表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険がしたくって  作者: trustsounds
第二章
92/139

スニーキー(3)


 半透明に透過した土壁は、数十秒も経つと完全に空気に溶け込むようにして消え失せ、地下へと続く階段がハッキリと見えるようになっていた。

 全員驚きのあまり言葉が出なかったが、それは幸いだった――――。


「――――あ~肩いてぇな」

「――――部屋が狭ぇんだよ。もっと広くしろっつの」

「――――ついでにアイツが酒をがぶがぶ飲むから全然足りねーよ」


 その階段から、屈強な体つきの男達がゾロゾロと出て来たからだ。ここで声を出していたら彼らは木箱の暗闇に隠れる冒険者達に気づいていただろう。

 男達は全員が身を隠すように黒いマスクと黒いマントを着用していた。闇夜に溶け込む格好のようにも思えるが、日中なら職質待ったなしの不審な服装。一目でアウトローと判別できる装束だ。


「……静かにしろ、お前達」

「へーい」


 そして最後の男が窘めながら出てくると同時に、壁は再び土壁へと元通りに戻っていく。原理こそ不明だが、あの土壁は種も仕掛けもない代わりに魔法で隠されていたのだ。リリーは最初から壁がまやかしであると見抜いていたが、兵士達の手前言い出せなかったということは常人の知る由のない魔法の類なのだろう。


「ようやく見張りからOKが出たんだって?」

「あぁ、俺達を付けてた奴らが諦めて帰って行ったんだとさ」

「昼間の奴らと言い、今回はしつこかったな……」

「あぁ……。ちょっと表通りで仲間が面倒を起こせば、王都の兵士達はそっちに気が回ってくれるけどよ、冒険者共はそうは行かねぇからな。幻の壁を見抜けない馬鹿ばっかで助かるぜ」


 その言葉を聞き、リリー以外の面々はなるほどなと納得した。

 どこかに見張りがいて、ソイツが自分達を監視していたらしい。このままここで、どれだけ自分達が待ち伏せしていたとしても、見張りの目を欺かなければ土壁が消え去ることは無かっただろう。それを見越した上でリリーは一時的に幻影を作りだし、歩いてきた道を辿らせ、自分達に木箱の影へ隠れて動くなと命じた。そうすれば幻影が消え去ると知っていたからだ――――。

 また、男の口ぶりから察するに兵士達も既にここを探索していたことが窺える。

 一度探して諦めた所は二度も三度も探さない。心理的で初歩的なテクニックだが、兵士達には効果的に働いたようだ。特に今の時期は、不自然なくらい王都の二大ギルドがピリピリして、いつ喧嘩が起きてもおかしくない緊張感が王都に蔓延している。そして意図的に喧嘩を勃発させることで兵士の眼を誘導し、時間のロスが王都の兵士にとって許されないという心境を上手く利用されたのだろう。


「にしても、俺達はいつまでこんな下っ端みたいな事させられんだろうな」

「知らねっつーの。あーあ、俺も早く『組』の幹部に昇格して楽してぇ~。『組』の幹部アレらしいぜ。週に一回は『竜の肉』食ってるんだってよ」

「マジか!? 俺達が精々贅沢しても赤狐の肉が精一杯だってのに……。近場の森で大量に取れる安物の《フォレストウルフ》や《ブラッドバット》の干し肉から卒業してぇなぁ~」


 男達は呑気にだべりながら、セノディア達の隠れている木箱へと近づいていく――――。


「フゥー……フッ……!」


 モミジは心臓が出そうなほど緊張し、些細な吐息すらも漏らさぬよう口を押さえた。彼らのいる影は周囲と比べると不自然なほどにまで暗い。


 一本道で、木箱の横を通らないという選択肢はない。


 一度でも視線が向けられれば探られて見つかるだろう。


(頼む……頼むッ……!)


 アトリアは必死に念じた。このまま何事も無く過ぎ去れと――――。


 冒険者達は息を潜め、男達が通り過ぎるのを待った。



「――――でもよ、今回攫った中にはエルフのガキがいるから幹部昇格も夢じゃねぇかもな!」



 だが、男の言葉により緊張で張りつめていてた空気が一変した――――。



「あぁ、あの尖った耳でたっぱのあるガキか? あんま見たことねぇ種族だから攫ったときはエルフだって分からなかったぜ」

「お前、エルフっつったら金髪碧眼で、おまけに身長も胸もそれなりに育つし、めっちゃ高いプライドで有名だぜ!? しかも閉鎖的な種族だからあんま市場に出回らなくて希少価値高ぇんだぞ!? しかもドワーフ以上に長命と来たもんだ。あーあ、攫わないであの場で犯して俺の物にしちまえば良かったなぁ」

「俺はドワーフの娘が可愛かったな~。何だかんだ言って、最終的にちっちぇ子を犯すのが良いんだよ」

「お前ら、よく異種族に欲情できるよなぁ……。俺無理だわ。異種族マジ無理。人間じゃないってキモくない?」

「いやいやいや、人間じゃ絶対に味わえないあの肉感が良いんだよ。ちっちぇあの体を物みてぇにすんの。大人になってもちっちぇから、征服感満たされて最高……。処女は犯すなっつー決まりさえなければなぁ……何で全員処女じゃないとダメなんだよ」

