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冒険がしたくって  作者: trustsounds
第二章
93/139

スニーキー(4)

「……」


 リリーは「一人であの階段を下れ」と間接的に言っているのだが、セノディアは無言だった。それにアトリアが反応する。


「何言ってんのさ! どうせセノは行かないし、僕が行くよ!」

「果たしてそうかのう?」

「『明日、兵士さんに包み隠さず伝える』、それでもうこの件に関与しないつもりなんだ。そうでしょセノ!」

「……」


 話を振られるがうんともすんとも発さない。しかし悩んだ末、重たい口を開いた。


「ハァ……分かったよ。はいはい分かりました。メーラさんと『三日の間にやれるだけやる』って約束したのは俺だしな」

「ほら、セノは行かないって――――え……セノ……?」

「お前達は外で見張ってろ。俺が中に入って攫われた子供達を開放してくる。――――最も、できればの話だけどな」

「ちょ、ちょっと待ってよセノ!? セノが行くくらいなら僕が行くよ! って言うか、さっきまであんなにダメダメ言ってたじゃん! なんで助けに行こうなんて掌返すのさ!」

「主人たる妾の命令に従うのは下部として当然じゃて」

「いや俺は下部になった覚えは無いってば……。もうこのやり取りしなくていい?」

「もう、二人とも僕とモミジちゃんに何か隠してるでしょ!? 昨日まで主従なんて一言も言ってなかったしどう考えても怪しいもん! 二人の間に何があったのかちゃんと説明してよ! 僕たち仲間でしょ!?」

「お前なぁ……」


 助けるのはダメだと言われたから怒っていたのに、助けると言ったらそれはそれでキレる。隠し事をしていたらそれはそれで別問題なのに怒られる。ある種の理不尽さに頭が痛くなるセノディアだったが、事実として彼はアトリアとモミジに隠し事をしていた。そのせいで怒られることも承知していたのだが、いざ面と向かって怒鳴られると沸々と苛立ちが沸いてくるのは仕方がないだろう。


「ほれ、こっちは準備万端じゃ」


 リリーは我関せず。マイペースにモミジを宥めながら土壁まで歩くと、手をかざし、軽く左右に振る。――――たったそれだけで土壁は跡形もなく消え去った。これで人攫いのアジトに突入する準備万端だ。


「……事情が変わった。それだけだ」

「何さ、その事情って! わけ分からない!」

「仲間でもなんでも、隠し事の一つや二つある。お前だって俺に隠していることあるだろ」

「うっ……それは……」


 痛いところを突かれたと顔を顰めた。確かにセノディアの記憶を想起させるような発現はなるべく控えるようにしているし、彼にそれを突っ込まれても「内緒」を貫き通している。それも全てセノディアの為なのだが詳細を省いて追及を避け続けてきたアトリアからすれば、そういう意味では隠し事をしているのに違いなかった。


「……説明してる時間が惜しい。おいアトリア、誰か来たら何か合図くれ。頼んだぞ」

「え――――あちょっと! セノ!」


 自己完結した口ぶりで無理矢理その場を治めると、セノディアは暗闇を飛び出して地下へと続く階段へ走り出した。アトリアは反射的にそれに続いて走り出そうとするが――――。


「――――お主はこっちじゃ」

「リリーちゃん!?」


 それを物理的に止めたのはリリーだった。

 彼女は、モミジの頭を撫でながら、空いた手でアトリアの腕を掴んでその場に引き留めていた。アトリアは振り解こうとするが、こぢんまりとした体格に見合わない万力のような怪力によりその場を固定されたかのように動けなかった。


「ちょっ……どこにこんな力が……!」

「《魔王》の力を舐めてはいかんぞ」

「も~乱用しないでよ! ここでセノ一人に行かせるなんて無茶だよ! 僕たちも行かないと!」

「ほお……さっきはお主一人で行こうとしたのにかえ?」

「それはそれ! これはこれ!」

「クカカッ! 男なら自分の言ったことに責任を持つべきじゃがの?」

「……男なら、ね。今の僕は女!」

「お主は都合の良いときだけ口が回るのう、セノにそっくりじゃ。……さて、今のモミジの精神は不安定な状態じゃ。妾も、《モーフ》を使ったせいで疲れておる。お主だけが頼りじゃ……くれぐれも、警戒を怠るでないぞ」


 今、誰かに襲われたときに対処できるのは自分だけ――――そう頼られたら断ることはできなかった。


「ハァ……。もう分かったよ、ここは折れてあげる。でも、セノとの間に何か別の約束事があったことくらいお見通しだからね。後でちゃんと説明してもらうよ!」

「ほぉ、なぜ誓約があったと言い切れる?」

「女の勘!」

「カカッ! あやつに秘めたる胸の内を伝える度胸のない男装の生娘がよく言うわ」

「それは関係ないでしょ!」


 自分が憎からず思っている相手を槍玉に挙げられたアトリアは、しゃくりあげ、涙と鼻水の垂れるモミジの顔をゴス服を汚さないように気をつけながらハンカチで拭った。



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