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1 テイマーと秘密

 シュウには前世の記憶がある。正確にはこの世界とは違う世界、地球という星の小さな島国で十四歳の短い生を終えた柿崎秀としての記憶が。

 そのことには物心がつく頃には理解していたが、一生のほとんどを病院のベッドの上で過ごした人間の記憶などあってないようなものであり、精々ちょっとした遊びでズルをしたり、ネットで知った浅い農業の知識で偶然飢饉を防ぐことが出来たくらいであった。(と、本人は大したことではないと思っていた)

 

 それ以外では小さな村の中では記憶を有効利用する場面などもなく、前世で喉から手が出るほど欲しかった健康な肉体を手に入れて半ば満足したこともあって、外の世界に強い関心を得ることもなく、シュウはポッカ村でほかの人と同じように一生を過ごすことになるだろうと考えていた。

 

 その考えが激変したのが、シュウが10歳のとき、村にモンスターが出現した日のことである。

 

 本来モンスターは町や村に貼られた結界内には入ってこられないとされているが、希に結界の力が弱まりモンスターがポップすることがあるとされていた。この時点では。

 

 

 

「クララ! シュウと一緒に家に隠れていろ!相当弱いモンスターだが、万が一のことがあっては困る!」

「わかったわ! シュウ、早くこっちへ!」

「え~なんで、モンスター見てみたい~!」

「なんでこういう時だけ積極的なのあなたは! 我儘言わないで言うことを聞きなさい!」

「一目! 一目だけでいいから!」

 

 首根っこを掴まれながらも抵抗するシュウだったが、無情にもピーターに扉を閉められてしまう。

 しかし閉まる直前、遠くにちらり見えたモンスターの姿を確認したシュウの身体に電流が走る。突然抵抗を止めたシュウに違和感を覚えながらも、これ幸いとクララは家の最奥まで引き吊り込んだ。

 

(え……どうして、ここに『病気のゴブリン』がいるの?)

 

 『病気のゴブリン』は前世において、入院中に言葉通り死ぬまで遊んだ、ダイブ型VRMMORPG【レッドダイアモンド】の再序盤に登場するモンスターである。初心者がほぼ確実に最初に相手にする敵キャラであり、大抵1発殴ると死ぬ。雑魚である。

 【レッドダイアモンド】においてゴブリン種は多数存在するが、その中でも『病気のゴブリン』は爛れた顔と腐ったような青い皮膚が特徴的で見間違える筈がなかった。故にシュウは非常に混乱することになるが、すぐに1つの結論を導き出した。

 

 ――つまり、この世界は【レッドダイアモンド】の世界であると。

 

 それからの行動は早かった、父にモンスターの種類やその特徴、この国の地理、そして冒険者の存在(あえて両親は伏せていた)を聞き、増々確証を得ていくことになる。特にここポッカ村が始まりの町『ブルンネン』に近い立地であることにシュウは歓喜した。

 

 さて、ゲームにおいての【レッドダイアモンド】は聖歴100年にドルツシア帝国の冒険者となり、女神ラフィーアが作り出した、手にすればどんな願いも叶えるという幻の秘宝『レッドダイアモンド』を求めて広大なフィールド中に存在する様々なダンジョンを攻略するというストーリーだが、ピーターは『レッドダイアモンド』の存在を知らない様であった。その他にも複数の相違点が散見されたが、ここでは割愛。

 

 しかし、この世界にも聞きなじみのあるダンジョンがいくつもあることが判明し、モンスターの中にも聞き覚えのあるモンスターが多数、いやむしろすべてに聞き覚えがあるモンスターの存在もその確信を強める結果となった。

 この世界がゲームの世界なのか、あるいはゲームを基にした世界なのかまではわからないが、少なくとも【レッドダイアモンド】の影響を強く受けていることに疑いの余地はなかった。

 

(これは神様、いやゲーム的には女神様?が与えてくれたチャンスなのでは)

 

 そうしてこの世界を調べていく内に、シュウは前世においてやり残したことを思い出していった。

 

(最も美しいオーロラが見れるっていうヒマーラ氷山は結局攻略できなかったし、グルード城の隠し宝箱も見つけられなかった、それに『レッドダイアモンド』についての情報も欠片も手に入れられなかった・・・・・・)

 

 その他にも行きたくても行けなかった場所、倒せなかったモンスターの数は両手の指で収まらないほどだ、前世では廃プレイヤーであったシュウにとって、時間的及び肉体的制約で叶うことはなかったそれらが、急激に未練となって襲い掛かってきた。

 

 しかし、この世界で健康な肉体を得た今なら、できるかもしれない。

 

(よし! なろう冒険者!!)

 

 そうと決めてからシュウの冒険者狂いが始まった、両親や流れの商人から冒険者になる為には14歳にならねばならないと聞き、4年間冒険に夢を馳せた、ちなみにこの頃からシュウの気が触れたと村の間で話題になり始めたことを本人だけが知らなかった。

 

 それから4年間、日常生活を送りながらも親の顔より見た攻略サイトの内容を忘れないようにインプットする作業が始まった、流石に細部まで詳細に思い出すことは出来なかったが、それでも必要最低限の情報は死ぬまで忘れないくらいの自信が付いた。

 その中でも特にジョブについては慎重になった。

 ゲームではジョブは人種や性別と同様、好きなものを1つ選んで開始であったが、この世界ではランダムで3つの選択肢を与えられ、その中から1つ選ぶという鬼畜仕様であることが判明したからだ。8割のジョブに所謂人権がないとされる【レッドダイアモンド】においてこの仕様はあんまりなのではないかとシュウは絶望していた。

 

 嘆いても始まらないと自分を鼓舞してどのジョブを引いても良いように育成計画を詰めていったが、それでもウィザード、パニッシャー、ネクロマンサーの三大クソジョブを引いたらどうしようもないという結論に辿り着いた。

 ウィザードは最初期から高威力の魔法を連発できるMPを所持しているため、序盤はかなりの活躍を見込めるが、どれだけ育てても対単体の攻撃魔法しか使えないという一点だけで中盤からは役立たずになる。パニッシャー及びネクロマンサーは序盤に多く出現するアンデッド系モンスターに特効があるためこれまた最初は活躍できるが、中盤以降多く登場するデーモンやドラゴンに手も足も出ないスキル構成で産廃扱いされている。

 

 反対に所謂人権とされるジョブは攻撃魔法をメインに据えつつ、多彩な補助魔法も獲得できるソーサラー。ダンジョンで鍵付きの扉や宝箱を開錠できるハンター及びシーフ。ハイレベルなタンクと回復役を兼任できるパラディン等だ。

 

 そして一番の当たりは【レッドダイアモンド】プレイヤー満場一致のバランスブレイカー、テイマーである。

 

(テイマーは当然としてもハンターかシーフが選択肢に上がれば僥倖だなぁ、とはいえ引けない可能性の方が高いんだから、あまり高望みはしない方がいいよね)

 

 まさか4年後にその大当たりを引くことになることを、この時のシュウはまだ知らない。

 

 

 先日のモンスター出現騒動で壊れた牧場の柵を直しながら、シュウは4年後のジョブガチャに想いを馳せるのであった――

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