することで完全に解決することになった。しかもその装備がギルドから支給される「初期装備」であることも後押ししていた。

 

 最後にSTR以外のステータスを上げることが出来ないという事。攻撃全特化にする都合上防御力や命中率、回避率や魔法耐性を犠牲にしなければならない。これは装備でのボーナスを考慮しても無視することが出来ない強力なデメリットである……だったのだが、案の定検証が進むに連れその欠点も徐々に解消されていくことになった。こうして完全無欠の化け物が誕生したわけである。

 

 

 そんな最強のジョブを得たというのに、シュウの胸中には不穏な空気が漂っていた。

 

(う~んなんでだ、村の皆もそうだったけど、どうしてテイマーって伝えると微妙な表情をされるんだ……)

 

 そう、馬車を護衛している2人組の冒険者と世間話をするようになったが、自身がテイマーだと告げると苦笑いを浮かべながら、1人には冗談だろうとからかわれ、もう1人に至っては今すぐ田舎に帰れとまで言われてしまった、ウィザードと武闘家の外れパーティにそこまで言われるとは思いもしなかったが、シュウはそこで一つの可能性に辿り着く。

 

(もしかして、あまりにもテイマーが壊れだから、世間の当たりが強いのでは……)

 

 そう考えれば今まで周囲の反応が悪かったことにも納得が行く。シュウは前世でシーフをプレイしていたため感覚が鈍っていたが、もし自分が剣士で、ある日突然テイマーに前衛の花形を奪われたらと考えたら心中穏やかではいられなかったかもしれない。

 

(そう考えるとあんまり目立たないようにした方が良いのかな……でも序盤の狩りでソロはしんどいし、そうなると勧誘活動は積極的にやらなきゃダメだし、うぐぐ)

 

 実際は杞憂なのだが本人は至って真面目に今後について考えていた。しかしあながち全て間違った考えというわけでもなかった。

 

 【レッドダイアモンド】はソロお断りと呼ばれるくらいにはパーティの役割分担が大事なゲームである。前衛、中衛、後衛に分かれることはもちろん、その中でも敵を引き付けるタンク、攻撃役と回復役、戦況を常に把握する司令塔など細部に分類されていく。テイマーはその中でも前衛攻撃職に分類されるわけであるが、レベルの低い序盤は何の役割を持つことが出来ない為、言い方は悪いがどこかのパーティに「寄生」してレベルを上げることがセオリーであるとされている。

 

 あるいは、弱いと呼ばれる仲間モンスターのなかでも比較的マシなモンスターを仲間にしてからソロでレベル上げになるわけだが、そのモンスターを仲間にするにはパーティを組まなければ難しいため、結局誰かしらとパーティを組む必要があるわけである。

 

(まぁ今考えても仕方ないか、とにかく最初はギルドで装備をもらって、それから考えよう)

 

 ゲームではギルドの役割はモンスター討伐やアイテム採取の任務の受託、ドロップアイテムの買取、そしてパーティの勧誘や斡旋を行っていたが、それはこの世界でも変わりないことは父からの情報でわかってたため、シュウは深く考えず、いざとなればギルドの伝手でどこかのパーティに入れてもらえば良いと結論付けた。

 

 ブルンネンまであと1日、それまでは初めての遠出を楽しむ時間にすると決め、ゆっくりと流れゆく景色に身を任せた。

 

 

 

 

 

 

 そうして長旅も終わり、ブルンネンの冒険者ギルドに辿り着いて早々、シュウは自分の見通しの甘さを痛感することになったわけである。

投稿して間もないのに沢山の方に読んでいただけてるようでとても嬉しいです。


面白かった、続きが気になるという方、よろしければブックマークや評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。