2 テイマーと親子
「なあシュウよ、本当に一人で行くのか? 考え直さないか? なんなら次の世代が託宣を受ける日まで待っても良いんじゃないか?」
「父さんこれで昨日から10回目だよ、いい加減諦めてよ……それにテイマーになれたんだから何も心配いらないって!」
「だから考え直せと言ってるんだが……」
昨日の託宣の儀が終了してから事あるごとに父子の応酬が鳴りやまなかった、内容は当然冒険者になるかならないかというものである。
「もう、父さんがそんなに乗り気じゃないことは分かってたけど、昨日まではそこまで反対してなかったじゃん、何が不満なのさ」
「ああそうとも! お前がテイマーにさえならなければ快く送り出していただろうよ!」
「そんなこと言われても女神さまの決めたことなんだから仕方ないでしょ」
「それはつまり女神様がお前に冒険者を辞めろって言ってることに何故気づかないんだ!」
「ええ!? こんなにやりがいのあるジョブを賜ったのに!? 正気!?」
「それはこっちのセリフだよシュウ……」
シュウは困惑していた。かの最強ジョブに成れたというのに、両親だけでなく村の皆もこぞって冒険者を諦めるよう進言してきたのだ。比較的可愛がられていた自覚はあるが、それにしたって過保護というものだろう。それともテイマーが強すぎて冒険がつまらなくなってしまうことを危惧しているのだろうか。
(テイマーは外れ中の外れ、それをシュウだってわかっているはずだ、元気に見せているが内心では相当に落ち込んでいるに違いない)
実際は1ミリもわかっていないのだがそんなことは露知らず、親子の言い合いはヒートアップしていく、そして遂に喧嘩の域にまで突入しようかというそのとき、第三者から一石が投じられた。
「行かせてあげましょう、あなた」
「クララ!? しかしだな……」
「私も本当ならずっと此処にいてほしい、でも昨日の託宣の時、この小さくて何もない村で、この子を縛り続けることが私たちの願いではないと、気づいた筈でしょう」
「……」
「辛くなったら帰ってくればいいわ、それまで自分のできる範囲で、夢を追い続けなさい」
それを聞いて、ピーターも覚悟を決めたように何も言わなくなった。同時にシュウも両親に愛されていることを再確認した、思えば2人とも冒険者になることを反対しつつも、直接口に出して咎めることは今日この日まで一度たりともなかったのである。
そして二人がただただシュウの身を案じているだけであるということにも、気づいていた。
「……わかったよ母さん、でも安心して! 次に会うまでにはここまで名が轟くくらいの冒険者なってから帰ってくるからさ!」
「っ! ――ふふ、やっぱりちょっとズレてるそういうところが、心配なのよ?」
「あっ」
クララがシュウを優しく抱きしめる。泣いているところを見せないようにか、あるいは今生の別れを覚悟してか、きっとその両方であろう。
「……母さん、流石に成人してる身としては恥ずかしいんだけど」
この世界で14歳を迎えると成人扱いである。一応は大人の仲間入りをしたと自負しているシュウの照れ隠しであった。だが、このままだと自分も泣いてしまいそうだという危惧もあった。
それからしばらくして、長いようで短い抱擁で満足したのだろう、クララがそっと手を放す。
「さぁ、そろそろ出発の時間でしょう? 忘れ物の無いようにね」
「――はい! 行ってきます、母さん! 父さん!」
「行ってしまったな」
「えぇ、なんだかまだ実感が湧かないわ」
シュウの乗った馬車が見えなくなると同時に、どちらからともなく沈黙を破った。
「あれだけ反対しておいてなんだが、あいつは何かしでかすんじゃないか、そんな期待もしてしまうんだ」
「あら、私も。昔から変わった子でしたから、そういう風に感じてしまうのかしらね」
「そうかもしれんな……さて私たちも帰ろうか。今日くらいは2人でゆっくり過ごしても良いだろう」
たまには良い酒を開けたいだとか、それはシュウが返ってきたときになどとやり取りをしながら帰路に就く、そこにはもう寂しさの色は滲んでいなかった。
それから5日後、ブルンネンの冒険者ギルドで叫び声を上げる者が1人。
「え!? テイマーってパーティ組んでもらえないんですか!?」
新米テイマーの前途は、どうやら多難のようであった――
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