「そりゃオメェ、商品価値が落ちるからに決まってんだろ。……俺はよ、ちっとは落ちても良いと思うんだけどな?」

「だよな! 俺達にだって正当な報酬を受け取る権利くらいあるよな!?」

「……馬鹿言ってんじゃねぇぼんくら共。んな事したらお頭に首バッサリされんぞ。さっさとお得意さん迎えに行くぞ」

「「「へーい」」」


 卑俗な会話をしながら男達はセノディア達に気づかないまま、一本道の路地を歩いていった。


「クッ……クカッ……!」


 やがて男達の姿が見えなくなると、リリーは堪えていた含み笑いを少しずつ放出する。


「人間は全く進歩しとらんのぅ……。いや、異人族を受け入れる人間が増えてきているだけ進歩しとるのか。クカカッ……!」


 誰に聞かせるでもない独り言からは、怒りでもなく、悲しみでもなく……"呆れ"――――。

 魔王からの視点で、ただ『人間』という種族にあきれ果てていた。


「うぅッ……くッ……うぐっ……」


 その横ではモミジが肩を震わせていた――――。

 モミジは今にも泣き出しそうだったが、必死に嗚咽を押し殺して耐えている。自分の種族を言いたい放題言われ、挙げ句の果てに道ばたのゴミと等しく扱われる同族がいる。不安に押しつぶされ、悲観に暮れ、囚われた同族に同情し、悲しくて悲しくて仕方なかったが、それでも為すべき事のために歯を食いしばって耐えていた。

 だが異人族差別を受けてきた前例があるだけに、言葉のナイフに抉られた傷口は深く、これが現実で起きていることなのか――――それとも悪夢なのか。

 目眩がし――――前後不覚に陥っていた。


「フゥーッ……! フゥーッ……!」


 逆にアトリアは哀愁や悲観よりも、鬼が裸足で逃げ出すほどの憤怒の形相であった――――。

 息が荒く、ギリギリと歯ぎしりし、剣の柄を握る手に力が入る余りに血流が止まって真っ黄色になっている。持ち前の正義感に、ドワーフ族のモミジが自分達のパーティにいることも相まって、怒髪天を衝いていた。

 それに男達が、持て余す劣情をぶつける《道具》にしか見ていないことも逆鱗に触れた。アトリアはセノディアの記憶を刺激しないよう男装をし正義感が強いが、心の奥底では理想を掲げ、恋に恋する夢見がちな年頃の女の子だ。論理的に、生理的に、彼らを嫌悪するには十分すぎた。


「しーッ……静かに……。我慢しろ二人とも……」


 それで、二人が感情に身を任せて飛び出さなかったのは、セノディアに肩を押さえられていたからだった。最も彼も最初は斧で切りかかろうと身構えていたのだが――――。

 普段から冷静なリーダー役を務めているが、彼とて人である。アトリアほど激情家ではないし、モミジみたいに素直に感情を表現できないが、まだまだ17歳と世間的に見れば多感な若造だ。

 それに彼には兄の娘である姪がいるので、攫われた家族の気持ちが痛いほど理解できる立場にあったし、アトリアと同じく、モミジの種族であるドワーフが『異種族』として気持ち悪がられていることにブチギレていた。

 それでも我慢できたのはパーティリーダーとしての矜持だった――――。

 それにまやかしの壁が消える前にリリーと約束した。『絶対にここから動くな』と。

 この二つの枷が無ければ、スヴェンに明確な殺意を抱いたとき同様、あの男達に躍りかかって斬り殺していただろう。


「……アジトの出入り口はあそこだって分かった。それだけでも収穫だ。だから落ち着け二人とも……。一度この情報を持ち帰って、メーラさん達に話そう。そうすれば全部あっちで解決してくれる――――」

「ダメだよそんなのッ! あいつら"お得意さん"を呼んでくるって言ってたんだよ!? きっとこれから売られちゃうんだ……時間がないんだよ!」

「時間は無いけど、それ以上に俺達には地力がない! 色んな子供が攫われているだろう、捕まってるのは獣人族の少年だけじゃない、もっとたくさんいる……俺達だけじゃ助けきれない……ッ! 餅は餅屋に任せておけ……。俺達みたいに、モンスター狩りをメーンにしてる冒険者じゃ余計に混乱を招くだけだ」

「足手まといだとかそんなの関係ないよ! あの中には奴隷にされそうな子がたくさんいるんでしょ!? だったら余計に助けてあげないと! 手遅れになる前に!」

「助ける前にアイツらが戻ってきたらどうすんだよ! 俺達全員殺されたらここの情報すら誰にも伝えられずにパァだろうが! これだけはパーティリーダーとして譲れねぇ! リスクが高すぎる!」

「セノの人でなし! じゃあ僕だけで助けに行く! セノ達はさっさと王城にでも行けばいいじゃん!」

「お前一人残して帰れるわけねぇだろ!」

「またセノはッ!! セノは……そう、セノは……――――。……セノがそうだから僕は……また甘えて……」


 両者一歩も譲らない主張はヒートアップし加速していくかのように思われたが、頭に血が昇っていたはずのアトリアは、自分が再三我が儘を言っていることに気づいて失速していく。

 自分以外の三人はこの件に関与する気は更々無かったのに自分の身勝手に『パーティとして』付き合ってくれているのだ。特にセノディアには過去に何度も迷惑をかけているし、忠告もしてくれた。それを思い出して尻すぼみになったのだ。

 しかし自己嫌悪に浸って項垂れている時間はない。このままここで言い争っても埒が明かないどころか"お得意さん"とやらを迎えに行った男達が帰ってきてしまう。どうするべきか判断を下すタイムリミットは刻一刻と迫ってきている。

 だが、全員が頭を悩ませていた中で――――。



「クカカ……ならばお主だけが行ってくればよかろ? のぅ――――セノディアよ」



 ――――すんすんと泣くモミジを抱き寄せ、慰めていたリリーが活路とも言える一石を投じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