スニーキー(2)
「うわッ!? マジかよすげぇ!?」
「えッ、なにこれもう一人のリリーちゃん!?」
「す、凄い……凄いです! 《モーフ》まで使えるなんて……私初めて見ました!」
セノディアとアトリアは、唐突に現れたもう一人のリリーに驚愕を禁じえなかった。モミジはリリーの魔法によって姿が隠されて見えないが興奮しているのが分かる。
「モミジ、これそんなに凄い魔法なのか?」
「は、はい! 《サポートマスタリー》が適正の魔法なのですが、爪や髪の毛から生きている人物を複製する魔法です。それをここまで使用者に似せるのは相当な練習を積んでいたハズですよ。原則として喋れはしないけど、泥の汚れから爪の長さまで凄いそっくりで……」
「……」
モミジも《モーフ》という魔法の存在だけは知っていたようだが、リアルで初めて見たために少々興奮気味だ。彼女の言うとおり《モーフ》は生者限定に使える魔法であり、その時の姿形を実態を伴って生成することができる。ただし原型に似せるためには何度も何度も繰り返し使って精度を上げなければならず、一朝一夕ですぐに使えるようにはならない上級の《サポートマスタリー》が適正とされる魔法だ。
その間も幻影は一切の反応を示しておらず、微動だにせず突っ立っている。一切の自立行動が禁じられているようだ。
「それに……それに、ここまでの姿形を維持するためには膨大な魔力が欠かせません……。本当に凄いですリリーちゃん……」
「……モミジ?」
最初の方こそ元気に解説していたモミジだったが尻すぼみになりつつ解説を終える。セノディアは、彼女の声色には絶念と悲観が混じっているように思えた。その声色にどこか既視感を覚えたが、直ぐに"ある事"に気づく。
「――――っていうか膨大な魔力って、リリーお前ッ!」
「クカカッ! 何じゃ、これくらいの魔力くらいけちけちせんでもよかろ。それに、妾の方法に口出しせんと『約束』したではないか」
「いや、そりゃそうだけどさ……」
「ならば大人しく黙って見とれ」
魔法を使ったリリーに対して、釈然としない様子で口角泡を飛ばすセノディアだったが、確かに先ほど口出ししないという約束をしてしまったので、彼は何も言えなくなりそのまま黙ってしまった。
「どうしたのセノ……?」
「セノディアさん、《モーフ》を使っちゃダメでしたか……? 何か不都合でも……」
何か言いたげなセノディアに、事態を飲み込めない二人は怪訝そうな顔でのぞき込む。彼は何を咎めようとして焦っていたのだろうか、と。
「――――……何でもない。《モーフ》に驚いただけだよ。それよりリリー、こっからどうすんだ」
腑に落ちない二人を差し置いて、セノディアは罰の悪そうな顔をすると無理矢理大元の会話にシフトした。
これによって、アトリアとモミジは自分達に隠し事をしていると、そう判断するには十分だったが、当の本人が探られるのを拒むような空気を醸し出しているため、二人はそれ以上の追求はさけてしまう。
それに二人にとっても、リリーがここからどうするかの方が重要なのには違いない。
「三人とも髪の毛を一本抜け。お主らの《モーフ》も出さねばならん」
これに三人とも了承し、髪の毛を抜き取ってリリーに手渡した。最も、リリーも木箱の影に隠れていたため彼女自身の魔法で産み出した暗闇に包まれていたおり、手渡すのに苦労はしたが――――。
四苦八苦しながらそれを受け取ると、すぐに《モーフ》を唱えて三人の幻影を創り出す。
これで新米冒険者一行全員の《モーフ》が路地裏の石畳に 現れた。
「出来映えは……まぁまぁかの。ま、欺くには十分か……」
独り言を呟いたリリーは、歩いてきた路地を指さすと「行け」とだけ命令を出した。四人の幻影は、コクリと頷いて無言のまま路地を歩いていく。
三人はリリーが何をしたいのか意味が分からなかったが、すぐに効果は表れた。
「あ……マジか! おいアレ……!」
セノディアは袋小路の土壁を指さした。その指はリリーの産み出した暗闇で見えない事が分かっていたが、それでも反応せずにはいられなかった。
彼が示したのは、何か仕掛けらしき物がないかくまなく調べた突き当たりのあの『壁』だ。
「え……?」
「あっ……!」
モミジとアトリアは釣られて目線を向けると――――なんと土壁が薄く透けており、地下へと続く階段らしきものが透過されていた。




