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冒険がしたくって  作者: trustsounds
第二章
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逃走計画(1)

 人攫いアジトへの潜入から遡ること数時間前――――。

 ショーン少年に暴力を振るった男を追跡し、袋小路まで追いつめたものの姿を見失い解散となった日の夜。冒険者達は兵士と別れて『始まりの宿』へ帰ってきていた。

 室内は『和風』そのもの。フローリングの代わりの畳から香るい草の匂いがダイレクトに伝わり眠る者にリラックス効果を与えてくれる。他にも床の間に飾られた掛け軸や模造刀など、異風感の刺激が宿泊客に提供されていた。机や椅子は片付けられ、ベッドの代わりに床に敷かれた布団が並べられている。もう眠る準備は万端。しかし一日の間に色んな事が起きてしまい眼が冴えてしまって眠れず暇を持て余してた。


「クロエ、お手」

「キュン」


 セノディアも眠気が薄く、鞄から室内に解き放った《屍飛竜(コープスワイバーン)》と戯れていた。クロエは元から人間の言葉を理解していた節があり、《テイマー》の見よう見まねで一芸を仕込んみながら時間を潰している。そんな微笑ましい光景に水を差す来訪者がいた。


「ほぉ、随分と手なずけておるようじゃの」


 靴を脱ぎ捨てて部屋に入ってきたのはリリーだった。クロエがセノディアから離れ、彼女の元へとトテトテと駆け寄っていく。足に顔を愛おしそうに擦り付けて精一杯の愛情表現をした。リリーは笑いながらクロエを抱き上げた。


「っと来たか。急に呼び出して悪いな」


 軽く片手を挙げて布団の上に座るよう促しながら、自分も布団の上で胡座を組んだ。冒険者達はモリノティス王に甘えて贅沢にも二人一部屋のツインルームを二つ取っており、セノディアはアトリアと一緒に泊まっている部屋だ。リリーはモミジと別の部屋で寝泊まりしている。しかしセノディアはリリーに「二人きりで話し合いがしたい」と、アトリアが風呂に入っていないタイミングで彼女を呼び出していた。


「それで話なんだが――――」

「ククッ……皆まで言わずともよい。枯れてるように見えても、何だかんだ言いつつお主もまだまだ童じゃからな……。――――今日はお兄ちゃんだけに特別だよ! 私が同衾してあげる!」


 呼び出されたことに対して何をどのように解釈したのか、リリーはクロエを抱きかかえたまま魔王キャラから妹キャラに猫を被り直し、いそいそとセノディアが使っている布団に潜り込んで、モグラ叩きのように頭だけ出してセノディアを誘った。抱きかかえられたクロエは「離せ」とでも言いたげに、リリーの銀髪を頭の角で梳いた。


「は……? いや、ううん……魅力的な話だけど違うんだよなぁ……。つーか別に枯れてねーっての」


 ただセノディアは「話があるから部屋に来てくれ」と呼び出しただけにすぎず、一緒に寝るつもりは毛頭無い。


「魔王様、明日のことについてちょっと真面目な相談があるんだけど」

「何じゃ同衾じゃなかったのか……」

「何でそんな飛躍した考えになるんスかね」

「お主が童貞じゃから死ぬ前に捨てたいとかそういう話かと。で、何じゃ。急に改まって相談とは」

「勝手に勘違いして唐突に童貞ディスるのやめてもらえます? ……まぁいいや、一々突っ込んでたら埒が明かないし……。じゃあ本題入らせてもらいますけど、魔王様って逃げるためのスキルとか持ってます? こう、《シーフマスタリー》の《ショートブリンク》とか《ハイジャンプ》みたいに、点から点へ線を結ぶような移動じゃなくって、点から点へ即座に移動するタイプの」

「ふーむ……あるにはあるが……条件がちときついのぅ……」


 足を使っての《高速移動》ではなく《瞬間移動》の魔法が使えるかどうかと聞かれれば、《魔王》はセノディアの使っていた枕に顔を埋めてイエスと答えた。

 しかし、ワープ系の魔法は距離を移動する魔法の中でも上級に位置する魔法で、それを実行するには幾つもの縛りがある。

 まず大前提として膨大な魔力を必要とする。そのため消費魔力の大きい《回復魔法ヒール》や《支援魔法サポート》などは事前に使えないこと。特に、リリーは500年近く封印されていたので元の魔力が全盛期とはほど遠いほど枯れ果てている。ワープしようとしたら事前に魔力の節約をするか魔力を回復できる『青ポーション』を飲むなどの工夫をしなければならない。

 また、一度行った所にしかいけないことも付け加えなければならない。彼女の使おうとしているワープ魔法は残留思念の残滓を辿る特殊な魔法のため、訪れたことのない場所にはワープできない仕様となっている。

 最後に、ワープは複数人を連れて行けるが人数に限度があること。彼女のワープ魔法は使用者の手に触れていれば、そのワープに他者が便乗できるという便利な性能があるのだが、それには使用者の魔力に依存する。全盛期ならまだしも今のリリーの魔力では、精々1~2人が限度らしい。


「――――とまぁ、こんな所かの」

「うーん……全員は無理か……。――――よーし決めた」


 セノディアはつらつらと並べられた条件を頭の中で整理し、パンと手を叩いて布団の上に仰向けに寝ころんだ。のし掛かられたリリーは「グエッ」と《魔王》らしからぬ蛙のような声を上げ、クロエは布団から這い出てきてセノディアの腹の上を陣取った。


「いざとなったらそれ使って二手に分かれて逃げよう!」



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